第5話 弟子の器。そして…。

「やったね…ケルト君…!!」


 優勝を果たした彼に駆け寄って、抱き着いたのはアンだった。観客たちから熱い拍手と、賞賛が上がった。これまでの努力をずっと見てきた彼女。それは非常に感慨深いものだった。


「アンさん…ありがとう!!これで大将にも顔向けが…」


 久し振りに見たケルトの笑顔。こうして数多のピザ職人の頂点に立った。これなら親分にも堂々と褒めてもらえる。しかし、そう簡単にはいかなかった。


「ケルト」


 背後から呼び止めたのはテッペイ親分だった。特訓を繰り返すケルトを陰ながら見ていた、もう一人の人物である。


「お父さん、これで認めて…」

「馬鹿野郎!!お前という男は、まだ身の丈が分かってないな!!」


「ちょっと大将!?そんな言い方…」

 駆けつけたハニービーが割って入る。


「この程度で慢心するから、お前は駄目なんだ。俺以上の才能がありながら…」


「えっ…た、大将?」


 大将のいつもと違う態度に戸惑う周囲、そして大将は続ける。


「職人というものは、永遠に上を見据えておらねばなん。…それは俺だって例外じゃない。このまま優勝の余韻に浸り、努力を怠るような真似を取るようなら即刻破門だ!!」


 師テッペイの激しい態度はケルトの将来を見据えての、あえてのものだった。少々、度を越えているような気もするが…。


「いいか?お前はこの国の枠で収まる器じゃない。店は俺に任せて、世界を回って見聞を広めてこい。アンは…連れて行ってもいい」


「師匠…ありがとうございます!!肝に銘じ、精進します!!」

「お父さん…ありがとう!!」

「くーっ、粋じゃないの、大将!!惚れ直したわ!!」


 こうしてフェスティバルは終了し、数か月後、ケルトとアンは騎士団の警護の元、武者修行に旅立った。


 それから数日後、今日もラプラスとハニービーはニッキーハウスのピザとワインに舌鼓を打っていた。


「はー…しばらくはケルト君のピザ、食べられないのねー」

「まあ、さらなる成長を祈ろうじゃないか」


「それにしても…お客、ちょびっと減った?」

「ウェイターが大将のコワモテだからね」

「アンさんが抜けたのは超痛手だったか…」

「何か言ったか、そこ!!」


 後にケルトとアンは西大陸一のピザの本場のイスリトリアス国の大会にて、堂々二連覇を果たし、故郷に錦を飾ることになる。


 今日もニッキーハウスは大繁盛。ピザ窯の薪の香わしい香りと、笑いの絶えない昼下がりが平々凡々と過ぎていった。

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マルゲリータに愛を込めて はた @HAtA99

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