第6話 エピローグ
数時間後、料理対決の会場。ケルトはアンの安否が気になって落ち着かない。それは、テッペイ親分も同じだった。そこは父親。普段にはない表情を見せる。
そしてネスに無事助け出されたアンが、会場に戻ってくる。そしてケルトを見つけると不安と安心が、ない交ぜになり涙でくしゃくしゃになる。そして、
「よかっだ~~~ゲルトグんおどうざん~~~!!」
「アンさん!!無事で…無事で良かった!!」
「アン!!良かったケガはないか!?」
アンは駆け寄る。ケルトとテッペイ親分は、手を広げて抱きしめようとする。アンはテッペイ親分を無視して、ケルトに抱き着いた。会場の客から拍手が起こる。
「…ええー…」
親分は悲しかった。これはもう、二人の関係を認めざるを得ないか?男手一つで育てた娘を手放す、父親の苦悩があった。だが親分は納得がいかない。
「あ、料理対決はどうなったの!?まさか…」
「大丈夫。ちゃんと優勝したよ。特訓に付き合ってくれた君のおかげだ。ありがとう!!」
アンはケルトの勝利の報告を受ける。こうしてフェスティバルは終了し、ネスも新たな美食を求めフロントスを去った。十二剣王も息も絶え絶え戻ったが、
「申し訳ありません…敵の計略にはまり、アンさんを危険な目に合わせてしまい…」
「ネスさんが来国していなければ、どうなっていたか…」
だが大剣王は諫めない。
「…我々も平和ボケしていたのかもしれない。まだまだ学ぶことが多いな…。これからも一層の鍛錬が必要だ。ラプラス兵長、肝に銘じて精進してくれ」
「ははっ!!」
ハニービーが腕のケガを押して、ケルトたちに駆け寄る。これでニッキーハウスも丸く収まり、親分もケルトを一人前と認めてくれるはずだ。
「大将!!ケルト君頑張ったよね!?これで…」
「そうよお父さんこれで立派な職人に…」
アンもそれに乗ってテッペイに詰め寄る。しかし、
「甘い!!まだ職人と認めるわけにはいかん!!」
「ええっ!?」
「お父さん…何でそんな頑固な態度を…」
テッペイは頑として認めない。ケルトにはまだ職人とは、何たるかが分かっていない。それは腕の問題ではなかった。親分は語りだす。それはいつになく、温厚な声だった。
「いいか?確かにお前の腕は、この国でも有数のものだ。だがお前は、それに甘んじて上を見ないことがある」
その点はケルトも思い当たる節があった。
「職人と言うのは常に上を見なければならん。儂だって今でも向上心は捨てておらん。それを何だ、お前は。儂と並んだくらいで慢心しおって」
さらりとケルトの腕を認めた親分。それも肩を並べたと賞賛している。向上心。何事においても重要な心構えだ。親分は内心ケルトの腕を高く買っていた。
「お前は儂より遥かに高みを目指せる、若さと才能がある。それは儂が太鼓判を押してやろう」
「お父さんそれって…!!」
ケルトは気弱なくせに実は内心、プライドが非常に高い。親分はそれを見抜いており、まずはその鼻を折るところから始めたのだ。ケルトは親分の心の内を知り、驚嘆、恐縮する。
「今回の大会に向けての特訓で、自分の限界と思っていた腕が、更なる高みに上がっただろう。お前に足りないものは勇気ではなく向上心。それに気づいたんじゃないか?」
ケルトの特訓を見ていた人影。それは誰あろう親分だった。その上達の様を見て決心をする。親分はケルトの肩を叩いた。いつもの豪胆なものではなく、優しかった。
「いい機会だ。店は儂に任せお前は世界を回って見聞を広めてこい。世界は広いぞ?お前のレベルの職人は、それこそ星の数ほど存在するからな。…まあ…娘は…連れて行ってもいい」
「親分…ありがとうございます!!精進します!!」
「お父さん…素直じゃないんだから…」
「よがっだねぇ~~~いいばなしだぁ~~~」
この美談に何故か、ハニービーが号泣して涙を流す。この手の人情話に、彼女はめっぽう弱かった。そこで王国は、彼らを全面的にバックアップすることを決めた。
この瞬間こそ親分が、ケルトとアンの仲を認めた瞬間だ。会場中が彼らを賞賛し、まるで結婚式かのように盛り上がりを見せ彼らを祝福した。…本当に結婚しちゃえよ、もう。
そして半月後支度を整えたケルトとアンは、騎士団の警護付きという異例の待遇で、武者修行の旅に出た。親分の言う通り世界は広く、学ぶことが無数にあった。
後にケルトとアンは、西大陸一のピザの本場のイストリアス国の大会にて堂々二連覇を果たし、故郷に錦を飾ることになる。だが、それは当分先の話だ。
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
それから数日後、今日もラプラスとハニービーは、ニッキーハウスのピザとワインに舌鼓を打っていた。だが、どことなく哀愁がある。美味しいんだけど…
「はー…しばらくはケルト君のピザ食べられないのねー。あれからどれだけ上達してるかな?」
「そうだなぁ。彼ならきっととんでもないことになってるさ」
「それにしても…お客さん、ちょびっと減ったかな?」
「ウェイターが大将のコワモテだからねぇ…」
「アンさんが抜けたのは超痛手だったかー…」
「何か言ったか!?そこ!!」
横目で茶化すラプラスとハニービー。それを真に受けて、親分は憤慨する。その様子を見て店中の客が大笑いしていた。…まあ、その点はまだ耐えられるだろう。
確かにニッキーハウスは繫盛は繁盛なのだが、殺風景な気がしてならない。アンの看板娘としての効力は甚大だったようだ。強面の親分がウェイターも兼ねると…悲惨だ。
まず、この店に必要なのは花を添えるウェイトレスを雇うことらしい。今日もピザ窯の薪の香わしい香りと、笑いの絶えない昼下がりがゆっくりと過ぎていく。
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