第3話 メインイベント開幕
その頃、別の所で動きがあった。フェスティバルでのニッキーハウスの対戦相手の件である。国はかの店に対抗しうる、天才たちの運営する三店を、候補に挙げていたのだが。
「集まったかね、諸君」
そう切り出したのは大手のピザチェーン店ジョルジュリータのサンドルマンCEOだった。国の候補に挙げた各店のトップ、三人を呼び集めていた。
創作ピザのアインハーフ、オーソドックスなニッキーハウスのピザに似ているであろうバルゴピザ、そして最も肉薄するであろう、前回準優勝のセブンフィート。
サンドルマンはこの大会に合わせ、裏で買収し、談合してニッキーハウスを潰す計画を立てていた。彼らはニッキーハウスには、商売敵として皆、煮え湯を飲まされていた。
「正直、癪だが、ニッキーハウスが相手となるとな…」
「ニッキー一強時代はもう終わりにしないとな、ふっ」
「おうよ!!弟子入り志願を断ったことを後悔させてやるよ!!」
「え…?そうなの?」
こうして三店は結託し、ケルト包囲網が着々と進められていた。そしてついに、フェスティバル当日を迎えることになった。彼らには何やら裏の秘策があるらしい。
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
こうして始まったフェスティバルは、他国からの観光客も大勢集まり、大盛況の大成功。ピザだけでなく、ケバブに、東国の屋台飯、ヤキソバやポテトフライ。
内陸国であるフロントスでは珍しい海産物も、新鮮なまま振る舞われた。冷凍魔術の技術の進歩は、目覚ましいものがあるようだ。急速冷凍が肝らしい。
暑い日差しもあってか、ドリンク類もよく売れる。アルコールが入れば治安も悪くなりそうだが、そこは剣の国。今日は騎士団が見回りを実施していた。
祭中も治安は大変良く、ゴミなど捨てようものなら…。…考えただけでも恐ろしい。だがそこに、十二剣王の姿はない。彼らはメインイベントの審査員を務める。
「やっぱりニッキーの牙城は崩せないかな?」
「いやいや、何が起こるかわからないのが、勝負の世界だろ?…でも、やっぱりニッキーは贔屓しちゃうかなー」
「おいおい、くれぐれも審査は公平にしなきゃ」
十二剣王たちもここぞとばかり、興奮している。はじめはその予定はなかったのだが、最高峰のピザが並ぶと来れば、権力を行使してでも食べてみたい。彼らは食欲には正直だった。
そして、陽が真上に上がるころ、ついにメインイベントの時間が迫ってきた。メイン会場は普段、闘技場として使われるバモス闘技場。観客は満員御礼だ。
ニッキーハウスをはじめ、四強が揃ったことに皆、興奮が隠せない。ちなみに殿堂入りしているテッペイ親分は、審査員側に回る。壇上からケルトを睨んでいる。
これがプレッシャーにならないわけがない。だが、ケルトは声援に応える力はあるはず。その証拠に、親分の視線にも全く気後れしていない。これはイケる!!
そして、運営委員会はこの日のために、最強の審査員を招待していた。この日のために国賓待遇で、遥か西の国から呼び寄せた。その人は食の審査の神様である。
「やあ、ハルバードさん、久しぶりだね」
「ネス君、今日はよろしく頼むよ」
ネス・ストラーダ。
世界でも三本の指に入る剣士ながら、世界最高峰の舌を持つ美食家としても知られる。赤い髪に、赤のシャツとだぼっとした黒のパンツ。相当のイケメンだ。腰には黒い木刀を下げている。
そして、世界一のグルメガイドブック「ネスランガイド」の創始者、編集長も務めている。とてもすごい人物には見えないが、彼の一言で店の存続が左右されるほどの、影響力を持っている。
今回のゲストには運営側もホッとしていた。その要因は国の頭首、大剣王ハルバード。彼の味覚音痴のほどは凄まじい。偏食家でもあり、嫌いな食材は数知れず。
レタスをキノコの味と表現したり。柔らかジューシーな最高級ステーキを油の塊と言って、店主の前で吐き出して、店を出禁になるほどである。
国を挙げてのお祭りだから、国の主が審査委員長をやるのは至極当然だ。しかし、この男に任せるのは、それ以上に危険であった。この国の沽券にかかわる。
このことは十二剣王を含めた上層部の満場一致で、審査員から排除する決がとられた。今もなお、ハルバードは文句を言っているが、誰も聞く耳は持っていない。
「さあ、お膳立ては済んだわよ…」
「頑張れ…ケルト君!!」
「それでは第6回フロントス・グルメ・フェスティバル!!メインイベントを開催しまぁーーーーすッ!!」
こうして、幕を開けたフロントス王国のピザ専門店の正に4強の入場。歓声は凄まじい。闘技場での騎士団の公開模擬訓練の時より遥かに大きい。
十二剣王たちも前のめりになって観戦する。闘技場にはこの日のために、各店の代表のオーダーに応えたピザ窯が新設された。厨房のセットも完璧だ。
会場には、花火が上がり会場のテンションも最高潮。そして、選手たちが入場してきた。天気は晴天。まさに決戦に相応しい。談合した3選手は気合が違う。
そして、ケルトは…。えらく、落ち着いている。十二剣王たちは、自分たちが戦に入る時に似ていると賞賛している。これは、いい試合が見られそうだ。
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