第2話 親方を見返すための第一手
厨房から怒号が聞こえる。店主テッペイのものだ。いつにも増して、深刻な雰囲気と怒気を放っている。
「この程度の物をよく、お客に出せるな!!十年早いわ!!」
ケルトはぐっと我慢している。そこにアンたちが割って入った。
「お父さん!!ケルト君はもう十分な腕前でしょ!?何が気に食わないの!?」
「…アン。理由なら今、お前が言った言葉が全てだ。出直してこい!!」
「それと」
親分から赤黒いオーラが見える。
「娘は絶対にやらんからな…!!」
そして店の奥にテッペイは戻っていった。
一般人には大将の文句の意味が分からない。娘のアンも、店中のお客の頭の上にも「?」が浮かんでいた。
そこにラプラスと、ハニービーも駆けつける。
ケルトはいそいそと洗い物に戻る。その時、ケルトは自信を無くしたのか、それはそれは細い声で、
「すみませんでした、半端な物しか出せなくて…。お見苦しい所をお見せしました。あの…お代は結構ですので」
落ち込みながらケルトは皿を洗い出した。
「ちょっ…ケルト君…」
重い空気が流れる厨房。空気を変えたのは、いや、変えれるのはこの子しかいない。
「ケルト君、相談なんだけど…」
元気が取り柄のハニービーだけだ。ハニービーがにやっと笑いながら、一枚のチラシを取り出した。
「これに出てみない?」
フロントス・グルメ・フェスティバル。国中の料理店を集め、大きなお祭りを開催する。国を挙げての一大行事だ。
建国と同時に始まった、年1回のこのお祭りは今年で6年目。
そしてメインイベントに料理の対決コーナーがある。そのコーナーの料理に選ばれたのは、もちろんピザだった。二人はケルトに大将に対する自信を持たせるため、出場を提案した。
「僕が国を代表するこの大会に?いや…僕なんかが優勝できるわけが…」
やはり尻込みするケルト。しかし、三人は、
「何言ってんの!!お父さんを見返すチャンスでしょ!!」
「僕は優勝候補は君だと思ってるよ?ケルト君」
「今の君に足りないのは、きっと勇気だよ。大将も分かってくれるって」
三人の熱意はとても熱い。
普段は大人しくよそよそしいが、それに応えないほど、ケルトは薄情な男ではなかった。
「…わかりました。出ます!!」
わっと湧く店内。いつの間にか店中の客が厨房に集まっていた。
「よく言ったケルト!!それでこそ漢だ!!」
「大将の度肝、抜いてやんなさいよ!!」
「お兄ちゃんのピザ、僕も大好きだからね!!」
その期待を背に受けたケルト。それから終業後は特訓に特訓を重ねる日々が続いた。
そして、それをアンはずっと見つめている。
その二人に気付かれないように、もう一人。見ている人物が…。
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