マルゲリータに愛を込めて
はた
第1章 頂に手を掛ける弟子
ここは剣王が統べる国、フロントス。
昔は動乱の中、戦に次ぐ戦の毎日だったが、大剣王ハルバードの勝利により、今は平和な日々が送られている。そんなフロントスのメインのグルメはピザ。
この国ではピザがトレンドで、大衆役者から大企業のCEOまで、幅広く好まれている。今や観光資源として大いに貢献している一大産業だ。
王国の騎士団のトップの『十二剣王』その中の剣術指南役を務める兵長ラプラスと、副兵長ハニービーもピザの虜である。
訓練の打ち上げは必ず、ピザとワインと決まっている。そんな舌の肥えた彼らがひいきにしている店、ニッキーハウス。
店主の大将テッペイはフロントス・グルメ・フェスティバルで三連覇を達成、殿堂入りを果たしていた。
今日も、ラプラスとハニービーが店にやって来た。
「こんにちは、アンさん!!今日も食べに来たよー!!」
元気よく入店したハニービー。彼女は19歳という若さながら、十二剣王に選出された女の子。あどけなさはあるが、剣の腕は折り紙付き。短めのポニーテールが印象的で、その明るさから騎士団内のムードメーカーを務める。
「いらっしゃい、ハニービーさん。ここのところ毎日ですね」
「そりゃもう!!一度ここで食べたら、ここ以外のはもう食べられないって!!」
「こらこら、その熱意を訓練でも打ち込んでくれよな、ったく」
そう言うのは兵長ラプラス。プラチナブロンドの整った髪と、翡翠色の瞳が綺麗な色男。女性人気は騎士団一。浮いた話が無いのが、さらに人気に火を着け、盛り立てる。…いろんな意味で。
「こんにちは、ラプラスさん。何にします?」
看板娘のテッペイの娘、アンが尋ねる。
「そうだな、僕はマルゲリータ。バジル多めで」
「私はフォルマッジ!!ワインは白のリーベン産で!!」
「ふふっ。かしこまりました」
アンが厨房に伝えに向かい、十数分後、香ばしい香りを発しながら、マルゲリータとチーズ・フォルマッジが運ばれてきた。
「いっただきまーす!!」
「いただきます」
二人は熱々のピザを、口いっぱいに頬張る。
マルゲリータは口いっぱいにトマトの酸味とバジルの香りが広がり、良質のモッツァレラチーズが、その土台を支えている。
フォルマッジは特濃のチーズながらどこかさっぱり。チーズのコクと癖とのせめぎあいが面白い。今日も約束の美味を与えてくれた。しかし、
「ん?」
「これって…」
美食家の二人は、あることに引っ掛かった。
「どうしました…?」
「いやいや、めちゃくちゃ美味しいですよ?でも…」
「そうだな、これは…」
どことなくアンが不安そうに尋ねる。味が落ちたのではない。味の「質」がいつもと少し違う。いつものピザを「剛」と表現すると、これは「柔」の味。優しさが強いのだ。
『これ、焼いたの親父さんじゃないね?』
「正解です!!」
アンは流石と言ったテンション。二人は驚いていた。
「え!?てことは、これ…ケルト君が!?」
「おー!!大したもんだよ、そうか、ここまで来たかー!!」
テッペイは今も昔も、一人しか弟子を取っていない。今回出されたピザを焼いたのは、その弟子の青年ケルト。実直で一を聞けば、十を学ぶ天才職人だ。
「すご…。ついにこの域まで来たね!!やるじゃん、彼氏!!」
「か…彼氏だなんて、そんな…」
照れるアン。公言はしていないが、二人が恋仲なのは周知の事実。この店を継ぐのは彼しかいない。皆、彼の腕を見込み、成長を見守ってきた。しかし、
「馬鹿野郎!!」
厨房の方から、何やら怒号が響いてきた。
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