第犬餌1話 胡桃のひとりごと

 どうも、犬餌胡桃です。今日は私の高校から、いや、もう少し前からの憧れの人にして友達である玖凰冬奈さんとカフェでお茶をする予定です。


 水初は仕事があるらしく、丁度休みだった冬奈が私をお茶に誘い、今に至るです。


 冬奈が今日休みなのは昨日秘書である翔梨に「働きすぎだよ馬鹿。明日絶対に休めよ?」と凄まれて渋々休んでいるらしいです。


 そのエピソードを聞いた時、私は思わず笑顔になったです。いつもは「大丈夫だから気にしないで」とか言って誤魔化すのに彼氏の言葉だからか素直に聞いた冬奈の可愛さ。そしてそんな冬奈の性格を知っているからか強引にでも気遣う翔梨の優しさに。


 私は先程来たアイスミルクを一口飲む。前の女子会で冬奈が頼んでいたのでお試しで頼んでみたです。


 う〜ん……なんかコーヒーの方が美味しい気がするです。これが美味しくないと言うわけではないですが……


 と言うか、今は近くに人居ないし、まず心の中だし、普通の口調でも良いか。冬奈が来たらまた戻せばいい話だし。


「泰晴君と水初、いつ付き合うんだろ」


 最近気になっていることを呟いてみる。あの2人絶対両想いなのになんで告白しないの? どちらかがちょっと勇気出せば……!


 考えれば考えるほどむかついてくる。泰晴君、漢だろ! と思った事は数知れず。水初は多分泰晴君から告白されるのを待つつもりだろう。

 

 イラついた気分をアイスミルクを飲み干すことで落ち着かせる。


 冷静になった私はこれ以上イラつかないために別の事を考えるように意識する。


 ……て言うか今気づいたけど冬奈は仕事大丈夫なのかな? 仕事の量は私みたいなそこら辺の中小企業の平社員とは格が違うだろうし。しかも前に女子会で休み取ってたし……


 まあ私は全然大丈夫だけどね! 仕事の量とかあまり無いし! 底辺役職なので! ……悲しくなって来た。


 私は次にコーヒーを頼む。勿論ブラック。前に砂糖とかも入れてみたけど私には合わなかった。


 注文を終えた後、私は窓から外を見る。


 外は雲ひとつない快晴で、眩しい光が地面に降り注いでいる。今は6月なので結構暖かく、数ヶ月前のようにマフラーなどの防寒着を着ている人も少なくなった。


 私は入り口付近を監視しながら考え事を続ける。


 高校を卒業してなんとか職についたのが数年前。社会人になってから少し生活に慣れるまで苦労したものの、頑張ればなんとかなるの精神で行ってたら本当になんとかなった。


 その時にはもう冬奈は帰って来ていたので3人で遊びに行ったり、たまに翔梨や泰晴君と会ったりと社会人を満喫したと思う。


 水初と泰晴君は確かそれぞれの家業を継いだと聞いた。


 そう思うと、私はこの輪の中にいて良いのかと疑問に思う。


 と、そこで店員さんが私のコーヒーを持って来てくれた。ここは前の女子会でも使った店で、コーヒーがかなり美味しいと評判の店だ。


「こちら、コーヒーのブラックです」


「ありがとう御座います」


「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」


「はい、大丈夫です」

 

 店員さんが居なくなったのを確認し、私はコーヒーを一口。……うん、美味しい。


 この店は前に水初が街を歩いていた時に見つけた店で、スイーツやコーヒーなどは勿論。朝食、昼食、夕食セットが完備されていてコーラなどの子供でも美味しく飲めるドリンクもちゃんとある。更に料理の味は全て絶品。


 そんな全てが揃った店を水初が電話越しに大声で紹介して来て私も来店。見事にハマってから常連となったと言う訳である。ちなみに冬奈も大体同じ。


 あの冬奈のショートケーキを食べた時の顔と来たら! 可愛過ぎて写真に撮りました。多分光よりも早く写真撮ったと思います。


 待って、聞いて? だってさ、憧れの人、そして推しのホクホク笑顔が目の前にあって写真を撮らない人なんて居なくない? ……居ないよね?


 その写真を翔梨に送ったら「胡桃、ありがとう。お前は俺の親友だ」と送られて来た。やはりお前もだったか、同志よ。


 私はコーヒーをちびちびと飲んでいく。流石に一気飲みは死ぬ。


 ……こう思うと、やっぱり私は恵まれているのだな、と感じる。まあ過去はアレだったかもだけど今は凄く幸せだ。


 私の思いとは裏腹に、口には苦味が広がる。この苦味があるからこそ私はブラックコーヒーが好きなのだ。


 天国にいるお父さんに伝えたい。今、貴方の娘は幸せですと。お母さんと仲良く暮らしていますと。


 あの4人が居たからこそ、私は高校時代、そして社会人になってからも楽しかったと言えるだろう。


 私はコーヒーを飲み終えると、久しぶりに過去の苦い記憶を思い出そうと目を瞑るのだった。

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