第4話 社会へ出た3人の女子会

 風に吹かれ、コンクリートの道路に枯れ葉が舞う秋。体に当たる冷たい空気が私の体から体温を奪っていく。


「はぁ……はぁ……!」


 私、玖凰冬奈は全力である場所へ走っていた。時刻は13時33分。もう約束から30分以上も遅刻している。速く行かなきゃ……!


 数分後、目的地に着き、扉を開ける。カランカランと鐘の音が鳴り、肩で息をしながらも待っているであろう2人を探す。


「冬奈〜!」


「こっちです〜!」


 友達である水初、胡桃を見つけ、2人の対面の席へと座る。

 

「ごめんなさい、2人とも。遅れてしまって」


「大丈夫です。冬奈は忙しいと思うです」


「そうそう! 気にしてないよ!」


「……ありがとう」


 2人の気遣い、そして私は良い友達を持ったと言う気持ちに頬が緩む。日本に帰って来てから前よりも2人と仲良く慣れた気がする。例を挙げるとするなら胡桃と呼び捨てに出来るくらいの仲になった、とか?


「何か頼む? 私達も今頼もうとしてたんだけど」


「……じゃあ、アイスミルクにしようかしら」


「うん、おっけ〜。すみませ〜ん!」


 まだ少し荒い息を整えながら窓から外を見ていると、前から視線を感じた。


 私に視線を送っている胡桃へ視線を移す。胡桃の見ている所は……私の胸……?


「アイスミルク……だからあんなに大きくなったです……?」


 胡桃が呟いた言葉は聞こえなかったが心の声は聞こえた。……これ、どう反応するのが正解なんだろう……

 

「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」


「はい、お願いします!」

 

 店員さんが去ったのを確認し、水初は私を見て目を輝かせた。


「さて! 注文もし終わった事だし、女子会を始めよっか!」


「今あいつとはどうなんです?」


 あいつ、と言うのは翔梨の事だろう。どうと言われても……


「普通、かしら?」


「いや、もっと何かあるでしょ?!」


「何かって……例えば?」


 水初と胡桃は同時に顎に手を当て、唸る。仲良いわね、この2人。


『う〜ん……』


「出てこないのね——」


「手を繋ぐとか?!」


「ハグとか?」


「キスとか?!」


「待って待って。ちょっとペースが早いわ。それにここは一応カフェなの——」


「あとセック——」


「ここは一応カフェなのよ?!」


 公共の場でやばい事を言おうとした水初の口を手で塞ぐ。あ、危なかった……


「流石にそれはここで聞いちゃ駄目です。ていやっ!」


「いてっ! ご、ごめんごめん! ちょっとテンションが上がり過ぎちゃった!」

 

 あはは、と笑いながら胡桃に手刀を落とされた頭を抑える水初。……他のお客さん達に見られてる……本当に危なかった……


「……そこまでは行っていないわ……」


「そこまで、と言うと……キスはしたんです?」


「……高校の時に、1回だけ……」


 あの時を思い出し、顔が熱くなる。は、恥ずかしい……


 ……あれ? なんか水初と胡桃の拳に炎が見えるような……気のせいかしら?


「高校の時って、もう数年は経ってるよ?」


「水初、あいつをぶん殴りに行くです」


「うん、賛成。翔梨の顔に1発お見舞い——」


「お願いだから待って?」


 彼氏の体に少女のか弱い鉄拳がめり込むのをなんとか阻止する。多分、流石の翔梨も能力無しなら悶絶していただろう。お腹を抑えながら床に蹲る翔梨の姿が目に浮かぶ。


 それよりも、テンポが早い……本当に仲が良いわね、この2人。息がぴったり合って、いや、合いすぎていてびっくりしたわ。


「と言うか、そう言う水初はどうなんです?」


「え、私?」

 

 自分に来ると思っていなかったのか、キョトンとする水初。


 私もそこはかなり気になっていた。なので胡桃に乗ることにする。


 水初は泰晴君に恋愛感情を抱いている。同じ恋を経験した人として、そして友達として、応援したい。水初の恋もちゃんと報われて欲しい。


「泰晴君とはどうなの? あの感じなら両想いでしょう? それに、社会人になってからは同棲しているのなら少しは進展があっても良いと思うわ」


「あ〜……」


 だが、私の予想とは裏腹に、水初は気まずそうに目を泳がせた。何かあったのだろうか、と私と胡桃は首を傾げる。


「私もそう思ってアピールはしてるんだけどねぇ……」


「どうなんです?」


「……全然、意識されてなさそうな気がするんだよね……全部華麗にいなされてるって言うか」

 

 先程と同じように胡桃の拳に炎が宿る。この感じ、まさか次は……


「あいつの次は泰晴君ですか。ぶん殴ります」


「ああ待って待って! 泰晴を殴らないであげて!」


「……胡桃、私も手伝わせて」


「冬奈までそっちに行っちゃったら私には止められなくなっちゃうよ!」


 そして、私達は笑い合う。高校の時のような笑顔で。でも、少し違う笑顔で。


 あの高校に少しだけど通えて、良かった。そして、この2人と。翔梨と泰晴君に会えて。こんな私を認めてくれるような人に出会えて。


「私は、幸せ者ね」


「うん、どうしたの冬奈? 急にそんなこと」


 その後も女子会は続いた。


※※


「なあ、泰晴……」


「なんだ、翔梨……」


 俺、桜井翔梨は今日も泰晴とゲームをしている。けど、何かおかしい。今日は確かに少し肌寒い。だが少しだ。けど——


「今日、なんかめっちゃ寒くない……?」


「ああ、俺もそう感じていた……特に、身の危険を感じる……」


 なんでだろう……俺のお腹が危険信号を発しているような……?

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