座敷わらし

 じいちゃんの影響えいきょうつよかったとおもう。


 じいちゃんはにも、まるで近所きんじょどもとせっするように自然しぜんだった。だからぼくも、出会であったとしてもひとはなすのとわらない感覚かんかくてたのだろう。


 じいちゃんの四十九日しじゅうくにち法要ほうようで、僕のとなり座布団ざぶとん何故なぜかぽっかりいていた。旧家きゅうかひろ座敷ざしきも人がひしめきうようで、座布団がりないと親族しんぞく右往左往うおうさおうしていたはずなのに。


 おきょうはじまると同時どうじに、ぼんやりと、そこにおんなの子があらわれた。

 おかっぱで、あか和服わふく似合にあう6さいくらいの子。


 ツンツンと僕のそでく。


『なあなあ』


 ん? なに?


 お経の邪魔じゃまをしないよう、こころ会話かいわする。


かえってこんのか? てては帰ってくるようじゃけど』


 いまはまだ、ね。


『帰ってくればいいのに』


 めたんだ、目標もくひょう


『もくひょう?』


 じいちゃんがのこしたかったもの、まもりたかったもの、それをつないでいこうって。


『そんなもんにせんでええ。いっしょにあそべればいい』


 そう? でも、むらから人がえたり、もりが消えたりしたら、きみもいやでしょ? そうならないためにはどうすればいいか、もっとまなんでくるんだ。僕にとってもかけがえのないものだから。


『それがわれば帰ってくるのか?』


 もちろん。じいちゃんにちかうよ。きっとじいちゃんもそれをよろこんでくれる。でしょ?


『そうだな! なら、っとるぞ。わっちも、みんなも』


 うん。ありがとう。


 僕のこたえに満足まんぞくしたのか、にっこり微笑ほほえんだ女の子。

 そのあと、お経の間中あいだじゅういたずらしてまわっていたのにはハラハラしたけど、お経のわりとともにすぅっとえた。


 ▼▼▼


座敷ざしきわらし」


 岩手いわて中心ちゅうしん東北地方とうほくちほうつたわる、いえ守護神しゅごしんともされる童子どうじ(子ども)姿すがた精霊せいれい例外的れいがいてき秋田あきたにはすくないとされるのは、秋田の三吉鬼さんきちおに妖怪ようかいのたぐいをけないためといわれている。


 その地方ちほうゆたかな家、代々だいだい旧家きゅうか座敷ざしきくらく。家人かじん以外いがいにはちいさな子どもにしか姿を見せず、足音あしおとや、いたずらだけをのこすという。


 家をさかえさせるよりは、栄えている家をこのむとみるべきかもしれない。火事かじ消火しょうかたすけるとか、座敷わらしがていけば家が没落ぼつらくするというが、寝床ねどこの家(蔵)で放題ほうだいしているだけで、没落するからげ出すともいえるので。


 家に類似るいじの精霊は東北だけでなく全国ぜんこくでみられるが、おそなものをしていないといたずらされる、逃げ出すなどとされるところは、ヨーロッパの家憑いえつ妖精ようせい(イギリスのホブゴブリンなど)にもつうじるところがある。


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