竜宮城

つたえにはつづきがある」


 と、龍神池りゅうじんいけ伝説でんせつ後日談ごじつだんをじいちゃんはかたってくれた。


 いずみ管理かんりまかされたとはいえ、いえ貧乏びんぼうなままだった。それどころかみず分配ぶんぱいをめぐってあらそいもき、その仲裁ちゅうさいをさせられることにのこされたいえのものはつかてていた。


「ああ、いっそすべてをほうしたい」


 泉のほとりでなげいていると、なんとりゅうよめとして生贄いけにえになったむすめてきた。あれからもう世代せだいうつっているのに、わかい娘の姿すがたのままだったという。


苦労くろうをかけていますね」


 みちびかれると、泉のそこはなんと竜宮城りゅうぐうじょうだった。

 その主は龍神りゅうじんであり、娘の旦那だんなであった。仲睦なかむつまじい夫婦ふうふであった。


大変たいへんおもいをさせてすまない」


「とんでもない!」


 娘のおいたる現当主げんとうしゅはおそれおおいと龍神にった。


 龍神はにっこりわらった。


「なんでもひとつだけ、もっていくといい」


 それでも遠慮深いえんりょぶか当主は、にぎめし一つだけをもらった。


 その握り飯はけっしてきないものだった。

 べても食べても。

 はらいっぱいになった家のものたちは、水路すいろ開拓かいたくして平等びょうどうみずわたるようにし、堤防ていぼうきずいて水害すいがいふせいだ。


 むらおもいやりのあつさに感激かんげきし、かれを村の代表だいひょう庄屋しょうやへと押し上げた。


「それでうちはいまでもおおきな家をかまえていられるんだ」


 ▼▼▼


竜宮城りゅうぐうじょう


 異境訪問譚いきょうほうもんたんみずの底の竜宮城だけでなく、やま桃源郷とうげんきょうや、「遠野物語とおのものがたり」で語られるマヨヒガ、家のなかからでもおとずれるねずみ浄土じょうどなど、ひとならざるものがまう、ゆめのような素晴すばらしい世界せかいの話は古来こらいからおおい。


 民俗学者みんぞくがくしゃ小松こまつ和彦かずひこは、「都会とかいへのあこがれ」もあったという。移動いどう制限せいげんもあった昔、地方ちほうまずしいらしから夢想むそうした都会の姿が異境のそれにあらわれていると。


 異境からものをすことは禁忌きんきとされるが、「一つだけ」持ってかえったものがとみをもたらす話もある。貧乏からの脱却だっきゃく夢見ゆめみていることをあらわすものだが、同時どうじに「大きいつづら、小さいつづら」の昔話むかしばなしにもあるように、謙虚けんきょであったほうがしあわせをられるとの教訓きょうくんめられている。

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