小豆洗い

 高校こうこう山向やまむこうになって、バスも本数ほんすうすくないから、ほとんど自転車じてんしゃかよっていた。


 その山道やまみちでのはなし


 ショキショキ

 ショキショキ


 おとだけがひびく。


 朝早あさはやくの登校時とうこうじであったり、おそくなった夕暮ゆうぐれのかえりであったり。


 ショキショキ

 ショキショキ


 のせいかととおぎていたけれど、時々ときどきこえる。


「どうした?」


 くびをひねっていたらじいちゃんに心配しんぱいされた。


「そんなもん、きつねかしとるんだ。ほっとけ。かまったら、それこそつけこまれるぞ」


 なんて、しんじているのかいないのか、対処法たいしょほうなのか、よくからないことをいわれた。


 あめ翌日よくじつだった。


 ショキッショキッショキッショキッ!

 ショショショショショキ!


 いつもと様子ようすちがう。

 あせっているようにもおもえるし……。


 たすけをもとめている?


 自転車をめて、もり様子ようすてみた。


 イタチがいた。

 イタチもいた。

 あめすべったのか、窪地くぼちちたようだ。


 たすけてあげた。でも警戒心けいかいしんつよいイタチのこと、すぐげた。


 まあ、いいか。


 翌朝よくあさいえまえにイワナが一尾いちびかれていた。


 ▼▼▼


小豆あずきあらい」


 おとだけの妖怪ようかい

 小豆をぐような音はすれど、さがしても姿すがたけっして見付みつからないという。姿すがたかたちは妖怪作家さっかにより想像そうぞうされたもの。


 正体しょうたい小川おがわの音といわれるが、柳田やなぎた国男くにお先生は「それならそれで、小豆洗いのうわさがあるところに川があるか調しらべてこい。それもないのにそんな断定だんていしてはいけない」(意訳)

 もっともなはなしである。


「イタチ」


 ぞくに「狐七化しちばけ、たぬき八化はちばけけ、いたち九化けくばけ」ともいわれ、キツネやタヌキよりも化け上手じょうずとされる地域ちいきもある。

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