ぬりかべ

 やまにはかみさまがいるとじいちゃんはよくいっていた。


 高校生こうこうせいとき「おまえももういいとしだ。ちょっと、手伝てつだえ」と、じいちゃんから山へさそわれた。うちの山の、マツタケなど貴重きちょうなもの、それがれるところをおしえてくれるという。僕はもちろん、一人前いちにんまえみとめてもらえたとよろこんだ。


 よく早朝そうちょう、じいちゃんの先導せんどうで山に入ろうとすると、「あ、て」と、じいちゃんはなにかにぶつかった。でも、そこには何もなかった。


今日きょうはダメだな」


 しばらくっていたじいちゃんはくるりとかえると、かえるといいした。


 どうしてとけば、「今日は神さんがはいるなといっている」とだけ。どこから? 何故なぜ? とさらに訊いても「らん」。いえに帰ってしばらくすると、天気予報てんきよほうでは何もいっていなかったのに大雨おおあめとなった。山に入っていたらあぶないところだった。


「神さまはこれをしらせてくれたの?」


多分たぶん、そうだろうな。むかし、わしもまだわかかったが、なんだこんなもんと無理むりやり山に入っておおけがしたこともある」


こわいね」


ぎゃくだな」


「え?」


「山の神さんはやさしいんだ。危ない時は無理するな、危ない場所ばしょへはくなってめてくれるんだ。警告けいこく無視むしした人間にんげんわるいんだ」


 ぼくはうなずいた。


 ▼▼▼


かべ


 漫画家まんがか妖怪ようかい研究家けんきゅうか水木みずきしげる先生せんせい南方なんぽうラバウルの戦地せんちでそれに出会であったという。

 部隊ぶたいから一人ひとりのこされ、恐怖きょうふ疲労ひろうつのるなか、くろな壁にたりさきすすめなくなった。あきらめてやすんでいると壁はえ、あれが塗り壁というものかとおもったとかたる。


 出会であった時はいて、足元あしもと小枝こえだなどではらうとえるといわれる。あせってうえを払っても消えない。


 ただの見えない壁であり、キャラクラーとしてのそれは水木先生の創作そうさくである。


 そのほかにも道塞みちふさぎの怪異かいい日本にほん各地かくちつたわる。

 ぬりかべの伝承でんしょう九州きゅうしゅうだが、正体しょうたいたぬきいたちといわれ、壁になるというよりも、旅人たびびとをふさぐのだとされる。

 野衾のぶすま江戸えど東京とうきょう)、野襖のぶすま土佐とさ高知こうち)の伝承。山中さんちゅうおおいかぶさってくるものだが、それの正体しょうたいも狸とされることおおい。現代げんだいでは、いまではかんがえられないよるやみの中からムササビかモモンガがってくる恐怖きょうふがそれの正体であるとされる。

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