やまびこ

 こう3の夏期講習かきこうしゅうからかえってくるとむら大騒おおさわぎになっていたことがあった。


 しばらくするとじいちゃんもかえってきた。くと、やま遭難者そうなんしゃたという。わしも手伝てつだいにされたが、ついさっき見付みつかったところだとつかれたかおせていた。よっこらしょとこしかけて、ばあちゃんに「おつかれさま」としてもらったおちゃをすすりつつ、捜索隊そうさくたいからかされた不思議ふしぎはなしをしてくれた。


「おーい!」


 おーい……


「どこだぁっ!」


 どこだぁ……


返事へんじしろ!」


 しろぉ……


 山中さんちゅう必死ひっしびかけても、かえってくるのは山彦やまびこばかり。


 それでもこえげて懸命けんめいだった。


「おーい!」


 ……こっちだぁ……


 ついに応答おうとうがあった!


こえたぞ!」


「ああ! ……どこだぁっ!」


 ここだぁ……


ってろ! すぐくぞ!」


 こっち……、こっち……


 かすかな声にみちびかれ、ついに遭難者は発見はっけんされた。


 意識いしきうしなわれていてあやうかったそうだ。


 とても声など出せる状態じょうたいではなかったが、にはしっかり御守おまもりがにぎられていた。


「その御守りはな、家族が持たせてくれたものらしい。登山とざん安全あんぜん見守みまもると名高なだか神社じんじゃのもんだったとよ」


 ▼▼▼


「山のかい


 日本にほんでは古来こらいより、山は聖地せいちであり、山頂さんちょうにはかみすとされる。山の助数詞じょすうしが「座」であることはそれに由来ゆらいする。霊山れいざん、あるいはかみそのものとされる山は日本各地かくちにある。死者ししゃともされ、境界きょうかい異界いかいとしておそれられていた。


 やまびこ、こだまは現在げんざいではおと反響はんきょう科学的かがくてき説明せつめいされるが、それも怪異かいいひとつとかんがえられていた。木霊こだまもり御神木ごしんぼく宿やど精霊せいれい)の声、あるいは天邪鬼あまのじゃく由来ゆらい記紀神話ききしんわにあるとも)の仕業しわざなどとされ、山にはいったものをまどわすものと。


 ほかにも全国ぜんこくの山で音や声の怪、あるいは怪火かいびなど見受みうけられるが、おおむね山、もしくは山の神の警告けいこくであるととらえられていた。


 山の怪の伝承でんしょうおおいのは、山が多く、それがらしにとっても重要じゅうようなものであり、またそれをこええなければよそへけない日本ならではともいえる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る