コラム:狐

きつね


 狐がひとかすといわれるのは、中国ちゅうごく奇談きだん怪異かいい小説しょうせつ影響えいきょう色濃いろこい。

 中国の陰陽思想いんようしそうにおいて狐はいんのものとされ、よう人間にんげんかれるという。そこでえがかれるのは「化かす」よりは、ファンタジー世界せかいのサキュバスのような「吸精きゅうせい」であったが。

 ふるくは御伽草子おとぎぞうしに描かれる「玉藻たまもまえ」。時代じだいくだって江戸初期えどしょき、中国のそれを翻案ほんあんして描かれた「伽婢子おとぎぼうこ」。そこからはじまるといえる、日本にほん怪奇小説かいきしょうせつ絵本えほん)。それらから、日本では「狐は人を化かす」としんじられたとおもわれる。


 かみ使つかいとしての狐。


 まずは伏見稲荷大社ふしみいなりたいしゃのホームページより引用いんようさせていただきます。


【「稲荷大神様おおかみさま」のお使い(眷族けんぞく)はきつねとされています。ただ野山のやまる狐ではなく、眷属けんぞく様も大神様同様どうよう我々われわれにはえません。そのため白(透明とうめい)狐=“びゃっこさん”といってあがめます。

 勿論もちろん「稲荷大神様」はきつねではありません。】


 ところで、神使と狛犬こまいぬなにちがうかといえば、狛犬は神社じんじゃ神域しんいき)のまもりである。簡単かんたんにいえば、狛犬はガードマン、狐は秘書ひしょさん、あるいはメッセンジャーといったところ。ちなみに、神使しんし、神の使つかわしとされる動物どうぶつさる鹿しかおおかみなど、多岐たきにわたる。


 狐が稲荷いなりの神使となった由来ゆらいについては


・ふさふさしたかたち稲穂いなほていたから

食物しょくもつかみ意味いみする「御饌津神みけつのかみ」のみけつが「御狐みきつね」にてんじた

穀物倉こくもつぐららすねずみべるため

いねみの時期じきに、それをねら小動物しょうどうぶつをまた狙って狐があらわれるから


 などなど


 狐は油揚あぶらあげがきといわれるが、「鼠の唐揚からあげ」が本当ほんとう好物こうぶつ生臭なまぐさきら仏教ぶっきょう影響えいきょうから、それにた油揚げが好物とされるようになった。


 江戸時代、江戸のまちさかえるにしたがって、畿内きない近江おうみから商人しょうにんたちがおおはいんだが、同時どうじ商売繁盛しょうばいはんじょうねがいをめて稲荷社いなりしゃから分霊ぶんれいして大量たいりょうやしろ建立こんりゅうされた。また、大名だいみょう屋敷やしきでも稲荷の社はまつられていた。おこめ経済けいざい中心ちゅうしんであった江戸時代においては農耕神のうこうしん、そこから展開てんかいして商業神しょうぎょうしんとなった稲荷はいずれでも信仰しんこうあつかったことがうかがえる。


 狐火きつねびもあるが、古来こらいより狐はあやつるとされた(「鳥獣戯画ちょうじゅうぎが」にもその姿すがたあり)。そこで火伏ひぶせ効験こうけんも求めて稲荷社がおおてられたともいわれる。


 平安へいあんの時代から稲荷の信仰はさかんであったが、商業しょうぎょう発展はってんによって商人しょうにん全国各地ぜんこくかくちへ。稲荷の信仰しんこうともに。それにより神使である狐の名もさらにたかまったと思われる。


 有名ゆうめいになれば、わるいほうもひろがるもので。


 民俗学者みんぞくがくしゃ折口おりぐち信夫しのぶは、稲荷と荼枳尼天だきにてんとの習合しゅうごうから「荼枳尼の修法しゅほう対象たいしょうとして使つかわれたからと想像そうぞうする」とも。


 狐が人を化かすもまた全国区ぜんこくくになったのだろう。


 昨今さっこんなにかとファンタジー作品さくひんにもれられ、狐人気にんきはとどまるところをらない。

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