　龍神池（りゅうじんいけ）という、どんな渇水（かっすい）の年（とし）でも枯（か）れないと大事（だいじ）にされている泉（いずみ）が村（むら）にある。その管理（かんり）は代々（だいだい）本家（うち）の仕事（しごと）になっていた。

　それにはこんないわれがあると、じいちゃんは話（はな）す。

　昔（むかし）むかし、日照（ひで）りが続（つづ）いた年（とし）があった。

　川（かわ）も池（いけ）も、井戸（いど）さえ干上（ひあ）がった。

　神（かみ）さまにお伺（うかが）いをたてると龍神が嫁（よめ）を欲（ほっ）しているという。雨乞（あまご）いの生贄（いけにえ）として生娘（きむすめ）を差（さ）し出（だ）せということだ。

　誰（だれ）もが嫌（いや）がったが、村で一番（いちばん）貧乏（びんぼう）な家（いえ）の娘（むすめ）が名乗（なの）りを上（あ）げた。

「私（わたし）の家には、私しか捧（ささ）げられるものはありません」

　娘は毎年（まいとし）の祭（まつ）りで供物（くもつ）を捧げられていなかったことを気（き）に病（や）んでいた。信心（しんじん）深（ぶか）い家の、優（やさしい）しい娘（こ）だった。供物の代（か）わりは村の手伝（てつだ）いで補（おぎな）っていたのだが、今（いま）こそ村へ恩返（おんがえ）しと喜（よろこ）んで進（すす）み出（で）た。

　雨乞いの祈（いの）りが始（はじ）まると、空（そら）はにわかにかき曇（くも）り、そのなかに大（おお）きな龍が見（み）えた。

　龍は降（お）りてくると、途端（とたん）に生贄の娘をひと飲（の）み。干上（ひあ）がっていた池（いけ）に飛（と）び込（こ）んだ。やがて雨（あめ）が降（ふ）りだし、池には滾々（こんこん）と清水（しみず）が湧（わ）き出（だ）し村は助（たす）かった。

　龍が飛び込んだ池は枯れない泉となり、以来、龍神池と呼（よ）ばれるようになった。

　村は娘の犠牲（ぎせい）に報（むく）いるため、残（のこ）された娘の家族（かぞく）に大事（だいじ）な泉の管理（かんり）を任（まか）せるようになった。それがうちのご先祖（せんぞ）さまだ。

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「龍（りゅう）」

　龍とドラゴンが混同（こんどう）されるのは、ゲームの影響（えいきょう）が強（つよ）いと思（おも）う。

　龍は水神（すいじん）、ドラゴンは神（かみ）の名（な）のもとに倒（たお）されるだけの邪悪（じゃあく）の化身（けしん）。根本的（こんぽんてき）に違（ちが）う。

　ただし、中国（ちゅうごく）では時代（じだい）が下（くだ）ると、伝奇小説（でんきしょうせつ）の西遊記（さいゆうき）や水滸伝（すいこでん）などに見られるように英雄（えいゆう）の力（ちから）の強（つよ）さを示（しめ）すための、同（おな）じように倒されるべき存在（そんざい）へと格下（かくさ）げされている。その時点（じてん）から見（み）れば、確（たし）かに龍もドラゴンも同（おな）じようなものといえなくもない。

　日本（にほん）ではしかし、もともとの水神（蛇神（へびがみ））信仰（しんこう）と、中国の皇帝（こうてい）をあらわす龍の威厳（いげん）が合（あ）わさり、堕（お）ちることなく水の神として古（ふる）くから龍は強（つよ）く信仰されてきた。各地（かくち）で池（いけ）や淵（ふち）などに龍の伝説（でんせつ）が残（のこ）る場所（ばしょ）が多（おお）いのはそのためである。