天狗礫

 ちちははも、まち仕事しごとをしている。


 いえもそっちにあって、ぼくのぜんそくの療養りょうようでしばらくは田舎いなか一緒いっしょだったけど、すぐに週末しゅうまつだけ親子おやこ一緒という生活せいかつになった。中学ちゅうがくがってからはひとつき一度いちどぼん正月休しょうがつやすみだけと、一緒の時間じかんはさらにすくなくなっていた。電話でんわかさなかったし、じいちゃんもばあちゃんもいたからさびしいとはおもわなかったけど。


 かあさんはとく都会とかいまれそだちだったから、じいちゃんやばあちゃんのまえではニコニコしていたけど、とうさんには「田舎いなかいやだ」「こんなところは不便ふべんだ」「あれもこれもしょうわない」と愚痴ぐちれていた。


 それをぼくていた。


 ある、母さんはついに癇癪かんしゃくこした。


「もう、いや! なんで、こんないしってくるの! なによ、これ!!」


 ばあちゃんはなだめていたけれど、母さんはみみたなかった。


 父さんにいたら、仕事からかえってくるたび、くるまからりるとパラパラとどこからか小石こいしが降ってくるらしい。それをずっと気味悪きみわるがっていたけど、ついにえられなくなったんだなと苦笑にがわらい。以来いらい、母さんは週末だけかおを見せてまりもしないとそんなことになった。


 そのよるのこと。


「やりすぎたか?」


「いやいや、これでよかったのだ」


は残るようだからいいではないか」


「そうだな、それが一番いちばんだ」


がいてくれるならな」


 ガラッとまどけたけど、カエルがいているだけだった。


 ▼▼▼


天狗礫てんぐれき


 天狗つぶてとも。


 山中さんちゅう、どこからともなく小石がパラパラと落ちてくる。またはそのおとだけがするといった怪異かいい


 たぬききつね仕業しわざとされることもあるが、おおむねやまけがそうとするものへの警告けいこくとらえられた。


 たおおとだけがする「天狗たおし」などもある。

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