小袖の手

 近所きんじょのおきよさんのはなし


 大事だいじにしている着物きものがある。


 嫁入よめいりのとき、おきよさんのおばあちゃんからゆずけたものだそうだ。


 夏休なつやすみ。


 ちいさなおまごさんがあそびにた。


 お孫さんは田舎いなかおおきないえにはしゃいではしまわっていた。今度こんどはかくれんぼと、だれもいない仏間にはいんだ。着物はおぼんわせて仏間にかけてあった。


「あっ!」


 こけた拍子ひょうしに大きな仏壇ぶつだんあたまからみそうになった。


 あぶない!


 きゅっとじた瞬間しゅんかん、にゅっと着物からしろびてたすけられた。


 なにこったんだろう? 小さなには理解りかいしがたい状況じょうきょうだ。それでもきょろきょろと部屋へや見渡みわたせば、ゆっくりとあたままわっていく。


「おばけ! おばけっ!!」


 家中いえじゅうひびごえ家族かぞくけたが、かせるのに一苦労ひとくろうだったそうだ。


 ところが翌朝よくあさにはニコニコしていて、まるで昨日きのうのことなどなかったみたい。


 どうしたの? と、いてみたら、


ゆめにね、おばあちゃんのおばあちゃんがてきて、ごめんねっていうの。わたしこそごめんねっていったの。そしたらにっこりわらって、えらいね、元気げんきだねって。もうこわくなかったよ」


 ▼▼▼


小袖こそで


 いわゆるふる道具どうぐたましい宿やどった「付喪神つくもがみ九十九神つくもがみ)」の一種いっしゅ


 小袖の手は、もとぬし執着しゅうちゃく宿やどったものともいわれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る