おくりいぬ

 ばあちゃんにも不思議ふしぎ体験たいけんがあったそうだ。


 10だいのかわいいさかりだった、なんて、ばあちゃんはお茶目ちゃめにいう。


 おつかいに出た。昼間ひるまだから大丈夫だいじょうぶおくされた。ところがこうでたいそうもてなされ、はなしはずみ、ついついおそくなった。


 夕暮ゆうぐれのあかるさはまだのこっていた。

 やまえるとはいえ、れたみちだ。

 これならけるだろうと、わかいばあちゃんはとまってけという先方せんぽうに「わるいから」とり、帰路きろいそいだ。


 すぐ、後悔こうかいした。


 山のなかはおもった以上いじょうくらい。

 うしろからなにやらあやしい気配けはいもする。


 ハッハッハッと、くろいぬだ。


 いたことがある。これはおくりいぬだ。


 すきせたら、たちまちおそわれてしまう。


 慎重しんちょうに、慎重にあるいた。


「あ!」


 つまずいた! こけた!!


「はあ、どっこいしょ」


 おおげさにすわったりをしてやりごし、無事ぶじいえかえりつけた。


こわくなかったの?」


 と、いたら、


「なぁんの。都会とかいおおかみのほうがよっぽど怖いさ」


 わらうばあちゃんのかおいまでもかわいらしかった。


 ▼▼▼


「おくりいぬ」


 山で旅人たびびとの後ろについてすきをうかがう。

 こけると途端とたんおそかってくるが、その場合ばあいでもそれはすわるための動作どうさだったとごまかせばまぬがれるという。一方いっぽうで、標的ひょうてきとなったひとほかのものにとられないようにしているともいわれ、おくりいぬがついているあいだ安全あんぜんとも。


 無事ぶじいえかえりつけばにぎめしやどんぶりめしれいめてそなえる。すると、おくりいぬはそれをって帰っていくという。

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