うぶめ

 じいちゃんはちからつよかった。

 ぼく高校生こうこうせいになっても腕相撲うでずもうてなかった。

 すごいねと感心かんしんしたら、こんなはなしをしてくれた。


 もし。


 わかいころ、はしのたもとであかぼういたおんなひとこえをかけられた。


 すこしのあいだ、このいていてくれませんか?


 用事ようじがあるのでと。


「いいですよ」


 気楽きらくけたが、赤ん坊をると母親ははおやはもういなくなっていた。


 よほどいそぎのようだったのだろう。


 赤ん坊はぐっすりすやすやすこやかな寝息ねいきをたてている。


 10分った。まだ母親はかえってこない。


 なんだか赤ん坊がおもい。


 30分経った。


 のせいじゃない。

 赤ん坊はどんどん重くなる。

 まるでいし地蔵じぞうかかえているようだ。

 しばり、ひたいからあせながし、あしもぷるぷるふるえて、1時間じかん


 やっと母親は帰ってきた。


 ありがとうございます。


「いえいえ」


 母親はこともなげに赤ん坊を受けった。

 くと親子共々ともどもえていた。


 それ以来いらい、めきめきとちからして、じいちゃんは村一番むらいちばんの力ちになったそうだ。


「よく赤ん坊をろさなかったね!」


「なあに、でぇとちゅうだったんでかっこつけたかっただけだ」


 こそっといったじいちゃんのさきには、ばあちゃんの背中せなかがあった。


 ▼▼▼


「うぶめ」


 「産女」とく。「姑獲鳥」と書いてうぶめは鳥山石燕とりやませきえん画図百鬼夜行がずひゃっきやこうにあるが、それは混同こんどうされたものである。姑獲鳥こかくちょう中国ちゅうごく伝来でんらい化物ばけものであるが、羽毛うもういで女性じょせい姿すがたとなり子供こどもをさらうなど、日本にほんのうぶめと要素ようそがあったからであろう。


 産女うぶめは、難産なんざんすえ、あるいははら宿やどしたままんだ女性がけてた姿という。


 橋のたもとや四辻よつつじあらわれ、赤ん坊をたくしてくる。

 徐々じょじょに重くなる赤ん坊をつづけられれば強力ごうりき、あるいはとみられるが、えきれなくなってとしてしまうとたたられるといわれる。

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