一反木綿

 大学だいがく県外けんがいへ。

 おおきなまちだったから、田舎いなかとのちがいに最初さいしょ戸惑とまどうこともおおかった。

 けど、ともだちにもめぐまれて、わりとすぐに都会とかいらしにも馴染なじんでいた。


 当然とうぜんのことだけれど、おな人間にんげんだから。

 都会にんでいようと、田舎に住んでいようと。


 ただ、不思議ふしぎなものに遭遇そうぐうしたとき、そのものの見方みかたにはちがいがあらわれるようだ。


 ある、しきりとくびをひねりながら教室きょうしつはいってきたやつがいた。


「どうした?」


「いや、さっきな、へんなもんてな」


「へん?」


気付きづいたのはおれだけだったけど、そらをこう、ビルよりもたかくに、すぅって、しろくて細長ほそながいヒラヒラしたもんがんでてな。まるでものみたいなうごきだった」


「それって……」


「あれがUFOってやつかな? はじめてたわ」


「いや……」


 一反木綿いったんもめんなんじゃ……、と、いいかけたところで教授きょうじゅが入ってきてはなしわってしまった。


 講義こうぎが終わった時にはそいつはもうUFOだか一反木綿だかのことはすっかりわすれていたようで、かえすことも出来できなかった。


『なんだ、都会にもたぬきはいるんだな』


 きっとじいちゃんなら、そういってやっぱり狸の仕業しわざにするだろう。


 ぼく一人ひとりわらっていた。


 ▼▼▼


一反木綿いったんもめん


 鹿児島県かごしまけん肝属郡きもつきぐんあたりにつたわる。


 夕暮ゆうぐれどきにみちあるいているといきなりそらからおそわれる。一反のながさ(やく11m~12m、はば約30cm)があり、きつかれてころされるとも、われるとも。いわゆるしつけおばけとして「おそくまであそんでいると一反木綿がる」と、おやどもをしつけていたそうだ。


 付近ふきん権現山ごんげんやまからやってくるといわれるが、その山の山頂さんちょうにはなにまつっていたのかいまでは不明ふめいほこらがあるという。


 余談よだんだが、その正体しょうたい考察こうさつされている。


くらいところで、しろあかるい物体ぶったいうごくと、残像ざんぞうながのこる。この現象げんしょうは「視覚陽性現象しかくようせいげんしょう」とばれている。そのため、暗闇くらやみなかでムササビが白いはらを見せて滑空かっくうする姿すがたが、長い白いぬののように見える】抜粋ばっすい

(「モンスターにされたものたち 妖怪・怪物かいぶつの正体とは?」稲垣栄洋いながきひでひろ著:二見書房ふたみしょぼう

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