弔問客

 じいちゃんがくなった。


 ばあちゃんからいたけど、だいぶまえからからだのあちこちをわるくしていたらしい。だれにもいうなと口止くちどめされていたと、ばあちゃんはうつむいた。


 どうして?

 いってくれたらぼくはここにいたのに。

 まちにはかず、ここで……。


 ほんのすこしのじいちゃんへのやるせなさと、なによりおおきな後悔こうかいむね渦巻うずまいていた。


「ごめんくださいな」


 お通夜つやのあと、しんせきやしたしいひとたちでずのばんをしているときだった。

 みんなはじいちゃんのおもひたってしゃべっていたから、来客らいきゃくこえ気付きづかなかったのだろう。すこはなれてポツンと物思ものおもいにふけっていた僕だから気付けた。


 応対おうたいると、錫杖しゃくじょうった修行僧しゅぎょうそうのようなかただった。

 はじめてるおじさんだ。じいちゃんはかおひろかったから僕がらない知りいもいただろう。げんにお通夜には、村中むらじゅうから、またやまこええて、たくさんの人がけつけてなみだながしてくれていた。


「ああ、まあ、よいよい、ここで」


 いえのなかへおとおししようとしたら、にこやかにられた。


ようがあるのは、だ。はなしておきたいことがあったのだ」


 そういって、にんまりほほむと、


いることはない。じじはな、息子むすこにも、まごにも、そと世界せかいを知ってもらいたかったのだ。わしには出来できなかったことをしてほしいと、わたしにはよく話しておった。爺はな、むかしのことゆえ旧家きゅうかまもらないといけなかったから村のそとにはられなんだ。自分じぶんおな窮屈きゅうくつおもいをどもにはしてほしくなかったんじゃな」


 それだけいうと、葬式饅頭そうしきまんじゅうってすぐにかえってしまわれた。


 憔悴しょうすいしていた僕は見送みおくることしか出来できなかった。


 翌朝よくあさ、じいちゃんが日課にっかにしていた、龍神池りゅうじんいけのお地蔵じぞうさまのほこら掃除そうじった。何かをしていないとかなかったんだ。


 お地蔵さまのあしもとに、葬式饅頭がかれていた。


 ああ、そうか、そういうことか。


 はじめていた。

 じいちゃんがんだときにも出なかった涙が、とめどなくあふれる。

 こえをあげて泣いた。

 ありがとう……、ありがとう……。

 でも、さびしいよ。もっと一緒いっしょにいたかった。もっともっといろんなことをおしえてしかった。


 じいちゃん……、じいちゃん……。


 涙はぽろぽろといつまでもまらなかった。


 お地蔵さまはおだやかにたたずんでいた。




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