第18話 護衛依頼の提案
武具屋での買い物を終えて、ギルドへ向かう。
ギルドに着いてから、ユナと2人で依頼情報を眺める。今すぐ依頼を受けたいわけではないが、情報収集を兼ねて毎日行うようにしている。
気づいたら隣に知った顔がいたので声をかけた。
「ディーノさん、フェイさん、お久しぶりです」
頭を下げて上げるが、2人とも呆然とした表情でわたしを見る。
「えっと、誰?」
「ディーノさん、わたしですよ、リンです」
「リンちゃん?なんでメイドの格好してるの?」
フェイさんが聞き馴染みのある質問をする。
最後に会ったのはロパリオに来た初日だった。その時は女海賊の格好をしていたからね、気づかないのも無理はないか。
「趣味です」
「趣味……」
フェイさんがわたしの格好をガン見している。メイド服で全身にナイフぶら下げてるからね。
「リンもびっくりしたけど、後ろの子って……」
ディーノさんがユナを見て何か言いかける。顔見知りなんだろうか。
「リンさんの前にパーティを打診した方々です」
囁くようにわたしの耳元でユナが教えてくれた。
「あの時は断って悪かったな、リンと組めたなら結果的に良かったかもな」
「ふふ、それはその通りだと思います」
特にわだかまりもないようだ。ディーノさんもユナに強く当たったわけではないだろう。
「ねえ、2人で組んでるんだったら誘ってみない?」
「ん?ああそっちの方が都合がいいか?リン、マルクさんの護衛依頼が出てるんだけど一緒にやらないか?そっちの子、えーっと……」
「ユナです」
「ユナも一緒にさ、馬車2台分の護衛だ、ピルサスまで」
ピルサスっていうと西門から出て北西に向かったところだね、確かユナの出身地だったはずだ。
遠征の経験を積みたいし、知り合いがいる条件ならやり易いからわたしたちによって都合の良い話だと思うけど……。ユナの方を見るとわたしに目を合わせて頷いたので、とりあえず話を聞いてみようか。
「ひとまず話を聞かせてください」
4人でギルド内酒場のテーブルへと着いて、詳細を聞かせてもらった。
予定は明後日の1の鐘に出発、5日かけてピルサスまで2組で護衛。あちらで何日か滞在してから、また5日かけてロパリオに戻ってくる。
報酬はそこそこだけど、途中で狩り過ぎて持ちきれなくなった魔石や素材は移動中でも現地で買い取ってもらえる。それにわたしとユナは護衛依頼や野営の経験がほとんどないから勉強するにはもってこいだ。
依頼表も確認した上で、ユナと相談して依頼を受けることに決めた。
「じゃあ2日後に西門の馬房前で会いましょう」
「その間に必要なものを準備しておきなよ、じゃあな」
2人と別れた後、そのままユナと一緒にテーブルで打ち合わせを行う。
「道具屋に行ったばかりなのに、また行かなければなりませんね」
「食事とかどうすればいいのかな?」
遠足の準備をする子供のように2人で予定を考える。
「歩きながらでも決められますから、ひとまずはいつも通り狩りに行きませんか?」
「そうだね、最悪は宿に帰ってから相談して明日準備すればいいし、じゃ、行こっか」
◽️◽️◽️
今日も今日とてガーゴイルを狩る。
相手は3匹、こちらは2人。まずは数を調整しよう。
20メートルほど上空でバサバサしてるガーゴイル。地面にいるわたしたちが何もできないと思って高をくくっているんだろう。その油断が命取りになる。
ナイフを抜いて、頭を目掛けて
重力に引かれて地面に打ち付けられたガーゴイルに、念入りに短剣でトドメを刺す。ナイフの回収は後にして、次の標的へと向かう。
ユナが1匹と戦っていて、もう1匹がわたしの方に向かっている。なんとユナはガーゴイルにカウンターを喰らわせようとしている。向上心が強くてこっちとしてはハラハラするけど、わたしも負けてはいられない。
突っ込んでくるガーゴイルの鉤爪の軌道に沿えるようにして手甲で弾く。弾くとほぼ同時に電撃込みのアッパーを顎に向けて差し込んだ。慣れない動きをしたせいか少し浅く入った。首の骨を折るまでには至らずに、ガーゴイルが反撃してくる。鋭い爪の一撃を短剣で切り伏せてから、今度は顎目掛けて左足のつま先で蹴り上げる。コキという軽い音が聞こえて骨が折れたのを確信した後、崩れ落ちる首に浅く斬撃を加えた。死んだふりは許さない。
ユナの方はまだ戦っていた。参戦しても良いがしばらく見守ろう。
ガーゴイルもユナも足を止めてお互いに殴り合っている。ガーゴイルの左鉤爪を伏せてかわしたあと、右の義手で顔面を殴りにかかった。義手は柔らかいので攻撃能力はほぼないが、顔に当たって弾けた水にガーゴイルが驚いて隙だらけだ。左腕に握った杖で下から掬い上げるようにして顎を殴り、そのまま魔法を発動する。多分魔力消費を抑えているんだろうが、あの距離なら威力減衰は全くない。クリティカルヒットしてガーゴイルが沈黙した。杖の石突で眼球目掛けて突きを入れて死体蹴り。ユナさん怖いです。
拍手して完勝を褒め称える。ユナが照れながら左腕を掲げた。
「もう1人でもガーゴイルなら倒せるね、魔法使いなのに近接も得意だし」
「私が1匹相手にしている間に、2匹倒している癖に何言ってるんですか」
「ユナならもっと楽に倒せるだろうに、わざわざ近接に持ち込んでさ。舐めプされてるガーゴイルさん可哀想」
「はいはい、回収しますよ」
◽️◽️◽️
今日は狩効率が良い、既にガーゴイルは8匹狩った。
おまけにちょうど良い教材までやってきた。ゴブリン3のホブ1。
「ユナ、全部」
「はい」
ユナが走り出して群れに近寄る。魔法を発動した。ホブゴブリンの左膝に当たって、完全に膝を崩す。皿が割れたかもしれない。あれでは動きに制限がかかるだろう。その間にゴブリン3体の処理を開始する。膝丈くらいのゴブリンでは、杖を持ったユナにリーチで勝つことはできない。あっという間に頭が凹んで、3体が地に伏した。
そのあとは舐めプし始めたので特に見所もなくホブにトドメを刺して終了した。
「戦闘する上で気をつけたことを述べてください」
「最初に3匹片付けるか、ホブゴブリンを倒すかで悩みましたけど、どちらも私では時間がかかって囲まれると思ったので、まずは足止めをしてから処理しました」
「もう教えることはないね。卒業です」
「嫌です」
「冗談だから本気にしなくて良いよ。それにしても1週間も経ってないのにこんなに成長するものなんだね、正直びっくりだよ」
「……自分でも驚いています、強くなりすぎです」
あとはなんだろう、本当にもう教えることがないんだけど、これくらいかな。わたしにも言えることだけど。
「これはわたしもそうなんだけどさ、ダメージを負ったことが少ないんだよねユナは。もちろん腕の件はあるけど」
「これ以外は確かにそうですね、私は後衛を目指してましたので」
「だから不意の一撃を受けた時に冷静でいられるかは、わたしもユナもその時にならなきゃ分からないけど、覚悟はしておくこと。特にユナはトラウマスイッチ入っちゃうかもしれないし」
正直わたしは自信がない。無傷プレイを引っ張り過ぎた気がする。だからと言って怪我をするつもりはないけれども。
「……分かりました」
「じゃあ回収して帰ろっか。あ、あの槍もらっても良い?」
ホブが誰かから奪ったであろう槍を指差す。
「構いませんが、持って帰るんですか?」
そういえば機会がなくて説明してなかった。遠征になったら使うこともあるだろうしマジックポーチについて教えておこう。
「これマジックポーチなんだ。だからあんまり重さは感じないし荷物にもならないの。剣とか槍とかそれ含めれば3本くらい入ってるよ」
「凄いですね、そんなものどこで手に入れたんですか?」
「神様がくれたの」
「はい?」
「この眼鏡をかけて槍に向かって鑑定って言ってみて」
「はあ、よく分かりませんがやってみます、鑑定、え、何これ?なんですかこの便利な眼鏡は。どこで手に入れたんですか?」
「神様がくれたの」
「……もういいです、ただし眼鏡は借りておきます。ちょっと遊びたいです」
眼鏡をかけたユナも可愛いからどうぞどうぞ。
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