第17話 ポーションとナイフと……
ロパリオの観光をした翌日の朝、2人で今日の予定を話し合った。
「注文していたナイフが出来たはずなので受け取りたいです」
「分かりました、同行します」
「あと昨日買えば良かったんだけど、ポーションって売ってたりするかな?」
「以前に道具屋で見た覚えがあります、品質によると思いますが金貨で5枚くらいかと」
「5ポイントです」
「はい?」
「今ユナさんはわたしに有益な情報をくれました。ありがとうございます。恩返し5ポイントです」
「こんなの恩返しの内に入りませんよ」
「ユナさんの情報が無ければわたしはポーションを探し回って街中を走り回って疲れ果て、回復するためにポーションを使うという無駄が発生していたでしょう。金貨1枚で1ポイント、ポーション1瓶なので5ポイントです」
「ふふっ、大袈裟ですね」
真面目なのは利点だけど仏頂面より笑っている方がユナに似合っている。この調子でポイントを押し付けてしまおう。恩返し返しだ!
「それじゃあ少し早めに出ましょうか、同室だと打ち合わせも楽で良いですね」
「同室の提案はユナさんの実績なので3ポイントです」
「そうやってまた」
まだまだあるぞ!
「昨晩はワンピがとても可愛くて楽しかったので10ポイントです!」
「先生は10ポイントだけですか。わたしは20ポイントは貰ってますので、今晩は頑張らないといけませんね」
「……よろしくお願いします」
「さあ行きますよ、先生」
わたしは尻に敷かれるタイプかもしれない。
◽️◽️◽️
先に道具屋でポーションを購入した、2本あれば十分だろう。万一の時に回復手段が無いのは怖い。回復魔法とか覚えられれば良いんだけどあるのかな、光魔法に含まれてるかもしれないけど博打過ぎるから試せない。
初日に訪れた武具屋に入ると、わたしの姿を見て店員さんが駆け寄って来た。
「お待たせしました、注文の品は出来上がっています。ですが親方がどんな人が注文したのか連れて来いと言ってまして、武具の調整なども必要なので奥の方でお話しできますか?」
ユナと顔を見合わせる。頷いてから店員さんに了承を伝えて、後ろを付いて歩く。
メイドが注文したと聞いて興味を持たれたのかな。
連れて行かれた先で、身長2メートル弱くらいのゴツいスキンヘッドのおじさんが何やら作業していた。あの人かな。
店員さんがおじさんに引き継いでこの場から去った。おじさんがわたしたちを向く。
「ライドだ。あんたが注文したメイドか?」
「リンと申します」
「リンだな、これが注文の品だ、付けてみろ」
机の上から小さなナイフがガチャガチャついた肩掛けベルトを持ち出して渡されたので受け取る。1人でも出来そうだけど、ユナに手伝ってもらった。
肩から下げて、胸を避けるように上と下で横にベルトが繋がっている。ナイフの収納場所はところどころ2箇所くらいずつ散らばっていて、全部で14箇所ある。元々装備していたポーチや短剣を邪魔しないし、わたしの想像より便利でカッコいい。
「調整はいらなさそうだが、する場合はこの部分で調整しろ。ナイフはそれでいいか?」
鞘から1本抜いて確認する。両刃で、程よい重さ、刃渡りも問題ない。2本目も同様だ。抜く時もある程度抵抗があって勝手に落ちることもなさそうだ。
「問題ありません、良い仕事をしていただいたようです。感謝します」
メイドロールプレイが楽しい。
「メイドに仕事を褒められたのは初めてだよ。ナイフは10本売るが、余計に作ったから欲しければ表で購入してくれ」
ライドさんがもう用は無いというように背を向けるので、私たちも振り返って帰ろうとした。その時、視界に入ったあるものが気になったので、帰る前にライドさんにもう一度声をかけた。
「すみません、こちらの品は売り物ですか?」
作業台の上に手袋のような形状の金物が1組置いてあった。ガントレットだ。欲しい。
「あ?そいつが欲しいのか?着けてみても良いぞ」
「着け方が分かりません、ご教授ください」
「仕方ねえな」
ライドさんに手伝ってもらいながら両手に装着した。
全体的に黒色で、長さは手首から10センチくらい。甲の部分は銀色の金属で保護されている、手のひら側は焦茶色の皮になっていて、短剣を握るのにも違和感がない。手首を回しても引っかからず動作に支障もない。
「こちらはおいくらですか?」
「オーダーじゃないんだから、もう少し使い勝手を確認してから買え。裏庭に行くぞ」
ライドさんがついて来いと言わんばかりにズンズンと歩いて行くのでわたしも追う。後ろを振り返るとユナが困惑しながらもついてきていた。振り回してごめんね。
建物を出ると、ギルドの訓練場のようなスペースに案内された。真ん中で地面に大きな杭が打ってある。これを使って使用感を確かめろということらしい。
とりあえず殴ったり、掌底を打ったり、短剣を抜いて斬りつけたりして確認する。あとは投げナイフに関しても同様だ。出来は良いと思う。もっと試したいけど……。
「お嬢様、相手をしていただいてもよろしいでしょうか?」
振り向いてユナを強引に誘う。どこの世界に主人を組み手に誘うメイドがいるんだろうね。
「仕方がありませんね」
ユナも演技が上手くなってきたね、表情が崩れなくなってきた。
ユナと2人で組み手を行う。わたしが確認したいのは攻撃を受けた時の感覚だ。ユナもそれは分かっているようで、杖でいろんな方向から殴ってくるので手甲で受ける。直で受けても良いけど、受け流すのがメインの使い方っぽい。大体理解したので組み手を打ち切る。
「最近のメイドはそこそこ戦えるんだな、意外だったよ。ところでなんでそんな格好をしているんだ?」
黙って腕を組んで組み手を眺めていたライドさんが急に話しかけてきた。
「仕事です」
「俺が聞いているのはそういうことじゃなくてだな。あんた男だろ?」
ユナがすごい勢いでライドさんに振り向いて凝視する。あーあ、その反応で完全にバレちゃったよ。
「女性にその物言いは失礼だと思わないのですか?」
別にバレてもいいし、諦めてるけど面白いからロールは続ける。
「ナイフの注文を受けた時におかしいと思ったんだ。ベルトの位置が胸を意識していなかったからこっちで勝手に調整したし。メイドの時点でおかしいがな。組み手を見れば一目瞭然だ。骨盤の位置が男の特徴を示している。動きもそれに見合ったものになる。見るやつが見れば分かるぞ」
「……勉強になりました。ご指摘ありがとうございます」
精進しなきゃいけないね。
「そいつは金貨20枚だ、受付には言っておく」
言い残してライドさんはどこかに行ってしまった。万引きされることとか考えないのかな。
ユナと顔を見合わせる。
「気づく人もいるんですね、驚きました」
「ユナは顔に出過ぎだよ。さあお金を払ってギルドに行こうか、その後狩りに行こう。早くこれを試してみたい」
手甲と追加でナイフを5本購入して、私たちは武具屋を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます