第19話 護衛依頼の提案2
ガーゴイル8、ホブ1、ゴブリン3の報酬を山分けする。装備に費やしてもすぐに入ってくるし、目に見えて強くなるから楽しい。異世界に来て本当に良かった。神様ありがとう。
報酬も得たし、なんと今日はランクアップしました。ユナがFでわたしがE級。刻印が変わっただけだけど自分が成長しているのが認められて嬉しい。ユナなんか涙を薄ら滲ませている。
「初ランクアップおめでとう。頑張ったのが認めてもらえるのは嬉しいよね」
「はい、ぐす、これも先生のおかげです」
良かったね。本当に良かった。
◽️◽️◽️
酒場でシーフードドリアを食べながら明日の予定を相談する。せっかく買い物をするのでついでにユナの装備も新調したらどうかと思って話を振った。
「ユナは装備を新調したりとかしないの?そもそも杖って魔法の威力を上げるとか、そういう効果があったりするの?」
「魔力の伝達が良くなりますね。ですが私が持っているような安物だと誤差のようなものです。射程を伸ばしたくて願掛けで杖を使っていました」
多少は効果があるんだね。ファッションじゃないなら、槍とかより杖が良いってこともあるのかな。
「槍も向いているとは思います。ただあまり重い武器は取り回しが良くないですし、今となっては片手で扱える武器が好ましいので、使うとしても短剣か杖の2択になりますね」
斬撃は置いておいても、切断耐性はまだ備わっていないだろうからね。すると今のまま杖で殴るのが向いてるんだろう。剣は骨の位置とか意識しないといけないし刃こぼれするから面倒なところもある。
「先生はどうして短剣を使っているんですか?」
「レベル1の時は力が無かったから、普通の剣ですら振り回されるし、身長がないから斬り上げが出来なかったんだよ。本当は自分より大きい大剣とか、ハンマーを振り回したかったんだ。今なら常人の2倍くらいの力はあるから可能だと思うけど」
斬り上げが出来ないことに変わりはないけどね。
「先生は小さい方が良いです、小さい方が」
ちょくちょく下ネタぶっ込んでくるね。
「今日も大剣は使えないのか、残念だな」
下ネタで返してやる。
「……その代わりに研いであげますよ、いつか使う時のために」
好き。
◽️◽️◽️
明日は出発予定日だ。今日は午前中は準備に費やして、午後は訓練することにした。ユナもわたしもお金はそれなりに貯まってきたので多少は狩りを休んでも構わない。
そもそも他の冒険者はわたしたちほど仕事をしていないようだ。3日に1回くらいだけガーゴイルを狩って休むのを繰り返している。ロパリオは他にもシープなど割の良い魔物がいるからそれでも生活が成り立つのだろう。マリスラは毎日スライムを狩ってギリギリ、シープでやっと余裕が出てくるような環境だった。適当に解体してもなんとかなるガーゴイルと違ってシープは面倒くさいし、経験値的に美味しくないので私たちは手をつけていない。
明日から遠征なので、今日は洗濯物を片付ける。メイド服も一旦洗うことにした。ピルサスまでの行きはブラウスにコルセットドレスの女海賊装備に戻すことにした。依頼主のマルクさんもメイド姿だと困惑するだろうしね。
「先生、どうしたんですかその格好は」
わたしの格好を見てユナが声を震わせている。見せるのは初めてだったね。これは初期装備です。メイド服より防御力と機能性が高いけど。メイド服は忠誠心が上がります。
「衣装チェンジしただけだよ。髪結ぶの手伝ってちょうだい」
今日は擬似ボブにしよう。紐で髪の先端を結んでスカーフを巻き付け内側に畳み、つむじの上でスカーフを結ぶ。出来た。
「その状態でしましょう」
何バカなこと言ってんの。
「いいからこっちきて、おそろにしよう」
「私にはこういう可愛いのは似合いません、見ているだけで幸せです」
「黙ってお人形さんになってください」
ユナは髪が濃い紫だから黒色のスカーフでも似合いそうだ。これにしよう。よし出来た。
「わたし彼女とお揃いの髪型にするのが夢だったんだぁ」
「前準備が難しいですからね」
ハードルが多い上に高いから実現がほぼ不可能だったんだよね。
「でもやっぱり私には可愛すぎます」
手鏡を見ながら恥ずかしそうにしているので頬に手を当てて愛でる。
「すごく似合ってるよ」
「そういうのはずるいと思います、破廉恥です、しましょう」
文脈が繋がってないね。
「ハレンチモンキーユナはほっといて洗濯行こーっと」
なんやかんや文句が聞こえるが朝っぱらから盛るつもりはない。
◽️◽️◽️
洗濯後、道具類を買い揃えたのでギルドの訓練場へ向かった。お昼は安定の串肉だ。小腹を満たすのにちょうどいい。
「わたしの見立てではユナは現状レベル9でSP残は3。風魔法をレベル3に出来るはずだけどどうする?」
ユナは顎に手を当て思考に耽っている。邪魔せず少し待ってあげよう。
「レベル1で5メートル、レベル2で10メートルに距離が伸びたのですが、3だと15メートルになるんでしょうか?」
「うーん、威力の方はどう?」
「体感ですがレベル2を5メートルで使うと2倍、10メートルで使うとレベル1の1.5倍くらいの威力でしょうか。その後は急激に威力がなくなって2メートルくらいで消えてしまいます。ただ威力を抑えれば距離が伸びますし、逆も然りです。最近は急激にレベルが上がったので、基準が掴みにくくて苦労していました」
距離はレベル1基準で100%ずつ増える感じだろう。
威力も同じような増え幅だと思う。レベル3なら5メートルで3倍、10メートルで2倍、15メートルで1.5倍かな。
ステータスの知力がレベル1での距離や威力、形状や操作方法の基準になって、レベルが上がると比例して距離なども増えると考えればいいだろう。
これは知力についてユナに説明した方が良いかな。わたしよりも魔法の才能があって今後向き合っていかなければならないだろうし。
地面にナイフで色々書きながら、ユナにステータスについてと、スキルレベルアップによる増え幅についての考察を話す。一通り話終わったところでユナが首を捻りながら言う。
「理屈は分かりましたが、先生より私の方が知力が高いっていうのは納得できないです」
「知力っていうのはわたしが名付けただけだから言葉通り捉えなくても良いよ。魔法攻撃力、魔法操作力、魔法創造力とかの言葉を単体で使うと適さないから、纏めて知力にしただけだよ」
ということにしておこう。
「これで大体わたしの知ってることは伝え切ったと思う。風魔法を育てても良いけど、この先風魔法が効かない相手が出てくるかもしれない。かといって、わたしみたいに雷魔法を1だけ取っても威力不足で風魔法より効きが悪いかもしれない。決めるのはユナだよ」
「……風魔法を上げたいです、上げたいですけどSPが4になるまで我慢します」
「じゃあ今日はレベルを上げずに魔法の訓練をしてから組み手をしよう。水魔法を攻撃に使えるか検証したかったんだ」
訓練場の端っこへ向かう。水浸しにしても怒られなさそうだからね。
「ユナはすでに水の性質変化が出来てるから、性質の種類を増やして見よう」
地面に桶を置く。その上で水魔法を発動する。性質を変えるイメージで。
水塊が発生するのでそれを桶に注ぐ。桶に溜まった液体に触れてみる。あー、今のわたしだとこの程度までか。
「触ってみて」
わたしに言われてユナが液体に触れる。
「……お湯ですね」
「うん、お湯に出来ちゃうんだ、わたしも今初めて試したよ」
これからは宿で湯桶代を払わなくて済むね。
「わたしよりも知力が高いユナが本気を出したらどのくらい熱くなるのかが知りたいんだ。腕から離した状態でやってみてよ」
そう言ってから桶の中の湯を捨てる。
ユナが魔法を発動する。水球が出現して桶に落ちる。この辺もセンスが違う。私は塊でユナは球。球の方が難しいと思う。
2人揃って恐る恐る桶を覗くと、湯気が立っていた。指先を一瞬だけ液体につける。あっつい!
「これは使えますね……ぶつけられたら絶対に無事じゃ済まないですよ」
「十分実用レベルだけど後は距離かな、わたしは最初勘違いしてたんだけど、水魔法は遠距離適性がある方だから、ユナならレベル1でもそれなりに飛ばせると思う。やってみてよ」
「とりあえず5メートルから少しずつ離れてみますね」
5メートル、成功。10メートル、成功。15メートル、失敗。
「ただのお湯ならこれくらいか」
「ただの?どういう意味ですか?」
「粘度を上げてみてよ、肌にまとわりつくくらいに」
「悪魔のようなことを考えますね、流石先生です」
5メートル、成功。10メートル、失敗。
「レベル1だとこんなものかな。わたしじゃ無理だけどユナなら十分メインウェポンになるね」
「怯ませるのには十分過ぎるくらいですね」
レベルもそうだけど、水魔法の状態変化がかなり強い。熱湯かけられたら避ける自信がないし、風魔法は見えないし。
「これはもうユナの方が強いんじゃない?」
「では組み手をして確かめてみましょう、魔法解禁で」
死んじゃうよぅ。
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