第14話 都市内観光

 あの後いっぱい汚れたので、結局は冷めてしまった水で再度体を拭くことになった。


 最後まではしていない。お互いに身体構造を確認してプラスアルファくらいだ。だってユナが化け物を見るような目をするから。まあ汚し合ったのは事実だ。


 隣のユナは健やかな寝顔を晒しているけれど、そろそろ起きて身支度をしたほうがいい。せっかくなので右肘をこちょこちょして起こしてみよう。ユナはここを触るととても嬉しそうにするからね。


 楕円になっているそこを手のひらで揉むようにして触る。さすさすして遊んでいると寝苦しそうにしながらユナが起きた。


「おはよう」


「……おはようございます、何してるんですか……」


「わたしここ触るのが好きなんだ。触り心地が良くて安心するの」


「先生だけですよ、そんなところが好きなのは」


「私だけじゃないよ、ユナも好きだよねここ」


 さすさす、さすさすと繰り返す。


「起きましょう、朝から変な気分になりそうです」


 わたしの手を振り払って身を起こす。もう少し遊んでいたかったのに残念だ。


「ユナ」


「なんですか?」


 振り向いたところで唇を奪う。


「ここも好きだよ」


 一晩経っても初心さは抜けていないようで、見る間に顔が赤くなっていく。


「私も好きです」


 そう言って今度はユナから啄むようにキスされる。


 その後ユナがいい加減にしてくださいと怒り出すまで応酬は続いた。




 ◽️◽️◽️




「そのメイド服の下にアレを隠していると考えたら詐欺もいいところですよね」


 着替えたわたしの姿を見てユナがぼやく。


「そんなことを言われても良くわからないんだよね、致したことないし」


「今まで誰かと関係を持ったことが無いんですか?あ、いえ、先生は人に好かれるだろうなと思ったので」


「まず男であることを伝えたのがユナで2人目だし、1人目は男だったからね、とてもいい人だったけどわたしは女の子が好きだから。仮にわたしが男の格好をしていたとしても、子供にしか見えないだろうしね。ユナもわたしが男の子に見えたら声をかけないでしょ?」


 わたしは自分の容姿を気に入っているが、欠点も多いのだ。


「たしかにそうかもしれません。でも今となっては男の子の格好をした先生にも興味があります」


 正直物のユナさんはだんだんと欲望を隠さなくなってきたね。今日のところは聞き流しておこう。


「ユナはモテそうだよね、真面目だし、美人だし」


「そんなことはありませんよ、でも人並みに、吟遊詩人が歌うお姫様に憧れたことはありましたね」


 女の子らしくて可愛らしいね。


「わたしは王子様にでもなればいいのかな?」


 国を手に入れるところから始めなきゃないのか。大変そうだ。


 というかその場合は王様になっているのか。王子っていうのは現実的に無理だね。残念だけどユナの希望には添えないようだ。


「私が好きなお話では騎士様がお相手でした」


「ユナ姫、本日エスコートさせて頂きますリンと申します」


 騎士なら王子よりは希望がある。比較的ね。


 わたしはふざけ半分で床に片膝をついて畏まった態度をとる。


「可愛らしい騎士さんですね、その格好は市井に溶け込むためのものですか?」


 わたしのおふざけにユナが合わせてくれる。


「姫様もいかがでしょうか、もう一着ありますのでお気に召したらどうぞ。癖になりますよ」


 メイドの格好をしたわたしとユナがギルドで依頼を眺めているのを想像してみる。周りの冒険者たちはそれを困惑しながら眺めるのだ。なかなかにシュールな光景だろう。


 ユナもその光景を想像したのだろう。おなかを抱えて笑うのでわたしも釣られて笑ってしまった。


 ひとしきり笑ったところで、井戸に向かい、2人で洗濯をする。なんだか家庭感があって楽しい。今まで1人だったからこういうやりとりにどこかで憧れていたのかもしれない。


 部屋に戻って洗濯物を吊るす。2人分だから結構な量だ。部屋の中に一気に生活感が溢れる。


「今日はどうしましょうか?」


「ユナはやりたいことある?」


「そうですね、私もまだ街に詳しくないので散策はしたいですが、特に目的はないですね」


 それならわたしに付き合って貰えれば良いかな。


「わたしは服を売り買い出来るところに行きたい。あとは街中を一周してみよっか」


 宿屋のおじさんに、服の買取もしてくれそうなお店の場所を聞き取りして2人で向かった。道中の屋台で串肉をつまみながらながら、歩く。


「わたしの悩みはね、女性服を買うときに採寸とか、着替えとかでバレる可能性があるから言い出せないこと、ガーター履きたいのに我慢してる」


「先生はドロワーズで誤魔化すしか方法がないですからね、可愛い服を着れないのは勿体無いです」


「なので必要に迫られたら協力をお願いします。ユナさん」


 構いませんよ、私も先生の着飾った姿が見たいですと、ユナが了承する。言質取ったからね?


 そうこうしているうちにそれらしいお店に到着した。結構立派なお店だ。少なくてもマリスラにはこういうお店はなかったと思う。田舎には田舎の良さが有るけれど、やっぱり物資は都会の方が豊富だし、便利だね。


 入るとドアベルが鳴って、女性店員が近寄ってきた。客によって対応が違うのかもしれない。メイド姿だし気を使ってもらえるかも。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか」


「ひとまず服の査定をお願いします。事情がありまして数が多いので、査定中に商品を見せて頂こうと思っています」


 荷物が多いので今日は街中だけどリュック持参だ。服だけリュックに詰め込んで持ってきてるのでパンパンになっている。大体50着くらいだろうか。


 案内された窓口でリュックからポイポイと服を取り出して重ねていく。ユナも店員さんも驚いている。メイド姿のわたしがこんなことをすると、まるで夜逃げ前の現金作りをしているように見えるね。変な噂が立つかもしれない。


「……それでは査定させていただきます、多少時間がかかりますので終わるまでお待ちください。終わりましたらお声がけさせていただきます」


 対応も丁寧だし不当に安く買取されることもなさそうだね。


「先生、一体どこでこれだけの服を?ほとんど新品に見えるんですが……」


 こそこそと小声でユナに問われたのでわたしも同じように小声で返す。


「東の街道で馬車が崖から落ちてて、勿体無いから拝借したの。わたしやユナが着られそうな服は確保してるから後でユナにも見せるよ。ここの商品だったかもしれないから内緒だよ」


「分かりました。たしかに黙っておいたほうがいいですね」


 盗品だと思われそうだから少し処分に困ってたんだけど、メイド服を着ているから逆に怪しまれないと思う。多分。


 査定が終わるまでユナと2人で店内を見て回る。中古服がほとんどなんだろうけれど、色とりどりだし種類も豊富だ。


「先生はこういう格好も似合いそうです」


 冒険者向けの服が並べられている区画で、ユナがホットパンツを見つけて指差して言う。


 たしかに軽装はわたしの戦闘スタイルに合うんだよね。蹴りやすいし裾が短いのは機能性的にも向いてる。それにレンジャーっぽくてかっこいいと思う。しかし問題がある。


「こういうのも着れたらいいんだけどね、タイト過ぎると収まりが悪くて。こういうのに太ももにベルト巻いてナイフを仕込みたい。レンジャーみたいに」


 カッコいい方面でも着飾りたいけど、今はちょっと難しいかな。


「素敵なのでいつか叶えましょう。協力します」


 服飾に秀でた知り合いでもいればね。オーダーメイドが出来て、尚且つわたしの性別詐称に理解がある人なら。


 ……かなり難しい条件な気がする。


「ユナは魔法使いスタイルのままで良いの?」


「私はあまり肌を見せるのが得意ではないのでこういうのは……」


 レベルが上がって近接が出来るようになったから、もう少し動きやすい服でも良いと思うけどね。わたし自身が人のことを言える格好をしていないから、説得力がないんだよね。


 蹴ったり飛んだり走ったりをする機会が多くなるなら、裾が短い方が機能性が良いとは思うけれど。


「じゃあローブでいいから良さそうなのを買おうよ、冒険者だから痛むのを考えて中古で2着くらい」


 機能性を考慮しないにしても、何着かは持っていた方が良いだろうし、何より色んな格好のユナが見たいので、わたしは提案してみたが、ユナは気が進まなさそうにしている。


「買いたいのは山々なんですがまだお金に余裕が……」


「そんなのわたしが出すから。買取で結構入るだろうし、プレゼントさせて」


「えっと、それじゃあお願いします」


 ユナが表情を崩してにっこりと笑う。よし、先生張り切っちゃうぞー!


「じゃあ、これと、これと、これと、これ。とりあえず着てみよっか。すいませーん、試着させてください。」


 店員さんを呼んで試着室を借りた。ユナが中でゴソゴソと着替えてからゆっくりとカーテンを開く。


「どうでしょうか?」


「黒色のローブは安定して似合うね、差し色の白が制服感があって、生徒っぽくて若々しくていいと思う」


 次に行きましょう。


「紫はデザインとしては無難だけど、髪色が紫だから外れないし、丈が今のより短めだから肌のチラ見せがえっちです」


 次、どんどん行こう。


「白はお嬢様感が出て清楚で個人的にすごい好き。魔法使いっていうよりヒーラーみたいだね。冒険者としては汚れちゃうから無しかな。後で室内着に白いワンピースを買ってあげる」


 隻腕が目立っちゃうのが嫌でゆったりしたローブを着ているんだろうけど、部屋着ならわたしの目の保養になる。


 最後だ。次。


「紺色は今のと同じ色だし、やっぱりユナの落ち着いた雰囲気に似合ってて素敵だよ。青よりも濃いほうがクールな感じが出るよね。魔法使いって感じがするし徹底してキャラ付けが出来るから買いだね」


 こんなところだろうか。


「どうしよっか?」


 わたしは全部気に入ったけれどユナ自身はどうだろう。


 少し悩む素振りを見せてから、ユナは服を2つ手に取った。


「それでは、黒と紺のものにします」


「じゃあそれに追加でワンピ選ぼう。清楚でえっちなやつ」


 わたしの趣味が多分に含まれたユナの服選びをし終わったあたりで、店員さんから声をかけられた。査定が終わったので金額を聞いたら金貨で50枚近くになったので、ユナの服代を引いてから代金を受け取った。金貨50枚が妥当な値段かどうかは分からないけれど、元々タダで手に入れたものだし、荷物になるだけなので、わたしは提示された金額で買取をお願いした。


 お店を出てから、次の行き先を考えつつも、先ほどの服屋の感想をユナと話し合う。


「店員さん、またきて欲しそうな顔をしてましたね」


「新品の服を原価より安く買い取れただろうからね。もう売りには来ないけど」


 いらない服も処理できたし、ユナの服も買えた。お金もたんまり手に入ったのでウハウハだ。


 空になったリュックが邪魔なので、一旦宿に帰ってから荷物を置く。


 さてこのあとはどこへ行こうか。




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