第13話 えっちな女魔法使いvs魔法剣士

 あの後ユナが絶好調で組み手を挑んできた。わたしも楽しくて付き合ったけど、おかげで結構疲れてしまった。


 酒場で夕飯を食べながら、自分の中で考えをまとめ、ユナに提案する。


「明日は休みにしよっか」


 わたしの提案に対して、ユナが意外そうな顔で異を唱える。


「まだ頑張れますよ?」


 おそらくは自分の急激な成長が楽しいのだろう。表情や言動から不満さが少しだけみて取れる。


 ユナの成長に水を差すようで申し訳ないけれど、最近は体を動かしてばかりだったし、休憩も必要だろう。無理をして怪我をしてもつまらない。


「なんか浮き足立ってるよ、こういう時に失敗するから。それに十分稼いだし、明日はここの観光がしたいな」


「たしかに、少し調子に乗っているかもしれません。でもなんか楽しくて、もっと動きたいって思ってしまいます」


「気持ちは分かるけれど、思ったよりユナの動きが良くて結構貰っちゃったからね。疲れちゃったから体を休めたいかな。汗をかいたし、溜まった洗濯物も処理しないとね」


 馬車から拝借した服の処分と、下着類の補給、その他諸々の雑事が溜まっている。拾った服は荷物になるので売って処分し軽くしたい。


「分かりました、ではお湯を貰わなければいけないですね。体を拭かなきゃいけないですからね」


 うん? ああうん、そうだね、体を拭かなきゃいけないからね。


 なんかユナの目が座っているけど、どうしたんだろ?


 ……嫌な予感がする。




 ◽️◽️◽️





 ランプの灯りが煌々と室内を照らす。


 湯桶を前にわたしとユナはベッドに腰掛けていた。


 わたしの当初の予定だと、ベッドは2つで左右の壁沿いに1つずつのイメージだった。だから真ん中にロープで仕切りをかけて生活スペースを区切れば問題ないだろうと、たかを括っていた。


 でも実際はダブルベッドが1つだ。どうやっても相手のことが見える。パーソナルスペースなんて無い。


 この部屋は、本来であれば男が女を連れこんで一晩を共にするような時に使う部屋だ。わたしたちは、ユナの早とちりとわたしの確認不足によって、同衾せざるを得ない状況に陥ってしまった。


 さて、この状況をどうしたものだろうか。


 逃げ場のない、2人きりの薄暗い密室で、ユナがわたしに向かって話しかけてくる。


「先生、体を拭かせて頂きますので、脱いでもらっても良いですか?」


 いつのまにか先生呼びが定着してしまった。教え子と同室なんて風聞が悪い上に、生徒から服を脱げと圧力をかけられている。


 理性さんのHPゲージが、まるでゲームでいう毒状態のように少しずつ削られているのが分かる。


 ユナの指示を、今、拒否したところで、一晩過ごす部屋が同じなのは変わらない。いずれ同じ問題で苦しむことは明白だ。諦めて立ち上がってから、わたしは無言で服を一枚ずつ脱ぐ。


 服を脱ぐ度に、理性ゲージが目減りする。始めに3本あったとしたなら、既に1本は消え去ってしまった。残り2本。果たして最後まで持つのだろうか。


 下着だけになっても、わたしは黙ったままだ。ユナの次の指示を待つことしかできない。緊張で喉が渇いているのが分かる。わたしから行動できないのが酷く情けない。仕方がないだろう。だってこう言った状況に経験がないんだから仕方がない。


 でも、それはユナも同じはずだろうに。だというのに、どうしてか彼女は対して気にもしていないように見える。いつもと変わらない声色で、わたしに話しかけ続ける。


「背中を拭きますね」


 初めて会った時は自信なさげだったのに、2、3日で随分と積極的になってしまった。女の子は成長が早いっていうからね、仕方ないね。


 男のわたしは、成長が遅いから、こんなに緊張してしまっているのだろうか。渇いた喉をなんとかしたくてゴクリと唾を飲み込むが、予想以上に大きな音が鳴ってしまって恥ずかしい。今の音がユナに聞こえていなければいいんだけど。


 わたしの背後から、ぽちゃぽちゃ、たぱたぱと、お湯で濡れた布を絞る音が聞こえる。静かな室内で響く水音は耳触りが良くて、そのまま眠ってしまうような心地よさだ。


 戦闘時でもないというのに、いつのまにかわたしは気配察知のスキルを使用していた。


 背後にいるユナの動きに全神経を数中させる。何があってもすぐに対処できるように。


 対処って、なんだ?


 背中に布が触れる。ゆっくりと丁寧に、拭き残しの無いようにわたしの体を隅々まで綺麗にする。まずは肩甲骨の辺りから。次に首の付け根。そこから順に下に降りていく。おなかの横と腋に手が伸びた時は思わず変な声が出てしまった。


 長い時間をかけて、腰から上はおおよそ拭き終わった。次は前が始まるぞと、覚悟を決めてユナの指示を待っていると、後ろから声をかけられた。


「腕を上げてください」


 もう脇は終わったのに、まだ拭くの?


 予想外の指示に、準備していた覚悟が霧散する。


 それでも、今のわたしはお人形さんなので言われるままに腕を上げる。すると……


「ひゃ、ちょっと何するの!?」


 ブラをいきなり掴んで、持ち上げて脱がせようとしてきた。


「これ上から被ってるんですよね、脱がしますよ」


 合ってるけど、心の準備が、あふん。


 強引に剥ぎ取られてわたしの胸周りが露わになる。隠すものを急に奪われて、頼りなさが不安で思わず胸を両腕で隠す。


「ちゃんと全身拭かないといけませんから、早くしないと風邪を引いてしまいます」


 ユナはそう言うと、強引にわたしの腋の隙間から手を差し込んで胸を開く。そして改めて背中側から胸周りを拭かれる。文句はあるけどべたつきがなくなって気持ちいいので黙っておく。


 これ上を剥ぐくらいだから下も剥がれちゃうのかな。なんて考えてたら無言で前に回り込んできた。思わず再び胸を隠す。


「……本当に女の子みたいな反応ですね。可愛いです。恥ずかしいんでしょうけど、諦めてください」


 ユナは強引に腕を開いて、わたしの両腕を一纏めにし頭の上に持ち上げられる。わたしはその状態で、露わになった胸を布で拭かれる。他人に触られた経験がないので嬌声が漏れ出て恥ずかしさが加速する。理性ゲージが減る。


 自分より年下の女の子に介護されるのは、なかなかに変態的なシチュエーションだ。


 わたしは恥ずかしさのあまり、先ほどからユナの顔を見ることが出来ずに顔を斜め上に向けている。だからユナがどんな表情をしているのか、今は分からない。


「私は孤児院出身なので、小さい子の面倒を見るのは慣れていますが、先生は小さな子よりも手がかかりますね」


 小さくため息を吐きながらユナが愚痴を溢す。


「初めてなんだから仕方ないじゃん、そんな言い方しないでよ」


 幼児以下だと言われて凹みます。


 それにしても、孤児院の出身だと言うのは初めて聞いた。もっと落ち着いた状況で、身の上話を聞きたかった。


 現実から目を背けるようにユナの生い立ちに思考を巡らせていると、残酷な宣告がユナから告げられる。


「はい、上は終わりましたよ。次は下を脱いでください」


 きた。


 理性ゲージが急速に減る。


「心の準備が……」


「こっちは既に準備できているようですが……」


 ユナがわたしの下半身に向けて頭の角度を下げたのが分かる。わたしは未だに恥ずかしさから、顔を背けているのでユナの表情は分からない。


「仕方ないじゃん、生理現象なんだから!」


「それでは、心の準備をしている間に、私を拭いてください」


 ふぁっ!?


 言うが早いか、スルスルと服を脱ぎ出して下着だけになっちゃった。


 覚悟ガンギマリ過ぎて呆然とする。


 さらにブラまで脱ぎ出した。思わず目を逸らす。ゲージが減る。もう3割残っていない。


「お願いします」


 恐る恐る顔を戻すと背中を向けてくれていたのでホッとした。


 さっきから、意気地が無い行動ばかりで、自分で自分が嫌になる。いいかげんわたしも覚悟を決めよう。年下の女の子にここまでさせているんだ。年上のわたしが頼りないのは情けなさすぎる。


 でもやっぱり緊張するから会話して緊張をほぐしてみよう。


「そういえばユナの年齢を聞いてなかったね、15歳くらい?」


「えっと……」


 聞かされた年齢は想定外のものだった。


 まじか、わたしはこれから一回りも年齢差がある女の子と寝るのか。


 犯罪だ。


 罪は償おう。


「年の割には良い体をしてるね、綺麗だよ」


 何言ってんだわたしは。変態親父か。


「……ありがとうございます」


 絶対キモいって思われた。穴があったら入りたい。


 ……入るのか、今から。


「えっと、孤児院出身だと、冒険者になるのが普通なの?」


 会話に集中することで、裸体を意識しないようにする。あ、ほくろみっけ。


 ほくろを探すことで意識を別の方向に向ける。


「職人などに弟子入りできる子もいますが、基本は冒険者になるしかありませんね。わたしはあまり人付き合いが上手くないようで、伝手を作ることが出来ませんでした」


 背中側は大体拭いたので、左腕を拭いていく。


「初めて会った時、なんて真面目で不器用な子なんだろうなって思ったよ。自分を売り込む気がなさすぎる」


 右腕を拭いていく。今はない肘周りは、特に優しく、丁寧に拭く。


「ん、私は、先生はどこかの貴族の使いで、んん、調べものか依頼の申請に来ているんだと思いました。メイドの格好でしたからね。近寄らないつもりだったんですが……でも気づいたら声をかけていました」


 背中側が終わってしまった。


 ここはわたしから声をかけるべきだろう。


「こっち向いて」


 カタコトになってしまった。


 ユナがゆっくりとこちらに振り向く。


 慎ましいが綺麗で形の整ったそれにどうしても目が行ってしまう。


 白い肌に対して、顔だけは真っ赤に染まっている。


「拭く必要がないくらい綺麗だよ」


「嬉しいですが……拭いて欲しいです」


 無言で頷いて、前半分に手をかける。


 首回り、脇の下、胸。おなか周りが終わった。もう上半身は拭くところが無い。


「心の準備は出来ましたか?」


 何について問われているのかは、分かっているつもりだ。


 理性ゲージが底を打つ。


「先生がわたしを拭くのを続けるか、私が先生を拭くか、選んでください」


 でも、順番は守ろう。まずは体を拭いて綺麗にしよう。


「布は2枚あるから、一緒に拭こうか」



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