第8話 ユナ、切断耐性✖️
単独のホブゴブリンに遭遇した。
「わたし1人でも倒せるけど、せっかくだしユナが倒してみようか」
ユナが頷くので、作戦を説明する。
「周りには他の魔物はいないみたいだけど注意してね。わたしが腕や脚を削るから隙があったら撃って。何回撃ってもいいよ、練習だからね。射線には入らないように立ち回るから」
早口で言い残して、わたしはユナを離れてホブに遠回りに近寄る。ホブゴブリンがわたしに気づいた。ユナには気づいていない。上手く釣ることが出来たようだ。
以前見た個体とは違って、棍棒ではなく大きな剣を持っている。殺した冒険者から奪ったのだろうか。棍棒より殺傷能力が高そうだ。
短剣を抜いて近寄ると、大きく両腕を上げて大剣を振りかぶる。相変わらずワンパターンな攻撃しかしてこない。こちらにとっては都合が良いけれど。
振り下ろされる大剣の間合いから少しだけ遠くに避けて、振り下ろした後の硬直を狙って両手首に1回ずつ斬撃をお見舞いする。雷魔法を添えて。
(雷剣)
稲光を纏う短剣を振って、まずは手前の右手首を切断する。振り抜く勢いそのままに踏み込んで、返す刀で左手首を落とす。これでもうまともには戦えない。強く後ろに飛んで間合いをとる。
切断された両腕を掲げて、ホブゴブリンが絶叫する。今だ!
「ユナ!」
今だ、撃って!
今なら隙だらけだ、首を狙えば1発で倒せるだろう。
しかし5秒待っても、魔法は飛んでこない。不思議に思って、目の前のホブゴブリンを警戒しながらも、ちらりとユナの方を見やると。
「ひ、はぁ、はっ」
震えながら、杖を支えにへたり込む彼女の姿がそこにあった。
他の魔物から攻撃を受けたんだと思って、周囲を見回しても、気配を探っても見つからない。原因は分からないけれど、何かが起きたんだ。
ホブゴブリンをわたしだけで手早く処理して、ユナに駆け寄る。呼吸が荒い、何が起きた?
「落ち着いて、もう倒したよ」
背中をさすって、落ち着かせようと試みる。少しずつ呼吸が落ち着いてきた。頃合いを見計らって話しかける。
「怪我はしてない?」
「……はい、大丈夫です、すみませんでした……」
話せるくらいには回復したようだ。でもこの調子では戦闘継続は避けたほうが無難だろう。無理をしても危険なだけだ。
「今日はもう帰ろう。わたし疲れちゃったよ」
「……すみません……」
「ちょっと待っててね、色々回収してくるから」
息絶えたホブゴブリンに近寄り、魔石と大剣を回収する。大剣は何とかポーチに入った。売ったりすれば幾らかにはなるだろう。
その後、意気消沈するユナを支えながら、ギルドまで戻った。帰り道では2人とも口数少なく、わたしも何を話せば良いのか分からなかった。
ギルドに着いて、換金手続きを行う。今日獲得した魔石分で1人当たり銀5銅3の稼ぎになった。ユナに「私は何もしていないから」と遠慮されたけど、大剣はこっそりわたしが貰っているし、経験や検証結果でわたしは得をしているので無理矢理押し付けた。余計に凹んでいるので少し多めに貰ったほうが良かったのかもしれない。
昨日と同じ時間に酒場で会う約束を取り付けて、部屋に各々分かれた。
ベッドに横たわって、ユナの急変の原因について思考を巡らせる。帰り道で散々考えて、当たりは付けていた。おそらくわたしの考え無しな行動が原因だろう。少し配慮が足りなかったかもしれない。
でも、冒険者を続けるのであれば、ユナは克服しないといけない。
◽️◽️◽️
酒場で夕飯を注文して、2人で待っている時間が辛い。周りの喧騒が、昨日と違って鬱陶しく感じる。
さてどうやって解決に持っていこうかとわたしが考えていると、ユナが呟いた。聞き逃すまいと耳をそばだてる。
「ホブゴブリンの手首が……落とされて。それで頭が真っ白になってしまいました」
やっぱり、あれが原因だったんだね。
「わたしは西のピルサスで腕を失いました。出くわしたホブゴブリンに腕を潰されたんです」
「うん……」
「腕は治癒出来ないくらいに酷い怪我でしたので、無事なところも含めて肘まで切断して縫合しました」
「……そっか」
「今日、手首を失って悲鳴を上げてる魔物を見て、自分に重ねてしまったんだと思います。……わたしは、ホブゴブリンを見て可哀想だと思ってしまったんです。リンさんにお世話になってばかりなのに、本当に申し訳ないです」
彼女にとって余計に不幸なのは、そのトラウマに気づいたのが風魔法をレベル2に上げてしまった後だってことだろう。風の刃で攻撃するたびに、トラウマは再発するだろう。あまりにも組み合わせが、タイミングが悪かった。
「わたしのことは気にしなくて良いよ。明日以降をどうすれば良いか考えよう。大丈夫、何とかなるよ」
「明日以降、どうすれば良いんでしょうか……」
魔法の射程を伸ばせばどうにかなると思っていたのに、いざ伸ばしてみれば魔物に使うと自分のメンタルが傷つけられちゃうんだもんな。どうすれば良いのか分からないよね。
「……良し。ユナ、ご飯を食べたら部屋にお邪魔しても良い?」
「えっ?」
「心配しなくても、襲ったりしないから安心して」
ウェイトレスさんが料理をわたしの前に置いていく。
今日のメニューは若鶏の手羽先だ。美味しそう。
「腕、見せてよ」
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