第4話 女魔法使いのユナ

「少しお話ししませんか?」


 どうしようかなと思ったけれど、特に断る理由もないので、受け入れることにしよう。どうせ今日やることはもう済ませたし、街の中を探索するつもりだったけれど、急ぐわけでもない。


「構いませんが、どこでですか?」


 変なところに連れて行かれそうだったら、流石に断るよ?


「あちらのテーブルでお願いします」


 彼女が杖で指した方を見やると、ちょうど2人がけの机が空いていた。ギルドの中なら人の目もあるので、安心して話を聞くことが出来る。


 頷くと、先行して彼女が向かったので着いていく。


 後から席について向かい合うと、彼女がウェイトレスさんを呼んで2人分の飲み物を注文する。奢ってくれるみたいだけど、飲んだら断りづらくなるお願いとかされそう。その場合は飲んだ上でお金を適当に置いて逃げよう。


「それで、わたしに何の用ですか?」


 そんなつもりはないけれど、少し攻撃的な言い方になってしまった。反省しよう。


「私とパーティを組みませんか?」


「パーティ……ですか」


 真っ当な提案すぎて少し拍子抜けしてしまった。


「はい、遅れましたが、私の名前はユナと言います。今は1人で冒険者をしていますが、ロパリオを拠点に活動したくて、先日西の街から来ました」


 ペコリと頭を下げてから、ギルドカードを机に出す。


 わたしが持っているのと同じような無骨な鉄板に『冒険者ギルド会員 ユナ G級』と刻印されている。


 ユナがギルドカードを提示してくれたので、わたしも見せようと思ったけど、彼女は手で制して話を続けた。


「一応水魔法と風魔法が使えますが、射程が短いので接近戦をしないと使い物になりません。接近戦は不得手です。訳あって右腕は見ての通りですが、精一杯努力しますので、どうか」


 そう言って、深く頭を下げる。


 なんてクソ真面目で、不器用で、自分のアピールが下手な子なんだろう。彼女の第一印象はそんなどうしようもないものだった。


 魔法の欠点なんて黙っていればいい、接近戦が苦手なのもだ。隻腕なのも見れば分かるから言わなくていいのに。自分の短所ばかりアピールして、パーティを組む気があるのだろうか。


 あるんだろうな。真面目だから、嘘をついて裏切るのが嫌だから、最初に全て説明しているんだろう。生きづらいだろうに。


「頭を上げてください」


 ユナがゆっくりと頭を上げて、わたしと目が合う。不安さを隠しているけれど、薄らと滲み出ているのが感じ取れる。


「リンです、ギルドカードはこちらです」


 机の上に、彼女と同じようにわたしも提示する。


「F級……」


 彼女が何やら呟くが、それには応じず、今度はわたしから話を振る。


「どうしてわたしに声をかけたんですか?他にいくらでもいると思うんですけど」


「他の人には全て断られています。新しく見かけたには声をかけるようにしています。特に女性には」


 あー、そうだよね、そうでもないと、こんな格好のやつに話しかけないね。


 それに女の子1人だから、男の冒険者には声をかけられないだろう。たまに見かける女の冒険者も大抵は既にパーティを組んでいるだろうし、わたしくらいじゃない?条件に合うのって。


 苦労してきたんだろうな。戦闘が不得手で、腕が不自由で、仲間もいない。わたしがそんな状態でこの世界に放り出されていたらどうしていただろうか。


 組んであげたいな。


「わたしは雷と水と土が使えて、そこそこ近接が得意です。投擲も得意なので遠距離も出来ます。ソロでホブゴブリンを倒せるくらいの腕はあります」


 何だか自慢みたいに聞こえるが自己アピールは長所を伝えなければ意味が無いのだ。許して欲しい。


「魔法を使える知り合いが周りにいないですし、あなたと見識を深めて実力の向上を図るのはいいかもしれませんね。パーティを組んでも構いません」


 彼女の不安そうな表情が一転して、期待と希望を含んだものに変わる。嬉しいだろうね。でも……。


「ただ、質問があります。あなたは何で女性を選んで声をかけていたんですか?」


 真面目な彼女には、わたしも真剣に向き合うべきだと思うんだ。


「それは、男所帯に混ざるのは抵抗があって、私は女なので。貴方にも分かりますよね、女性ですし」


 そうでしょうとも、これはただの確認だ。


「わたしは男です」


 結構勇気がいるんだぞ。カミングアウトは。


 わたしと彼女との間でしばし沈黙ができる。建物の中の喧騒が先ほどよりもよく聞こえる。


「は?」


 そんな反応になるのはわかっている。どうやって信じてもらおうかな。身分証も無いし、ヴェニー式判別法を女の子に使うとセクハラだし。


「こんな格好ですが、これは趣味で、体は男なんです。証明出来ないですけど」


「嘘……」


「嘘ではありません。わたしは女性として振る舞いますが、貴方が男性と組むのに抵抗があるのであれば辞めた方がいいです」


 またしても、沈黙が続いた。少ししてから彼女が口を開く。


「……信じられません。信じられませんので、組みたいです」


 そうきたか。男な訳がないから組むと。わたしとしてはせっかく告白したので信じて貰いたかったけど仕方ないね。


 わたしが彼女とパーティを組みたいと思っていて、事情を説明した上でそれでも組みたいというのなら、わたしに非はなくなる。後から事が発覚してもわたしは悪くない。悪くないけど揉めそうだ。嫌な別れはもうしたくないのでもう少し言質を取っておきたい。


「わたしが性別を告白したのは、後から揉め事が起きるのが嫌だからです。男であることを公表しなかったために男性に告白されて、揉めた経験があります。そういう結末が嫌なので、信じて貰えなくても構いませんが、後になって文句を言われても困ります。ご承知おきください」


「……」


「それにロパリオにいつまで滞在するかも分かりません。少なくとも月単位で拠点にするつもりはありますけど、半年や1年いるかと言われると断言できません。それでも構わなければよろしくお願いします」


 左手を差し出して、握手を求める。


「……分かりました。まだ信じられませんがあらためてよろしくお願いします」


 彼女がわたしの手を取って、握り返す。握手を交わして、ここにパーティが結成された。


 パーティ名は何が良いかな?







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