第3話 港湾都市ロパリオ
「ロパリオは人口5万人くらいの、この辺では1番規模のデカい都市だ。北の山脈から流れ込む川を中心に発展した街で、現在は港湾都市の名が示す通り、南側には大きな港があって、水産品の加工や保存を行う漁業施設が集まっている」
ディーノさんがロパリオの簡単な説明をしてくれるので、わたしは黙って耳を傾ける。
「西門、北門、東門が大きな街道に繋がっている。俺たちが今いるのは東門だ。各門の間にも馬車が通れる程度の通用門があるぞ。街の構造は、大まかに言うと、川を挟んで西側が行政区と港区、東側が商業区と居住区だ。この後向かう冒険者ギルドは商業区の大通り沿いにある」
なるほど、規模的にはマリスラの10倍以上はありそうだ。
馬車の横を歩きながら、眼前に迫る大きな壁を見上げる。マリスラにも防壁はあったけれど、高さはそれの3倍、10メートルくらいはありそうだ。巨大な壁が視界いっぱいに広がっている。
「言葉では街の詳細を詳しく説明できないから、後でギルドの資料室で確認した方が良いよ、周辺の魔物も調べなきゃいけないだろうし」
フェイさんがディーノさんに付け加えてわたしに説明してくれた。
マリスラから出て1日目の夜。警戒していたが魔物も出ずに無事に野営を乗り切った。2日目のお昼頃になって、わたしの後方、マリスラから馬車が来たので声をかけて同行させてもらった。多分普通なら野党などの関係もあって警戒されるんだろうけど、わたしの外見もあってか案外簡単に受け入れられた。
商人のマルクさんと、護衛の冒険者のディーノさんとフェイさん。この3人にわたしを加えた4人で1泊し、今日は2日目の正午過ぎくらいだ。
「ここまでだ。2人ともご苦労様でした。リンさんもお疲れ」
マルクさんが護衛の2人を労う。わたしはおまけで付いてきただけなので、むしろお礼を言う立場だ。
「ありがとうございました、おかげでだいぶ楽をさせていただきました」
「こちらこそ。リンさんも魔物に襲われた時に十分働いてくれたからね。ただ、報酬は勘弁してくれ」
マルクさんが冗談めかして笑う。わたしも笑顔だけ返して返事とした。
「リンちゃんはこの後どうするの?私たちと一緒にギルドまで行く?」
「場所を確認したいので、同行したいです、お願いします」
「それじゃあ行くか。マルクさん、また依頼がある時は贔屓にしてくださいよ」
ディーノさんの軽口にマルクさんが手で返事をして解散になった。わたしは2人の案内を聞きながら大通りを一緒についていく。
「宿を取るなら、ここが第二候補。早めに確保しないと他の客と雑魚寝になっちまうから気をつけろよ」
「あそこの道具屋は女性向けの商品の品揃えが良いからオススメだよ」
ディーノさんとフェイさんから色々とアドバイスを貰いながら、町に着いて見聞を広げる。しばらくはこの街に滞在することになる。マリスラでの滞在が予定より短くなってしまったので、お金を多めに稼いでおきたいが、今日は情報集めに努めることにしよう。
「着いたぞ、冒険者ギルドだ」
マリスラのギルドの2倍くらい大きい建物だ。見ている側から、人が出入りしていて活気に溢れている。大きな街だと、やっぱりそれに見合った規模になるんだろう。
2人に連れられて中に入る。中の構造はマリスラのものとさほど変わらないようだ。飲食できる酒場みたいなところと、依頼情報を扱っている掲示板、窓口らしきカウンターには10人くらい受付嬢らしき人たちが慌ただしく客の対応をしている。
「あとは大丈夫か?」
「はい、お2人には親切にしていただき助かりました。ありがとうございました」
「私たちはここが拠点だから、何かあったら声をかけてね」
「じゃあな」
2人はそう言って、窓口に向かっていった。依頼の完了報告をしに行くのだろう。
わたしも色々と手続きをしなければならないが、まずは宿を確保しよう。入ったばかりのギルドを出て、2人に教えてもらった宿へ向かった。
◽️◽️◽️
オススメ度順に宿を訪ねてみたのだけど、結局宿は第三候補を選ぶことになってしまった。値段も内容も良い宿は早々に埋まってしまうらしい。一泊銀貨6枚、夕飯は別という宿に泊まることになった。マリスラの2倍の金額で、夕飯なし。夕飯がないのは、どこか別のところで食べるほうが楽しそうだったので良いのだが、それでもやっぱり高いと感じた。その分1日の稼ぎを増やさないと生活資金がすぐに底をついてしまいそうだ。
宿の部屋で待ちに待った1人の時間を手に入れて一息つく。ここまでずっと我慢していたのだ。やっと、拾ったメイド服に着替えることができる。
黒のワンピース、白のエプロンドレス、カチューシャ。可愛い。
「めちゃくちゃ可愛いし、着るけど、これで冒険者ですって言っても絶対に信じてもらえないよね」
メイドさんが短剣片手にホブゴブリンの首を飛ばす絵面を想像する。かっこいい。良し、わたしは自重しないぞ。戦うメイドさんになるんだ!
服の着方に悪戦苦闘しながら5分後、足元以外は完璧なメイドさんになることが出来た。身長の低いわたしのサイズにぴったりだったことに驚きを隠せない。もしかして神様もどきの支給品なんじゃないかと疑ったくらいだ。ブーツは膝までの黒のロングブーツを履き回している。流石にヒールやローファーだと戦闘や荒れた地形に耐えないからね。どうせロングスカートで見えないし問題ない。
髪型はどうしよう、メイドさんだしポニテで似合いそうだ。触角を左右に垂らして……良し、良い感じ。眼鏡もかけよう。ちょっと身長が足らないけどメイド長っぽい。
ポーチを腰に巻いて、短剣をベルトに固定して……うん、どっからどう見ても冒険者だ。大丈夫、わたしは冒険者だ。
ルンルン気分で部屋を飛び出す。誰かに見せびらかしたいし、ギルドに行こう、見せびらかすついでにマリスラからの拠点引き継ぎと資料確認しよう!
宿の受付のおじさんに声をかける。おじさんが戸惑っている。格好が変わりすぎて脳がバグっているのかな?さっきチェックインしたリンですと教えてあげて、わたしはギルドへ向かった。
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ギルドの受付で格好に驚かれながらも、拠点の引き継ぎを終えた。マリスラでの滞在最終日にジェーンさんから手続きを打診されたのでお願いしていたのだ。わたしがミリアさんへの手紙を書いている間に、実績等を纏めた書類を手早く作ってくれたので、ホブゴブリンの討伐実績が無駄にならなくて済んだ。
資料室で周辺の地図と、魔物情報を確認する。街周辺の魔物はマリスラより比較的強いみたいだ。その分素材の価値も高いみたい。人類にとって魔物は脅威だけれど、資源でもある。強い魔物がいるところは街も大きくなりやすいんだろう。
ここら辺だと、スライム、アサルトシープ、シマウルフ辺りが弱目の魔物みたいだ。マリスラとほとんど同じだね。他にはゴブリンとホブゴブリン。これらは余り出現しないけど、森の中に入れば割と出てくるみたい。あとは強いのだとガーゴイル。翼の生えた魔物で空を飛んで突っ込んでくるらしいから対空攻撃出来ないと苦労しそう。ホブゴブリンと同じE級だし油断できないだろう。1番強いのはD級のトロル。再生能力が高くて腕力も強い。その分数は少ないみたいだ。他にも魔物はいるみたいだけど、大体こんなところだろう。
資料室を出て、依頼情報を確認する。しばらくは慣れること優先で依頼を受けるつもりはない。失敗したら罰金だし、依頼人にも迷惑がかかるからね。
わたしが背伸びしながら依頼を目で追っていると、不意に後ろから声をかけられた。
「あなたは冒険者ですか?」
振り向くと、わたしより少しだけ背が高い女の子がそこにいた。
背が高いと言っても、わたしと比較してなので、一般的には低いほうだろう。紺色のローブを着て、紫色の髪をサイドテールで肩まで垂らしている。目はちょっとつり目気味で、クールな印象を受けた。何歳くらいだろう、身長も合わさってかなり若く見える。15歳くらいだろうか。左手には胸くらいまでの長さの杖を持っている。右手は……肘あたりでローブが垂れている。隻腕みたいだ。
「そうですが、何か?」
「っ……本当ですか?」
わたしの返事に何故か驚いている。そっちが聞いてきたんだろうに。まあこの格好だからね、珍しいけど世の中にはいるんですよ、メイド服の冒険者が。
「私も、冒険者なんですが……あなたはお1人ですか?」
彼女は周囲を見回している。私に連れがいないかどうか知りたいようだ。隠す必要もないので正直に答えよう。
「この街に来たばかりですので1人です」
それを聞いて迷うような素振りをしてから彼女が提案する。
「少しお話ししませんか、お時間は取りませんので」
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