2章 ぼっちの女魔法使い編

第1話 落ちた馬車

「これで3匹目……っと」


 マリスラから歩いてどのくらい経っただろうか。前世の時間感覚で、5時間くらいだと思う。多分今は昼の2時くらいかな。


 ちょくちょく襲いかかってくる、シマウルフという小型のオオカミの魔石を死体から抜く。名前の通り背中にシマリスのような模様がある。大きさはポメラニアンくらいなのにしっかりと牙があって、3匹1組で襲いかかってくるので油断できない。


 既に何組か討伐しているけれど、面倒だし旅を急ぐ身なので魔石だけ回収して死体は森に放置する。魔物が死体に寄ってくるかもしれないけれど、仕方がない。


 ひたすらに西へ向けて歩く。港湾都市ロパリオまでの道のりは長い。

 辺りの景観が少しずつ変わってきた。平野から、森。森から山へ。いつのまにか街道の横には20メートルくらいの深さの谷が出来ていた。落ちないように、足元に注意しながら進む。ところどころ崖が崩れているところもあるので、出来るだけ壁側に沿って歩く。


 そろそろ山の頂点かなというところで、道が大きく崩れているところに出くわした。下手すれば馬車が通ったときに車輪を取られて谷底に落ちてしまいそうなくらい抉れている。


「まさか落ちてたりしないよね?」


 恐る恐る崖側に近寄って谷底を覗き込むと、崖の下に木を薙ぎ倒して何かが落ちたような後と、奥の方に馬車らしき構造物があるのを見つけてしまった。案の定、崖を滑り落ちてしまった人がいるようだ。まず間違いなく助からないだろう。


「……生きている人はいないだろうけど、一応見に行ってみようか」


 万が一生きている人がいたら、怪我をした状態で救いを求めているだろう。確認しておかないと後悔して、夢見が悪くなりそうだし、斜度自体はそこまでキツくないから上手くロープを使えば降りられそうだ。


 降りられそうなポイントを探して下を覗き込む。もう少し進んだところから木を伝っていけば比較的安全に降りられそうだし、戻ってくるのも難しくなさそうだ。


 木を伝いながら少しずつ下へ降りる。手持ちのロープの長さは15メートルくらいしかないので、使い所を考えなければならない。


 なんとか崖の下まで降りることが出来た。下は小さな川になっていて涼しい風が肌を撫でて気持ちが良い。


 馬車があったところまで少し戻らなければいけない。馬車に魔物が寄っていたりすると数によっては危険なので、気配を伺いながら馬車へと近づく。


「ダメそうだな……」


 一応、馬車の形は保ってはいるけれど、車輪は無くなっているし、幌はボロボロで穴が空いている。生きている人はいないだろう。馬車の傍らに馬だったと思われる白骨死体が横たわっている。まだ虫が集ってはいるので、何ヶ月も前ということはないだろうけど、少なくとも1週間でここまでにはならないと思う。死体に肉はほとんど残っていない。大方魔物がほとんどを食べてしまったんだろう。


 他にも、人らしき頭骨があったので、手を合わせて冥福を祈る。お墓を作る余裕は無いので申し訳ないがこのままだ。せめて何か遺品になるような物を探してあげよう。


 どうやらこの馬車は商人が荷運びをするのに使っていたようだ。いくつも木箱が散らばっている。馬車の中にも僅かだが残っているようだ。壊れた木箱から香辛料のような小さい木の実や、腐った果物などが飛び出している。これもほとんどが魔物か何かに食べられてしまったようだ。


 一応、全ての木箱を確認する。割れた陶器、日用雑貨、腐った食物。色々あるがまともに使えそうなものは少ない、遺品になりそうな物も見つからない。


 最後の一箱を開けた。中には布類がぎっしり詰まっていた。


 なるほど、服の類は割れたり腐ったりしないもんね。ここに置いたままにしても誰が使うわけでも無いし、貰っていってしまおう。いらないものは後で売って路銀にしてしまえば良い。


 木箱から取り出して布袋に仕分けしていく。割と高級志向の服のようだ。材質がいいしほつれもない新品ばかり……ってえっ!


 これは、もしや、あれか?


 黒いロングスカートのワンピース、白いエプロンドレスにペチコート。おまけにフリルのついたカチューシャまで。


 メイド服フルセットじゃん。しかも2組。




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