第43話 ◾️ヴェニー100%(最終日)

 客がいないから都合が良いと言って、母さんは買い出しに出掛けた。ついでに色々回ってくるからしばらく戻らないと言っていた。去り際に「リンは今日は部屋にいるみたいだよ」なんて捨て台詞を残していった。お膳立てが過ぎて嫌になるが、都合が良いので文句は言えない。


 昨日一晩考えた。


 リンと一緒にいたい。リンが好きだ。


 リンは冒険者だ。いつまでも町に居続けるわけじゃない。いつかはこの町を去っていく。


 だけど結局俺は宿屋がやりたい。その思いを捨てきれなかった。


 つまり、俺の願いを2つとも叶えるためには、リンと一緒に宿屋をやるしかない。もうこれしかない。


 リンと出会った時に冒険者になった理由を聞いた。その時リンはこう答えた。


『路銀も少なくなったから、仕方がなく冒険者になったよ。強いて理由を挙げるとしたら、他にやれることがなかったから』


 仕方なく冒険者になった俺は、リンの境遇に自分を重ねた。宿屋をやりたくても出来ずに、冒険者になった俺は、リンに共感した。


 俺と同じ理由なら、リンに冒険者を続ける理由なんて無い。そうであれば、一緒に宿屋をやったって、良い筈だ。


 問題はない。


 全て上手くいけばついでに親孝行まで出来る。これでいい。完璧な計画だ。


 後は、会話の流れだ。


 まずは「宿屋を一緒にやってくれ」だ。


 いや違うだろっ!いきなりで意味不明だ。舞い上がるな落ち着け俺。


 まずは好意を伝えよう。いや待てそれでは断られたら終わってしまう。やはりダメだ。


 最初に聞くのは冒険者にこだわりがあるかどうかだ。言質を取る。


 有ると言われたら、もうしょうがない。1度宿屋は諦めて、リンについていく流れに向ける。この町で出来なくたって、俺にも、リンにも未来がある。いつか金を貯めたら別の街でやってもいい。俺はリンと一緒にいたい。それが一番だ。


 無いと言われたら、説得しやすい。宿屋になるかどうか悩んでいると言ってみよう。リンは俺の事情を兄貴から聞いて知っている。


 その流れで、リンと一緒にいたい。リンが好きだ。宿屋をやろうと誘う。言質を取った後だから冒険者を続けたいと言う理由では断りづらい筈だ。どうしても冒険者をやると言うならついて行きたいと伝える。


 罪悪感を感じて断りづらくなる筈だ。


 宿屋になるのを断れば、俺は宿屋を諦めてリンについて行く。そう言う流れに仕向けることで、「俺と冒険者を続けるか」「俺と宿屋をやるか」の2択しかないように錯覚させる。俺の告白を断ると言う選択肢を排除する。


 冒険者をやる明確な理由が無いと既に自分で言っているのに、俺の夢を断る。それでも無理矢理ついて来そうな俺と一緒に冒険者を続けるのは、嫌だろう。リンは優しいからな。


 卑怯でもいい。俺の願望を全て叶えるために全力を尽くすだけだ。


 リンの部屋をノックして、声をかける。


 ホブゴブリンと戦う時より、心臓が激しく鳴っている。


 心臓を掴む掌を気にする余裕はなかった。


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