第41話 これからのこと(17日目)

「怪我が治ってよかった」


「ああ、肩の傷も塞がったし、折れた腕も治ってる。あのポーションいくらしたんだ?弁償するよ」


「別にいいよ。貰い物だし値段の相場もわからないし」


 使わないで取っておいてよかった。無ければ本当に死んでいただろう。

 同じようなポーションを仕入れておかないといけないな。


「今更だけど、なんでリンが来たんだ?」


 村からの帰り道、本当に今更なことを聞かれる。


「わたしがギルドに着いてすぐ、依頼情報を眺めていたんだけどね」


 そこで、冒険者同士の会話を小耳に挟んだ。

 東の村の周辺で、ホブゴブリンを見た人がいたこと。

 それに合わせたように新規の依頼が張り出されていて、でもホブゴブリンについては書かれていなかったこと。

 誰もギルドにホブゴブリンの情報を報告していないかもしれないということ。

 仲間内の冒険者には知れ渡っているから、誰も受けないと思っていたのに、依頼の木板が無くなっていること。

 

 そこまで聞いて、ヴェニーくんが討伐依頼を受けそうな素振りをしていたことを思い出したわたしは、ミリアさんに報告して、青い顔をしたミリアさんから村の場所を聞いて駆けつけた。


「わたし達はもっと他の冒険者と仲良くするべきだったね」


 わたしがヴェニーくんにそう言っても、しばらく黙ったまま、何も返してくれずに彼は俯いていた。


「リン」


「なあに」


「助けてくれて、ありがとう。お前が来なきゃ俺は死んでいたよ」


 めちゃくちゃ死にかけだったもんね。本当に間に合って良かったよ。


「いいってことよ」


「なあ、リン」


「なあに」


「俺は、お前と……」


「そういえばどうだった!わたしの魔法!すごかったでしょ!」


 雷魔法を発動して、両手の間でバチバチと行き来させる。


「……ああ、いつの間にそんなのできるようになったんだよ」


「ギルドで秘密特訓してたんだ。驚かせようと思って」


 こんなことできるんだよーと言って、剣に雷を纏わせて見せつける。


 すげー!とかおおー!とかそんな反応を期待していたのに、思っていたよりヴェニーくんの反応が悪い。


 よくない流れだ。


 多分、わたしと町を出る、っていう話になる。だけどサーティスさんから後継の件をまだ伝えていないのであれば、順番がよろしくない。もう手遅れかもしれないけれど、少しでも傷を浅くするんだったら、わたしは後回しの方がいいはずだ。


「リン、聞いてくれ」


「待って。ヴェニーがわたしに何を言いたいのか、なんとなくは分かってるよ」


 彼の言葉を遮る。


「一晩だけ待って。その間によく考えて」


 サーティスさん。時間切れです。今晩覚悟を決めてください。




 ◾️◾️◾️




「良かった。無事に戻ったか」


 サーティスさんには、東門を出る時にわたしから事情を説明していたので心配だったのだろう。ヴェニーくんの姿を見て安堵していた。兄弟だもんね。心配して当然だ。


「ただいまです」


「戻ったよ、情けないことに死にかけたけど、リンのおかげでこの通りだ」


「死にかけたようには見えないが、どこか怪我しているのか?」


 サーティスさんが胡乱げに首を傾げる。


「リンに高い効果のポーションを貰った。それまでは血まみれだったし、骨も折れてた」


 もう済んだことだから気にしてもしょうがないけど、身内なら当然心配だろう。サーティスさんの顔が青くなっている。


「嬢ちゃんには感謝しても仕切れねえな。弟の命を救ってくれて本当にありがとう」


「構いません、報酬はちゃんと貰います。ヴェニーくん半分ちょうだいね」


「全部やる……って言っても無駄だろうからな。分かったよ」


「今日は素直だね」


「頭が上がらねえからな、しばらくは仕方ない」


 サーティスさんはわたしたちのやり取りを見て、楽しそうに笑っているが覚悟を決めて貰わなきゃいけない。近寄って耳打ちする。


「今日言わないと全部手遅れになります、お願いしますね」


 表情が歪む。気持ちはわかるけど、これまでダラダラしていたんだからしょうがない。逆上したヴェニーくんに殴られるくらいは覚悟しておくべきだ。


「……ありがとう。分かったよ」


 離れて、ヴェニーくんに行こうと合図する。


「何話してたんだ?」


「ヴェニーくんの悪口」


「お前そういうのばっかりだな」


 おお、ついに反応が大人になった。揶揄い甲斐のある少年のヴェニーくんが大人になってしまった。成長を感じて嬉しいよわたしは。




 ◾️◾️◾️




 ギルドに着いてすぐ、ミリアさんが飛んでわたしの元へやってきた。


「2人とも無事で良かったです!」


 普段の落ち着いた様子が欠片も見られない慌てようだ。落ち着くのを待ってから、2人で事情を説明すると、ホブゴブリンが5匹と聞いて青ざめ、落ち着くまでまた待って時間がかかってしまった。なんとか倒したと伝えると「さすがはリンさんです」と言って納得してしまった。最近、ミリアさんのキャラが変わったような気がするけど気のせいだろうか。


 その後報酬の計算を行った。

 依頼報酬が金貨8枚、ホブゴブリンの魔石が5個で、銀7、銅6。合わせた金額を2人で当分して、1人当たり金4、銀3、銅8になった。


「あんなに大変だったのにこんなもんか」


「なんのトラブルも無ければ1人で金貨9枚くらいなんだろうけれど、それでもシープの方が労力に見合っているというか。やっぱり割に合わないね」


「2人とも忘れていますが、ホブゴブリン5匹とゴブリン6匹分の追加報酬がまだですよ。少し時間がかかるのでお待ちください」


 少ししてからミリアさんから呼び出しがあった。


「追加でホブゴブリンが金20、ゴブリンが金3、銀6で、合わせてこれくらいになりますね」


「金20ですか、1匹当たり4枚ですね」


「高いな」


「そうでもありませんよ。2人には申し訳ありませんが、これでも最低金額になってしまいます。本来、ホブゴブリンはE級の魔物になるのですが、素材買取部位もなく、強さの割に見合わない魔物なんです。E級冒険者1人と同等の戦力があるとされています。相手をするのを嫌がる冒険者が多いです。ですが今回のような追加報酬になる場合は設定されている最低金額から決定されますので……」


「確かにリンは簡単に倒してたけど、俺は1匹倒すだけでも満身創痍で、2匹目に関しては、ほぼ相打ちみたいな状況だったしな。ちょっと安いくらいか」


「ある程度の攻撃力があれば楽に倒せそうだけどなあ」


「普通はリンの見た目で首を一撃なんてできないぞ、少し自覚したほうがいい」


 追加報酬を合わせると、1人当たり金16枚くらいになった。大体、成人男性の1ヵ月分の収入を1日で稼いだと考えると、冒険者ってやっぱり稼げるんだね。強さが大前提になるし、常に死のリスクが付いてくるけれども。


 ……そろそろ忙しくなる時間だろうし、この辺でお暇しよう。わたしも慣れない距離を移動して正直疲れた。ヴェニーくんはポーションで治ったとはいえ、大怪我したんだから早く家に帰って休むべきだ。


「それじゃあミリアさん、この辺でお暇します」


「もう少しいていただいても問題ありませんよ」


 名残惜しそうな表情を浮かべるが、他の冒険者や受付さんにもいい顔はされないだろう。また今度だ。


「そろそろ冒険者が帰ってくる時間ですし、ご迷惑になりますから、では」





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