第39話 ばちばちだよ(17日目)

 片付けたゴブリンらしき魔物は無視して、大きなゴブリンを視界に収めたまま、彼に近寄る。


 全身ほぼ全てが血に塗れて、肌の見えるところはどこもかしこも青く腫れている。左腕はおかしな方向に曲がっているし、左肩から今も血が出ている。虚ろな目でわたしを見ているが、意識はあるだろうか。


 ポーチからポーションを取り出して、まずは左肩にかける。次は左腕だ。曲がってしまっているから、このままポーションを使ったら変な治り方をするかもしれない。


「痛いだろうけど我慢してね」


 返事は聞かずに腕を正しい方向に曲げる。


「ああああああああっ!!」


 腕にポーションをかける。これで治ってくれればいいけれど。

 最後に息も絶え絶えの彼の口に、残ったポーションを無理やり飲ませる。


「飲んで」


「んぐっ!ぇほっゲホ」


 多少むせているが無事飲み込めたようだ。


 ポーションは1本しかないし、まだ使ったことはないから効果の程は分からないけれど、神様支給の特別品だから効果が弱いということはないだろう。これで大丈夫なはずだ。


 周囲を見回すと、わたしが倒した小さいゴブリンの他に、大きいのが近くに1匹、遠くにもう1匹転がってる。大きいのがホブゴブリンって奴なんだろう。彼が1人で倒したのか。依頼内容はゴブリン10匹だったはずだ、どこかに他にも転がっているのかもしれない。


 こんな、ズタボロの状態になるまで戦ったんだ。


「よく頑張ったね、偉いぞ」


 頭を撫でて、褒めてあげる。痛かっただろう、苦しかっただろう。


 彼の目が一瞬見開かれて、その後緩む。


「ぼちぼちだよ」


「使い方を間違ってるね」


「ぼちぼち強いぞ」


「ヴェニーよりも?」


「ああ、お前は俺より強い、信用してるよ」


 笑顔で冗談が言えるなら大丈夫だね。


「そこで休んでて」


 さあ、魔法剣士リンのデビュー戦だ。


 それまで空気を読んで待機していたゴブリンが、3匹同時に襲いかかってくる。


 こちらはヴェニーが手負だから庇いながらの戦いになる。でもそんなのはわたしには出来ない。長期戦の才能が無いのは分かっている。であれば、速攻で3匹を行動不能にするしかない。


 まずは、目を潰す。姿勢を低くし小石を3つ掴む。


 1振り、2振り、ちっ3匹目はガードされた。2匹は目を押さえて悶え苦しんでいる。あっちの2匹は一旦放置だ。目が見えないのであれば、ヴェニーに手出しは出来ないはずだ。先に無事な奴を片付けよう。


 2歩で距離を詰める。姿勢の低いわたしを薙ぎ払うように、わたしから見て左から右に棍棒を振るう。後方に飛び避け、すぐさま前進。伸び切った右肘に、左の掌底を叩き込む。


(雷掌)


 魔力消費1の電撃を直接叩き込む。腕を振り切った状態のまま、雷魔法を受けて痺れたゴブリンが硬直する。隙だらけだ。

 掌底を打った勢いそのまま、横に一回転して、右手に持った短剣で、遠心力をふんだんに乗せた一撃をゴブリンの素っ首へ叩き込む。


(雷剣)


 溜まった魔力が青白い剣線を残しながらも、ゴブリンの首に食い込み、そこで一瞬止まる。骨で刃が止まったようだ。でも、そんなの関係ないね。


 バチバチと魔力が迸り、ゴブリンの首が宙を舞った。





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