第36話 ◾️ゴブリン討伐依頼2(17日目)
隙だらけのゴブリンの後ろから短剣を片手に走り寄り、首目掛けて斬り払う。
肉に食い込む嫌な感触を感じた直後、ゴブリンの首から血飛沫が吹き上がる。俺の力では、短剣で首を落とすことはおそらく出来ないが、致命傷を与えてしまえば後は放っておいてもいずれ死ぬ。次だ。
残り2匹のゴブリンはようやく俺の急襲に気づいたようだ。俺に近い方のゴブリンが振り向いたところを、右脇腹を狙って、左から右へ切り上げる。十分な手応えを感じた。確実に内臓に刃が届いている。次で最後だ。
「ギィアアア!ギアァアア!」
想像していたよりもカン高いゴブリンの鳴き声が耳障りだ。
仲間をやられて怒っているのか。
ゴブリンは目を釣り上げて、白い瞳の中に血管を浮き上がらせ、食いしばって俺にその不揃いな歯を見せつけてくる。口の端からよだれが糸を引いて地面に落ちる。
ゴブリンが右手に小さな棍棒を持って、俺に飛びかかってくる。その小さな短躯からは想像できない高さ、俺の目線くらいまで飛び上がって、棍棒を振るう。
左腕を持ち上げて、棍棒の打撃を受ける。攻撃が弾かれてゴブリンが地面に着地する瞬間を狙って、ゴブリンの首を横に薙ぐ。
「グゥェアッ!ァア……」
傷口を押し広げるようにブッ、ブプッと音が鳴りながら血が吹き出す。
間を置かずに、ゴブリンが動かなくなった。
なんとか無傷で勝てたようだ。
「ふぅ、なんとかなったな」
周囲の気配を伺いながら、倒したゴブリンの左耳を剣で削ぎ取る。討伐確認の為に必要だ。その後、血でベトベトになった剣を布で拭う。
魔石は拾わない。解体に時間が掛かるし、大した旨みもない。やるにしても全てのゴブリンを倒してからだ。
短剣の血を拭い切った後、鞘に戻して、小屋の方へ戻る。
残り7匹。
小屋から少し離れたところで先程と同じように様子を伺っていたら、都合が良いことに、また3匹のゴブリンが小屋から出てきてさっきと同じ方向へ向かっていった。
(さっきのゴブリンの戻りが遅いから様子を見に行ったのか?)
なんにせよ、各個撃破して数を削るだけだ。
後ろをつけて、急襲を仕掛ける。さっきよりも手早く片付けることが出来た。
ふと視線を感じて見やると、恨めしそうに目を見開いたままのゴブリンの亡骸と目が合う。俺を見ている。たまらず目を逸らしてしまう。
魔物の生き死になんて知ったこっちゃない。俺の将来の方が何百倍も大事だ。
残り4匹。
最後、情報通りなら残りのゴブリンは4匹。そのぐらいなら、同時に襲われても処理できる自信がある。2、3発頭を殴られたとしてもだ。盾で攻撃を受けた感触から、そう判断した。
(何匹か釣ってみるか)
小屋の裏側へ回る。小屋の裏は1メートルくらいの小さな斜面になっている。窓や裏口等の、外に繋がった場所は、入り口以外には無い、好都合だ。
その辺に落ちている、硬めで重さのある木の実を、小屋に向けて投げつける。
ゴン、と壁に当たり音を立てる。
少しして、異常を確認しにきたのか入口の方から1匹のゴブリンが裏へ回ってきた。
斜面を飛び降りざま、出てきたゴブリンの首目掛けて斬りかかる。
ゴブリンが悲鳴を上げながら倒れ伏す。残り3。
今の悲鳴を聞きつけた残りのゴブリンが、唸り声を上げながら俺に襲いかかる。先頭の1匹目が飛びかかってきたのを盾で防いだが、ゴブリンはそのまま盾にしがみ付く。その重さに俺の腕が地面に向かって引っ張られる。2匹目のゴブリンが俺の肩を棍棒で殴る。衝撃に顔を顰めるが大した威力は無い。
痛いとか怪我をしたとかは関係なく、ゴブリンに殴られたという事実に、頭に血が上る。ぶっ殺してやる。
盾にしがみついているゴブリンの首を目がけて短剣を突き刺す。残り2。抜いた瞬間に返り血が俺の顔にかかる。抜いた剣をそのまま右側のゴブリンを薙ぎ払うように斬る。残り1。
「だぁああっ!!」
死に体の2匹の少し後ろで慌てた様子の最後の1匹に走り寄り、怒りに任せて横なぎに首を払う。上手く骨の間に刃が通ったようだ。ゴブリンの首が飛んで、泉のように血が吹き出す。これで終わりだ。
なんとかなった。血まみれだ、体を拭きたい。
こんな時に水魔法があれば良いのにな。ああ、これでリンに旅の同行を願い出ることができる。これからはリンがいるから、水魔法があって便利になるな。
荒い呼吸を落ち着けるために、膝に手を付きながらそんなことを考えて、ふと顔を上げると。
俺と同じくらいの背丈の、緑色で、醜悪な面の、粗末な腰蓑を巻いた化物が、俺の前に立ち竦んでいた。片手には俺の腕より太いくらいの棍棒を持っている。
聞いてねえぞ。
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