第35話 ◾️ゴブリン討伐依頼1(17日目)

 15キロくらいだろうか。実際に歩いてみると、結構な長さの距離だった。


 少し、舐めていたのかもしれない。今までに、これほどの長距離を一度に歩くことはなかった。


 行きは良いとして、帰りはこれに追加でゴブリンの魔石を持って帰ることになる。10匹分全てを持ち帰れば、大体6キロから7キロくらいは増えるんじゃないだろうか。帰りのことを考えると少し憂鬱になった。


 マリスラの町から東に10キロ、そこから街道を外れて、馬車1台分の幅の道を村まで歩いた。村に着いてから、通りがかった村人を捕まえて村長宅まで行く。


 村長の家は、他の家と比較して少し大きいくらいの普通の建物だった。中に入って顔合わせをする。


 ギルドから発行された証明札を見せるまで、俺が冒険者かどうか半信半疑だったようだ。13歳のガキだから仕方がない。世間的には俺ぐらいの年齢の冒険者は珍しくないはずだが、田舎の集落だし、実情は知らないだろう。俺は宿屋の息子だから、普段から旅の冒険者の姿は見ていたので現実は知っていた。


 ゴブリンが根城にしている場所を聞く。ゴブリンはここから1キロくらい先の、小さな川の近くにある小屋に居を構えているらしい。元は炭焼き小屋だったその小屋は、ゴブリン10匹が入る程度には大きい建屋のようだ。定期的に村の畑や家畜を荒らしに来るらしい。


 ゴブリンは、強い魔物じゃない。群れて、子を生み、増える性質を持つのは人間と一緒だが、頭がそこまで良くないし、体が小さい。俺の膝丈程度の身長で、全身が緑色、醜悪な見た目をしていて、棍棒を持って殴って来る。スライムと違って厄介なのは、一度に何匹も襲って来ることだが、攻撃力自体はスライムと大差ない。全部聞き齧りの知識だけど、間違っていないはずだ。


 10匹のスライムに囲まれた想定をして、今の俺なら余裕で勝てる自信があったから今回の依頼を受けた。自信があるのは今でも変わらない。俺はこの依頼で未練に蹴りをつけたい。


 村長に今から討伐に向かうことを告げて、川沿いを登っていく。道に迷うことが無いのは助かる。


 しばらく登っていくと100メートル先くらいに建屋が見えた。元は炭焼き小屋だったらしいから、周囲の木が切られているんだろう。見晴らしがいいのは助かるが、相手からも見えている可能性がある。俺は姿勢を低くして木の陰に隠れる。


 しばらく息を潜めて様子を見たが、周囲に生き物の気配はないし、見える範囲でも異常は無いようだ。


 ゴブリンの鼻が利くっていう話は聞いたことが無いが、少しまずいかもしれない。ここは風上のようだ。俺の匂いが小屋の方に向かって、ゴブリンたちに気づかれるかもしれない。


(場所を変えた方がいいか?いや、少なくともここに来るまでの道にはゴブリンはいなかったから、背後を気にしなくていいのは有利だし……)


 俺が悩んでいると、小屋の中から3匹のゴブリンが出てくる。小屋の周りで何やらウロウロした後に、小屋から離れて行く。


 まずはあの3匹を奇襲しよう。


 小屋の中に後何匹ゴブリンがいるのかわからない。最大10匹に囲まれるのと、3匹を相手にするのでは難易度が全然違う。


 問題は、挟撃を恐れるなら小屋と離れたゴブリン達の間に位置取るのは良くないということだ。だが、挟撃されない位置から急襲して、逃げられてしまった場合は小屋に応援を呼ばれてしまうかもしれない。


(……考えすぎか)


 小屋と、離れたゴブリン達との間から奇襲を仕掛けよう。小屋に向かって逃がさないように立ち回る。背後から襲われたら、3匹の方を優先して片付けて挟撃を避ければいい。


 出来るだけ気配を消しながら、3匹のゴブリンの後を追った。




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