第32話 ◾️ヴェニー75%(16日目)
「ざっくり説明するとな、東側は元からあった住宅や店が多くて、そこから西側に広げていったから、新しかったり、大きな建物は西側に多い。今いるここは中央になるな。角だし、うちの店は立地はかなり良い方だ」
町の構造を聞いたリンがうんうんと頷く。もう2週間も経つし、最低限は分かっているんだろう。俺は続ける。
「順番としては、南から西、北、東と回って、最後に武具屋の場所を見せて終わり。武具屋には俺は入らないからな、なんか買うなら1人で行けよ」
ホミィに会うのが気まずいからな、リンと一緒には入れない。罪悪感で死んでしまう。
「分かってるよ、それじゃあエスコートしてね?」
リンが左手を俺に向けて差し出してくる。
「エスコートってなんだよ?」
「デートするときは手を繋いで、慣れている人が、不慣れな人を案内するの」
デート?俺がリンと?いやこれってデートなのか?ていうか手を繋いで町を回るのか?俺がリンと?
無理だ。
「そんなのはしない、勝手について来い」
「照れちゃって。でも逆にそれも硬派でいいかも」
何やらうだうだ言っているが気にしない。そもそもあんまり乗り気じゃないんだ俺は。リンと一緒にいるのを人に見られるのは嫌だ。今日も一緒にシープを狩りに行ければ良かったのに。
でも今日のリンは、俺が1番好きな髪型をしている。ポニーテールに、スカーフの、初めて出会った次の日の髪型だ。それに加えて今日は首元に何やら装飾品をつけている。良く似合っている。
俺とデートだから、意識して髪型やペンダントを選んでくれたのだろうか。それなら、今日リンと町を回るのも悪くない。
まぁ、それでも恥ずかしいことには変わらない。さっさと終わらせて午後は近場にスライムでも狩りに行こう。
なんでホミィがここにいるんだよ!
南通りに並んでいる店をリンに紹介しながら下がって行ったところで、今一番会いたくないやつの姿を見つけてしまった。俺はリンを手招きして路地に隠れる。
「どうしたの?」
「追手だ、見つかるなよ」
リンの表情が強張る。俺はもっと強張っている。
壁から顔だけ出してホミィを見やる。気づかれてはいないようだ。
「……どの人?」
「茶髪で肩口までの髪の、オーバーオールを着た女だ」
リンが壁から先を伺うようにして見やる。
「普通の女の子じゃん、追われる心当たりでもあるの?」
ホミィの姿を見てから、その見るからに純朴な姿と、俺の焦った態度が噛み合わないのだろう。訝しむ。
「金を借りてる」
「いくら?早く返しなよ」
「……金貨1000枚だ」
「1000枚!?嘘でしょ!?」
「声が大きい。大マジだ、だから焦ってる」
俺が冷や汗ダラダラで参っているのを見て、リンも事の重大さに気付いたのか、ヒソヒソと小声で話す。
「どうしよう、見つからないようにしないと」
「裏道がある、そっちを通ろう」
大体なんでこんなところにいるんだ、工房で作業してるんじゃないのかよ。
小さな通りを抜けて、何軒か回ってから元の道に戻る。警戒しながら辺りを見回すがホミィの姿は無い、なんとか避けることが出来たみたいだ。
引き続き俺はリンに町を紹介して行った。
「西側は新しいっていうのは最初に説明したけど、特に南寄りのここら辺は他所から来た商人が店を構えるのに都合が良いみたいで、王都で流行ってる店が……」
咄嗟にリンの手を掴んで路地の壁に押しやる。
壁に手を付いてリンに覆い被さるようにして隠れる。
「ちょ、ヴェニーいきなりは、わたし実はお……」
「黙ってろ」
またかよ!なんでホミィがいる!?
通りをホミィが歩いてこっちに向かってくる。不味い、このままでは出くわす。なんとかしてやり過ごさないと……。
もう少し詰めればいけるか?
幸いにも俺たちとホミィとの間に人がいるからもう少し俺が壁に寄れば見つからなさそうだ。リンには悪いが少し窮屈な思いをしてもらうしかない。
「悪いな、俺も必死なんだ」
ホミィから隠れるのに。
リンをさらに壁に追いやる。俺が密着するくらいじゃないと見つかってしまうから仕方が無い。
リンの整った顔が俺の目の前に迫る。色白で綺麗な肌が何やら普段よりほんのりと赤く色付いている気がする。どうしたのだろうか?
「ぅ……あっ……ダメ……」
「ダメじゃない、こうしなきゃ、俺が俺じゃ無くなる。我慢してくれ」
そうして10秒程度だろうか、リンと見つめ合いながら、ホミィが通り過ぎるのを待つ。俺の心臓が緊張でドクドクと音を立てている。リンと密着しているからか、俺とは違うリズムのリンの鼓動が感じ取れる。
「……緊張しているのか?」
「……当たり前、だよ」
「……俺もだ」
というか、参ったな、俺の位置からはホミィの動向が分からない。リンの位置ならおそらく分かるんだろうが。
「……もういいか?」
「……いいよ」
もう良いのか?
それを聞いて、俺はリンから離れる。
通りを見るとホミィの姿は消えていた。
「良かった、なんとかやり過ごせたようだ。悪かったなリン、窮屈な思いをさせた」
一安心して、リンの方を見やると、表情が見えない。俯いて両肩を怒らせている、どうした?
「ヴェニーの、バカァっ!」
パァンと音が響いたと思ったら、頬に強い痛みが走った。俺の頬がリンに引っ叩かれていた。
なんで?
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