第30話 ◆ミリア95%(13日目)
リンさんが私の作ったサンドイッチを食べて、泣き始めてしまった。
泣きながら、おいしいですっと、言ってくれた。
作った甲斐があったというものだ。
なんで泣いてしまったのかは分からなかったけれど、喜んでくれたようなので良かった。
泣いてしまった彼女を、膝に乗せて、堪能する。
膝の上で、彼女の髪をゆっくりと漉いて、撫でる。それだけで荒んだ心が満たされる。
どうやら落ち着いたようなので、先ほど聞かれた私の経歴について、彼女に語り聞かせる。彼女は私よりも4つも年上なのに、まるで幼子に物語を聞かせているようだ。余計に私の庇護欲が刺激される。
語りながら、彼女の柔らかい頬で遊ぶ。撫でたり、軽くつねったり。瑞々しい唇に触れたい欲求が鎌首をもたげる。なんとか我慢して、髪の毛で遊ぶのに留めた。嫌われてしまったら、怖がられてしまったらと思うと、これ以上攻め込むことは出来なかった。
彼女と出会った時と比べて、私は変わってしまった。たった2週間程度で、私は彼女に首っ丈だった。
多分、私は愛情に飢えていたのだと思う。
母が亡くなる前も後も、私を愛してくれたのは母だけだった。母が亡くなってからの6年間、私は少しずつ消耗していたのだろう。仕事が辛いわけでもない、ただ、寂しいという感情が私をすり減らしていって、限界を迎えつつあった時に、彼女が現れた。そうであれば、私がこんなにも彼女に惹かれて、依存してしまうのも仕方がない。
空になった私の心の隙間は、それまで供給されなかった6年分の愛情を求めている。
彼女を大事に、大事に食べなければならない。嫌われて距離を取られたり、失ってしまえば……。
私が一通り経歴を語り終えると、彼女が私の頭に手を伸ばす。
どうしたのと聞くと、撫でてくれると言う。そうして私に、甘い言葉を囁く。
「頑張ったね、偉いぞ」
言葉にできない感覚が頭の中を巡る。壊れてしまうんじゃないか。巡った多幸感が行き場を無くして、毛穴から染み出てくるよ……ぅ……。
「どうしたの?」
声をかけられて意識を取り戻す。
慌てて口元を拭う。涎を垂らしていたかもしれない。気を失っていたのはどのくらいだ。顔を見られていたかもしれない。恥ずかしくて顔が赤くなるのを感じる。
彼女を見ると、うとうとして、夢現のようだ。多分気づかれていなかった。大丈夫。
そうだ、次の予定を入れないといけない。彼女に会う機会を確保しないと、飢えて死ぬ。
「リンはお茶が好きですか?」
「ん……すき」
「じゃあ、明後日の予定は空いていますか……空いているんですね。3の鐘が鳴る少し前に、迎えに行きますので、待っていてくださいね。『竜の止まり木』に泊まっていることは知っていますから、大丈夫、安心してください」
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