第28話 シープ2回目(14日目)

 昨日はミリアさんの膝枕が気持ち良かった。癖になりそう。


 あの後、微睡みながらミリアさんの言葉にうんうん相槌を打っていたら、いつの間にか明日、ミリアさんと食事に行くことになっていた 


 なんかよく分からないうちに決まってしまっていたけど、ミリアさんとお茶するのに文句なんてあるわけがない。逆に捗るので好都合だ。


 そして今日は3日に1度の臨時パーティの日だ。


 隣を歩くヴェニーくんは、今日は少し荷物を減らしてきているようだ。シープを確実に狩れることが分かっているから、持ち物を減らして、その分多くの素材を持って帰るためだ。


 かくいうわたしも、今日はいつもより荷物を減らしての参加だ。ヴェニーくんだけに重いものを持たせるわけにはいかない。


「そういえば、結局罠を使っての狩りは上手くいったの?」


 以前のシープ狩りの日、夕食の時に彼が言っていたことを思い出したので、会話のタネに聞いてみる。


「穴を掘るのに多少手間取ったけど、上手くいったぞ、4匹狩れた」


 良かった。ヴェニーくんだけでも狩れるのであれば、わたしは心置きなく、旅に出ることができる。


「じゃあ、このパーティも2回目にして早くも解散かな」


 今の所はそんなつもりはないけれど。


 わたしがわざとそう言うと、ヴェニーくんが焦ったような仕草で、拒否する。


「待てよ、2人で組んだ方が良いって言ったのはリンだろ!」


「冗談だよ、しばらくは一緒にやろうね」


 そういえば、他に手頃な魔物なんかはいないのだろうか。


 わたしもそろそろ、討伐依頼とかに手を出しても良いのかもしれない。


 雷魔法と格闘術を取得したことによって、近接での火力はだいぶ上がったし、ギルドでの訓練も、まだ1日しかやってないけど、効果があるように感じている。せっかく訓練するんだし、成果を確認したい。


 後で依頼を確認しておこう。


「……リンはこれからどうするんだ?」


 町を出るか出ないかの話をしているんだろう。


「今からシープを狩りに行きまーす」


 おちゃらけながら答えた。

 ヴェニーくんが怒りながら言う。


「そうじゃねえよ!……金が溜まったら、どうするのかって聞いてるんだ」


 サーティスさんが言っていた通り、ヴェニーくんはまだ悩んでいるんだろう。わたしに付いて来るかどうかを。


 一昨日に、サーティスさんにヴェニーくんと相談しろって発破をかけたけれど、まだ話していないのかな。こう言うのは早い方が良いんだと思うんだけど。ヴェニーくんが悩む時間が増えれば増えるほど、傷つくし、手遅れになる。


「お金が貯まるのは1ヶ月以上先のことだし、まだわからないね」


 ヴェニーくんとサーティスさんのために、誤魔化して時間を稼がなければならない。ヴェニーくんが悩むのは気の毒だが、一度決めてしまえば、戻るのは地獄になる。ただでさえ拗れるのが想像できるのに、わたしの口から宿屋の跡継ぎ交代の件を言えば余計にめちゃくちゃなことになってしまう。


 胃が痛いな、早く覚悟決めてほしいな、サーティスさん。


「そういえば、武器を新調しようか迷ってるんだ」


 話題を変えよう。


「武器?上等な短剣があるじゃねえか」


「これじゃなくて、投げナイフみたいなのが欲しくてね」


 石はどこでも手に入るから使っているけれど、どんなに選別しても大きさや形が微妙に違う。やっぱり同じ規格の物の方が投げやすい。安物で良いから投げナイフが欲しい。


「ヴェニーは新しい盾をどこからか手に入れたみたいだし、詳しいんじゃないかと思ってね」


 そう言ってわたしは、彼の左腕に装備された、小楯を指差す。


「これか、これは……んー」


 口籠る。なんだ、武具屋で買ったわけじゃないのかな?


「これは、幼馴染に貰ったんだよ、武具屋の」


 お・さ・な・な・じ・み!


 主人公かよ!


 危険な仕事をする主人公のことを思って、毎晩枕を濡らす女の子は、自分に出来ることを必死に探す。武具屋である自分には、戦地に向かう彼のために、防具を作ることしかできない。お願い、死なないで……彼のために作った盾が、命の危機に直面した彼を救う。傷だらけになりながらも、無事に帰ってきた彼に走り寄って女の子は……。


 ヒュー。


 いや待って、まだ女の子と決まったわけじゃない。武具屋だ、男性ドワーフ率脅威の80%超えの武具、防具、鍛冶屋。


「幼馴染って、女の子?」


「あー、まー、そうだな」


 はい、わかりました。


「ふーん、そういうことか」


 わたしは多分ニヤニヤとした、底意地の悪い笑みを浮かべているんだろう。ヴェニーくんが嫌そうにわたしを見やる。


「なんだよ、その顔は」


「べっつにー、ヴェニーも隅におけないなーって思って」


「お前、なんか勘違いしてるだろ」


 勘違いではないと思うんだ。


 ヴェニーくんが装備している盾を眺める。

 素人が作ったようには見えないし、本職が作ったにしても手を抜いた作品とは思えない。


 まあ、あまりイジるのも良くないからこの辺にしとこう。


 だが、そうなると、武具屋を案内してもらうのもその子に悪い気がしてくるな。


 だけどナイフが欲しいのは事実だし。うーん。


「わたしを連れて行きたくないなら、店の前まで案内してよ、後で行くから。そうだ、それなら明後日はどう?纏めて、町を一通り案内して欲しいな。裏通りのお店とか、まだよくわからないし」


 それなら、大丈夫なんじゃない?


 武具屋がついでで、町の散策がメインになったけれど、わたしとしては投げナイフの調達はいつでもいい。なんなら、手に入らなくても良い。


「まぁ、そのくらいなら。でも、明日じゃダメなのかよ」


「明日は、別の用事があるんだ」


「用事って?」


「内緒」


 またそれかよ、と言って溜息を吐く。


 わたしには秘密が多いので仕方がないね。




 その日は全部で10匹のシープを仕留めた。わたしのレベルは8に上がった。

 帰りはわたしが3、ヴェニーくんが7匹分持って帰って、1人あたり大体金貨4枚の稼ぎだった。


 さて、明日はミリアさんとデートだ!



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