第22話 雷魔法検証(11日目)

 魔法を受けた案山子に近寄って、ダメージを確認してみる。


 案山子に着せられた布が一部、黒く焦げ付いていた。それなりに威力はあるようだけど、いまいちわかりづらい。


 明日にでも魔物相手で試してみて、威力の確認をしたい。


 射程が短いことがわかったので、次は武器から電気を発生させることが出来るか、試してみよう。いつでも手が空いているとは限らないし。


 備品置場から手頃な武器を見繕う。大きな樽に剣や槍などがいくつも入っている。余り上等な物は無さそうだ。間違って壊してしまっても心が痛まない。


 普段使っている短剣と同じくらいの刃渡りのものを選ぶ。


 短剣を正眼に構えて、案山子に相対する。わたしの胸の中心から魔力が流れ、右腕を通り、柄、剣身を経て、案山子に向かって飛ばすのをイメージする。


 剣先から予備動作なく、案山子に向かって閃光が走る。案山子から少量の黒煙が立ち上がる。


「これも成功……剣の方にも特に異常はないかな」


 剣先を確認したが焦げなどは確認できない。見えないところで剣身にダメージが蓄積されてるかもしれないけど、調べようがないのでどうしようもない。


「それじゃあ最後に貯めて、斬ってみようかな」


 蓄電っていう言葉があるんだからできるだろう。と思い込むようにする。おそらく、魔法を使う上で大事なことだ。魔法なんだから何だってできるだろ、くらいの気持ちでいいはずだ。


 正眼に構え直して、イメージする。魔力を右腕から剣に流し、剣で溜め込む。出来た。


 溜めた状態のまま放電せずに、腕を振り上げ、案山子の首から胴にかけて、そのまま斬る。


 刃が当たった瞬間、バチィッ、という大きな音と、瞬間的に、黒板をカッターで切りつけたような抵抗を感じた。その抵抗が抜けた瞬間に、袈裟懸けに杭ごと斬られた案山子が倒れる。


 バチバチという音だけが、変わらずに短剣から発せられている。


 呆然としてしばしの間立ち尽くす。


「魔法剣使えちゃったよ」


 案山子壊しちゃったけど怒られないかな。





 ひとまず、キリがいいので今日は検証をここまでにしよう。明日はスライムで威力を確かめながら、他にできることがあるか試してみる。


 ミリアさんを呼びに行って、案山子壊しちゃいましたと報告する。

 そのまま逃げようかと思ったんだけど、一応確認するということで、また訓練場に戻ってきた。


「……どうやったらこんなふうになるんですか?」


 ミリアさんが、焼け焦げて黒くなった杭の切断面を眺めながら呟く。

 まだ、若干の焦げ臭さが周囲に残っていて、気まずくなる。


「短剣でこんなに綺麗に、この太さの杭を切れるものなんですね……」


 他の冒険者を知らないので何とも言えません。


「途中で刃が止まると思っていたんですけど、斬りすぎちゃいました」


 ミリアさんが疑わしい目で私を見る。


「その、まず、このくらいでは全く問題になりませんので安心してください。杭を変えて服を着せればいいだけですので。人によっては地面に大きな穴を開けてそのまま逃げるように帰る方もいらっしゃいますし。報告していただければ大丈夫ですよ」


 良かった。問題ないだろうとは思っていたけれど、前世で何か壊すような経験がなかったから少し不安だった。


「逆に、わたしは安心しましたよ」


「え?どういうことですか?」


「リンさんのような可愛らしい方が、冒険者をやっていけるのかなと、ずっと不安だったので。戦える力があるのがわかって、安心しました」


 そう言って、私に微笑みをくれた。




 ◼️◼️◼️




 その後宿に戻って、夕食の時間になった。


 1回に降りて、いつものようにトレーに乗ったご飯を持って、テーブルにつく。遅れて、ヴェニーくんもやってきた。


「いただきます」


「いただきます」


 2人で一緒に手を合わせて、食事を始める。


「そういえば、なんの用事だったんだ?ギルドに残ったんだろ?」


 食事の合間に、私の様子を見ながらヴェニーくんが話しかけてくる。


「訓練場の使い方を教わって、少し魔法で遊んでた」


「魔法?水魔法の練習してたのか?」


「内緒」


 もう少し練習してから驚かせたい。魔法剣士リンの初披露はまだ少し先になるだろう。


「何だよ、ケチだな。訓練場はどんな感じだった?俺まだ行ったことないからさ」


 パンを齧りながら、ヴェニーくんが聞いてくる。


「手合わせが出来る場所と、1人で剣とかの素振りができる場所と、弓とかを練習できる場所があったよ。ギルドの奥があんな風になってるなんて知らなかったからびっくりした」


 指を折って思い出しながら答える。


「へー、俺も今度行ってみようかな、素振りを庭でやると、微妙に狭くてやりづらいんだよ」


 ヴェニーくんが木匙を持ってブンブンと振る。


「やめなよ、汚いよ。ヴェニーはあの後すぐに帰ったの?」


「内緒」


 得意そうにドヤ顔で私に答える。ちくしょう。


「明日はどうする予定なんだ。俺は試しに1人でシープに行ってみるけど」


「わたしは魔物に魔法が効くか、試してみるつもり。相手はスライムだけど。ていうか、1人でシープを狩るつもり?大丈夫?」


 遠距離攻撃が出来ないと言っていたはずだ。かといってシープに近寄れば、どう工夫してもあの群れに飲まれて角で刺される。何か手があるのだろうか。


「穴を掘ってみる。今日と同じ理屈で、群れ1つにつき1匹は狩れるんじゃないかって思ったんだ。悪くない案だろ?」


 言われてみると確かに。その方法なら、比較的安全に狩ることができそうだ。


「上手くいきそうな気はするね。穴を避けられないように、隠す工夫が必要かもしれないけど」


「まあ、上手くやるさ。ご馳走様」


 食事を終えたヴェニーくんがトレーを片付けて戻っていった。少ししてわたしも食事を終えて席を立つ。


 この宿にもだいぶ馴染んできた。初心者の冒険者同士ということもあって、今日は臨時だけどパーティまで組んだ。異世界に来てから11日、最初は慣れないことが多くて大変だったけど、やってみれば出来るもんだね。


 後はお金さえ貯まれば、生活環境の改善ができるんだけどな。お風呂とか。



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