第18話 アサルトシープ(11日目)
西門を抜けると、目の前には一面に麦畑が広がっている。東側も同様だったので、前に鑑定で調べたことがあったのだけど、リウ麦とかいう名前だった。多分宿で毎日のように食べる黒パンの原材料だと思う。
しばらく西に進むと、麦畑を抜けた。ここからは北に進む。地図の縮尺を読み取れば、大体5キロメートルくらい歩くと狩場に着くみたいだ。歩けば1時間くらいだろうか。
麦畑の先は草原と荒地の中間のような様相をしている。所々に岩があったり、小さな森があったりするけれど、小さな道のような、踏み固められた跡があるのでそこに沿って歩いている。地図には載っていなかったけれど、おそらくこの道を進んでいけば狩場に着くだろう。
せっかくなので今朝取得した《走術》を使ってみよう。
まずは普通にジョギング感覚で走る。途中でスキルを意識して切り替えると、なんだか楽になった。体力の消耗を抑えられるようだ。検証のため、一旦スキルをオフにする。
次は最高速度の確認をしてみよう。短距離走を走るつもりで駆ける。スキルをオンにする。おお!早くなった!どのくらいだろ、1.2倍くらいかな?この状態で約5キロを走り切ってみよう。
流石に100メートル走感覚で全力疾走したら1、2分で息が上がってしまったので、息を整えてからはマラソン感覚で走ることにした。
時計もないし検証としては失敗だけど、15分くらい走ったところで視界に収まらないくらいの広い範囲の丘と、その先の森が見えてきた。目的地の狩場だろう。
なんとか目的地には辿り着けたけれど、人が多い。冒険者だろう。森沿いに100メートルくらいの感覚でパーティで分かれている。あそこに割って入るのは絶対にまずい。トラブルになりそうだ。
仕方がないので森沿いに西に向かって走って、人のいないところを探してみる。1キロ以上は西に走ってやっと人影が途切れた。10パーティくらいはここで狩りをしているようだ。一番西の端の人からさらに距離をとって、森を眺める。
「それでこれからどうすればいいんだろ」
魔物の生息場所だけ確認して現地に来てしまったからどうすればいいのかわからない。100メートル隣のパーティは、森には入らず、何やら東の方を向いて、敷物の上でのんびりしている。ピクニックにでも来ているような態度だ。
ここに来るまでに通り過ぎてきたパーティも、みんな東の方を向いていたので、東からシープが来るのかな?
ぼんやりと待っていると、どどどという地鳴りのような音が東の方から聞こえてきた。目を細めてみやると、猫みたいなサイズの小さな羊がたくさん、群れをなして森沿いにこちらに近寄ってきている。群れに飲まれたら無事では済まないだろう。
「こわっ!何あれ群れで来られたらまずいよ」
他のパーティはどうするんだろと、遠くの400メートルくらい先の方をみやると、弓などで遠距離攻撃しているようだ、飛んだ何かに当たった羊が倒れて、後続の羊に踏み蹴られる。群れが通り過ぎた後に、車に轢かれたように倒れている。なるほど、猫サイズと言っても近寄ったら明らかにまずいから、手傷だけ負わせて死体を後から回収するのか。納得したけど酷い狩り方だ。
とにかく真似をしてみよう。マジックポーチから石を取り出して、わたしの前方50メートルくらいの位置を通り過ぎる羊の群れに目掛けて、力一杯投げつける、狙いは捨てて威力を取ろう。
スキルレベルを上げたおかげで、威力を維持したまま遠くまで投げれるようになったみたいだ。直線軌道で羊に石が当たる。石の当たった羊は群れに飲まれた。もう一度、石を投げる。また羊が飲まれた。群れがさった後に2匹だけ羊が倒れている。良かった、無事成功したようだ。群れを釣ってしまったらどうしようかと不安だった。
倒れた羊に近寄って死亡確認をする。大丈夫なようだ。羊を見やると、近くで見てもやっぱりサイズは猫で、目の上に飛び出すように10センチくらいの角が生えている。これで突き刺されたら無事では済まないだろう。
羊は顔周りは傷だらけだし、折れているみたいで見るも無惨な姿だ。だけど体の周りの厚い毛のおかげで、轢かれたというのに毛皮は比較的無事なように見える。素材価値はそこまで落ちてなさそうだ。
2匹の羊を引きずって森の近くまで戻る。ここにいたら、いつまたあの群れが来るのかわからない。さっさと避難しよう。
さて、この羊をどうしよう。
重さ的に5キロくらいだろうか。2匹で10キロ。仮にマジックポーチを使ったとしても、わたしが持っていっても不審がられないギリギリの重さだろう。これ以上狩っても、解体しないと持って帰れない。解体すれば軽くなるだろうけど、スキル以前の問題として解体方法がわからない。
どうせ今日はスキル検証と下見だけのつもりだったので、このまま2匹だけ持って帰ってギルドに解体を依頼してもいいんだけど、なんか勿体無い気もする。解体スキルを取得すれば謎パワーで解体のやり方がわかるかもしれないけど、今の段階で解体スキルにSPを振りたくない、節約しておきたい。
わたしが羊を見ながら悩んでいると、気配察知に反応があった。
ヴェニーくんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます