第7話 冒険者になるよ(1日目:ミリア)
『竜の止まり木』を出る。冒険者ギルドに向かうために、女将さんに言われた通り東門の方へ向かう。
目印の盾と剣の看板を探しながら進むと、程なくしてそれらしい二階建ての建物を見つけた。『竜の止まり木』も周辺の建物と比較して立派な建物だったけれども、その倍ぐらいの広さだ。さすが組織の建物といった感じ。
西部劇で良く見る、胸までの高さのスイングドアを押しながら、建物の中に入る。
入って右側にバーカウンターと6人掛けくらいのテーブルがいくつも並んでいる。テーブルには、冒険者だろうか?腰に剣を差した人や、肩に弓をかけている人、戦いを生業にしているような見た目の人たちが、3グループくらい座って談笑している。
向かって正面には窓口らしき、かなり長めのカウンターがあって、受付嬢っぽい女性が3人、等間隔で座っている。左側の壁は掲示板の様になっていて、20センチくらいの板がたくさん掛けられている。左奥には階段があって、二階にも行けるようだ。
窓口の真ん中の女性に話しかける。カウンターが少し高いので、両腕で乗り上げる様にする。
「こんにちは、えっと……ここは冒険者ギルドであっているでしょうか」
「はい、こんにちは。そうですよ。新規登録の方ですね?」
綺麗な人だ。
翠色の瞳で、長いシルバーアッシュの髪を、ハーフアップにしている。なんか、すごい落ち着く。顔立ちがすごい整っていて、でも、儚さがあって。若いのだろうけど、どこか母性を感じる。そんな印象を受けた。
「はい、そうです」
「こちらへの記入をお願いします」
受付さんはそう言って、わたしに四角い木板と、羽ペン、インクのようなものが入った器を差し出す。
木板には名前、年齢、特技の三つを書く項目がある。しまった、わたしってこの世界の字を書けるのか!?と焦ったけれど、書きたいことを思い浮かべると自然と筆が走る。神様配慮が発動した。助かる。
でも今度は別の問題が発生した。特技ってなんだろう。わたしの長所とは?履歴書の空欄を埋められなくてネット検索した苦い思い出が蘇る。苦しいが時間をかけられない、とりあえず『短剣』とだけ記入する。
「書き終わりました」
「確認させていただきますね……リン様、25歳、えっ!……25歳?25歳ですか」
受付さんは何が気になるのかチラリチラリと私の顔を確認しては年齢を口にする。
「すみません何度も言われると恥ずかしいので歳はその……」
「しっ、失礼しましたっ。いえ、そのずいぶんお若く見えますので……つい」
東洋顔だから若く見られちゃうのは仕方ないね。
「えーっと、それで次はどうすれば……?」
「あっはい。それでは冒険者ギルドについてと、新規加入の方向けの説明をさせていただきますね。少々お待ちください」
そう言った後に、受付さんは私の情報が書かれた木板をカウンターの裏に持っていき、人を読んでから手渡していた。戻ってきてお話を続ける。
「冒険者ギルドの役割は、冒険者の方への依頼の斡旋と、パーティの仲介、素材買取、情報の共有が主になります。
元々、冒険者ギルド設立前は、冒険者の方々はそれぞれが小さいコミュニティで魔物を討伐し、得た素材を販売し、生活の糧としていました。ですが戦闘能力の高い人は魔物の販売先の確保に人手をかけるよりも、一匹でも多く魔物を狩ったほうが効率的です。逆に、戦闘能力はそこまで高くないけれど、販路に明るい商人向きの方々は、販路の確保や消耗品の整備など、裏方の能力に専念したほうが、コミュニティ全体の収入が増えます。そうやって分業が進んでいった結果、今の冒険者ギルドの形が少しずつ出来上がっていきました。今ではある程度の規模の町や都市には、冒険者ギルドの支部が存在しております。マリスラは支部を設立してから今年で30年目になりますね。
最初は人種にとって脅威となる魔物を討伐、資源確保するだけだったのですが、ギルドという大きな組織になったことで、国や町自体との関わり方も変わっていきます。冒険者の方々は魔物を討伐することを生業にしているだけあって、戦闘能力が高い方が多いです。その為『無法者の集まり』という見方をする方も多いですし、徒党を組めば、国や町にとっても驚異になります。その分、貴族の方々や衛兵にも厳しい目で見られているという自覚を持って、活動してもらわなければなりません」
ふむふむ。魔物討伐と資源確保が国家や街に対しての主な役割で、それを生活の糧にする冒険者を、サポートするのが冒険者ギルドってことですね。冒険者っていうよりハンターだね。
話の途中で出てきた『マリスラ』っていうのはこの町の名前かな?
「細かい規定はこの場では説明できないほど多いため省きますが、新規加入者の方に強く守って欲しいことは、人に迷惑をかけるようなことはしないこと、そして、死なないこと。この二つに尽きます。新規加入者の一年以内の死亡率は約三割、消息不明を含めると七割に達します。ご承知おきください」
こくこくと深く相槌を打つ。ブラックすぎる離職率に驚いたけど、スライムで死にかけるくらいだから、納得ですね。面接前に死ぬところだったんだわたし。
「戦闘に不慣れにも関わらず、一身上の都合で冒険者になる方も多いです。新規の方に長く活動してもらってギルド全体の収益を上げるために、ギルドでは訓練場の提供と、図書室の開放を実施しております」
わたしの為にあると言っても過言ではないくらいに有益な情報だ。是非是非利用させてもらいたい。
「ギルドの一階奥に、訓練場に繋がる戸口があります。武器の貸し出しも行っておりますので窓口にお声がけください。図書室は二階にあります。魔物や狩場の情報など、資料を保管しております。室内のみ貸し出しでき、持ち出し厳禁です。盗難や破損は相応の罰則が与えられることになります。ご承知おきください。説明は以上になりますが、何か質問はありますか」
「ギルドの規定や施設に関してはわかりました、施設を利用する際はまた改めて質問します。えっと、スライムの魔石を持っているんですが、買取は可能でしょうか」
「はい、確認しますので見せていただいてもよろしいですか?」
布袋から魔石を10個分、カウンターに並べる。割れてしまっているので買取してもらえるだろうか、不安だ。
「お預かりします。重さを図りますね」
受付さんは手袋をして、刷毛と塵取りで小さい欠片を取り除いている。残った魔石を纏めるとカゴに入れ、カウンター奥にある秤のようなものに吊るした。
「魔石4320グラムで、査定結果は銀貨4、銅貨3枚になりますが、ここからギルド運営費として引き当てますので、銀貨3、銅貨4枚になります」
「それで構いません。お願いします」
わたしは硬貨を確認して受け取った。
重さの単位がグラムで通じているのはもう気にしないことにする。そういうものなのだろう。
1000グラムで銀貨1枚、実際は2割減で銅貨8枚。銀貨3枚で一泊夕食付きかと考えてみると、スライムでも1日10匹討伐すれば宿には泊まれるんだね。ちょくちょく端数をちょろまかされてるのが少し気になるけどしょうがない、計算面倒だもんね。重さで金額が決まるっていうことは……。
「魔石の買取価格は、どの種類の魔物の魔石でも、重さで一律なんですか?それと、割れていなくて綺麗な形のままだったら買取価格が上がるとか」
「魔物の種類を問わず、買取価格は重さで決めております。魔物の強さに比例して魔石も大きく、重くなりますので。ですが特別に強い魔物、例えばB、Aランク以上の魔物の魔石であれば、綺麗な形を保っていれば素材としての使用方法に選択肢が増えるので、買取価格が大幅に増加します。逆に小さい破片や粉のようなものは持ち込まれてもこちらで判定できませんので、査定の際には除外させていただきます」
「なるほど、わかりました。あと、今は手持ちはないのですが、魔物の皮などの素材は、買取していただけるのでしょうか?」
「はい、もちろんです。各素材の相場は、あちらの掲示板に記載されていますのでご確認ください。また、解体前の魔物の買取も行っていますが、その場合は素材は全てこちらで処理し、部分的な引き渡しは行わないことになっております」
解体をギルドに頼むと、冒険者は品質把握が出来ないから、品質が良くてもちょろまかされちゃうし、レアな素材を個人のルートで高く売ることも出来ないってことですね。《解体》スキルは必須になりそう。マジックポーチに死体丸ごとは出来れば入れたくないし、獣の解体とかやりたくないけど仕方がない。
「わかりました。ギルドには関係ないんですが……服や布、冒険者活動に必要な、雑貨類を販売しているお店とか、知りませんか」
「それでしたら、ここを出て右隣のお店であらかた揃えられるかと思います」
「ありがとうございます、最後に、お名前を教えてもらってもよろしいですか。これから、お世話になると思いますので」
「すみません、申し遅れました、ギルド受付係のミリアと申します」
「はい、ミリアさん、また伺いますのでその時はよろしくお願いしますね」
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