第五話:俺ってばめっちゃ強くね!?チート無双じゃ!
しかし、妖王である
とんと気配すらなさそうな森の様子に、それでも諦めまいと
草木を分け、大木の陰に隠れていないか目を凝らし、時には登山客のように『やっほー!』と叫んでみるも、何かが返ってくる事などあるわけがなかった。
(ちくしょー、俺のせいだ……何とか無事でいてくれよ~……)
焦燥と罪悪感を携えながら、それでもあの二人を助けたい一心で
一方、その頃。
未だ眠る妹を抱き抱えながら、
しかも、ただの狼ではない。正しくは、狼の姿をした妖怪だ。
猪のような大きさの身体に、鋭い牙を持ち、まるで鉄骨を鋭く磨いだかのように鋭利な爪を持つその妖怪は、ざっと数えても二十体程はいる。
知能指数はあまり高くはないが、縄張り意識が強く、群れで獲物を取り囲む習性があるのが特徴だ。
そのあまりの獰猛さから
妖王として君臨する
「……普段だったら、こんな低級妖怪、一捻りだというのに……この枷が外れれば……」
悩んでいる間にも、狼妖怪はじりじりとこちらへ迫ってくる。
もうここまでかと、
しかし、だからといって大切な妹にだけは痛くて苦しい思いはさせたくはなかった。
せめて、
「……
狼妖怪が牙を剥いてこちらに襲いかかってくるのを、
その黄金の瞳には、微かに諦めの色が帯びているように見える。
覚悟を決め、妹を守るように身を縮こませた
しかし、その頭上をふと何かが物凄いスピードで飛躍していった。
「どぉりゃあああ!俺の
その飛躍した何か――
突如として自身を助けに入ってきた
「っ……」
何故、あれだけ酷い事を言ってのけたのに、助けに来たのか。
何故、半仙半妖で忌み子である自分を助けるのか。
ぐるぐると頭を回す
「……
小麦色の健康的な肌に浮かぶ、極上の端整な顔面を近くで拝む事ができた
(くぅ~!
緊迫した雰囲気の中でオタク全開の思考を巡らせていた
「……なん、で……」
掠れた、小さな声だった。
しかし
襲ってくる狼妖怪を拳や足技でギッタギタにぶちのめしながらも、必死に声を振り絞って
「俺がお前の首に付いてる枷外さなきゃいけなかったのに忘れてたんだよ!マジですまん!とりあえずこの妖怪どもぶちのめしたら外すから待ってろ!」
そう言うや否や、
妖怪は仙人とは違い、不老不死ではない。不老不死は、身体に仙根を持つ者だけの特権だからだ。
妖根のみしか持たない妖怪は、治癒能力などはあるにしろ弱点となる心臓や脳を破壊すれば消滅する。
故に、今こうして
そのまましばらく肉弾戦のみで戦っていた
ここは大技を使って一気に倒そうと、『修仙人妖伝』の内容を頭の中で甦らせる。
確か、
その途端、
無限に突き刺さってくる氷の破片のせいで、狼妖怪の身体はまるで砂鉄にまみれた磁石のような有り様になってしまった。
そして妖怪は断末魔を叫ぶ余裕すらなく、灰となって消滅してしまう。
「またできちゃった!」
すると、手の平の中から、氷でできた鋭い刀が出現した。
遠くまで見える程に透明度の高い氷の刀に感動しながら、
背後から襲ってくる狼妖怪をひょいっと躱したかと思えば、すかさず腕を振り下ろして容赦なく斬首する。
再び妖怪が襲ってきた際には、長い着物をまるで天女の衣のように羽ばたかせながら、軽やかに避けつつ、最後は強い力で刃を向けた。
『蝶のように舞い、蜂のように刺す』とはこのような事を言うのか。
その圧倒的有利すぎる光景をぽかんと見ていた
「えー、あの人普通に強……てかめちゃくちゃ神通力使いこなしてる……」
「……」
素直に感心する
一方、狼妖怪が僅かとなった所で、
「ざぶぐでじに゛ぞう゛……!」
そう。適応能力の高さは目を見張る物がある
いかんせん、無数の氷にまみれながら、氷の刀を素手で持ち、その氷をブン回す事によって更に外気温が下がり……。
しかし、いつまでも寒い寒いとは言ってられない。
氷の刀で何とか最後の一体を倒した
「ふぅ~、何とか倒せたぜ……」
「お疲れ様です、
一応は労りの言葉をかけてくれたはいいがどこか興味なさげな
「ほれ、外してやるから後ろ向け」
仙城で怒声を上げていた者だったとは思えないくらいのその優しい笑みに、警戒心で硬直させていた
あんなにも憎しみ、殺そうと画策していた相手だったはずなのに、その柔和な雰囲気を感じ取ってしまえば後は拍子抜けするばかりだった。
敵意のない
案外すんなりと急所になり得る首を己に預けてくれた事に対し、
そしてそのまま黒化を解いた時のように手に力を込めれば、首枷は途端に壊れた玩具のようにぽろっと取れる。
「おっしゃ、取れたからもう安心しろ。あっ、でもくれぐれも俺を襲ったりしないでくれよ~」
壊れた首枷をポイっとその辺に捨てながら
「……お前は、誰なんだ?」
「んー?」
不思議そうにコテンと首を傾げるも、
「お前は、俺が一緒に戦ってきたあの時の
そう言うや否や、
同じ目的を持って共闘し、そして思いを
しかし、黒化から己を解放してから
良く言えば天真爛漫、悪く言えば鬱陶しい性格へと変貌してしまった。
そのあまりの変わりように、この男は本当は神通力や妖力を使用して
あからさまに疑うような目で見つめてくる
「……俺は俺でしかない。確かにお前らが知ってる
「……一つ、お前に聞く」
「んー?何?」
緊迫した雰囲気を崩さずに
「お前が黒化を解いたのは、俺たちに幸せになってほしかったからだと言っていたな……お前たちにとって、俺は三界を滅ぼそうとした極悪非道な罪人なんじゃないのか?何で今さら……」
あんなにまで罪のない人々を傷付け、あまつさえ戦友であったはずの
それなのに、件の人物は何も気にしていないかのようにのんきに口笛を吹く始末だ。
ますます意味がわからないとでも言うように、
そんな
「……まあ、こっちにも色々事情はあるんだよ。でもな、今までのお前らの境遇を見てきて、何でコイツらがこんな辛い目に合って来なくちゃいけなかったんだ、コイツらにだって幸せになる権利はあるだろって思ったのも俺の本当の思いそのものなんだ」
そう言うな否や、
曇りのないその吸い込まれそうな蒼い瞳に、
「幸せになる権利は誰にでもある。俺はそれをお前らに証明してみせたい」
「……変な奴だな、お前は」
屈託なく笑いながら、まるで当たり前のように言う
己を封印した張本人が、なぜ今頃になって己に幸せになってほしいと思うのか。
何か意図があるのだろうが、それでも邪気のないこの子供のような笑顔を見てしまえば、多少は絆されても仕方のない事なのかもしれない。
ひとしきり小さく笑い声を漏らした後、
「で、どうするよ、これから」
「……幸せになるという事がどういうものなのかは、正直よくわからない。それに、数多の人々を殺してきた俺が今さらそんな事で赦されるとも思っていない……わからないから、わからないなりに模索していくしかないのかもな」
半ば諦めたかのように、しかし未来への希望を僅ながらに滲ませるその儚い呟きに、
とりあえずは前向きになってくれた。だいぶいい感じに進歩した。
「うっしゃ!とりあえず俺とお前は仲直りしたっつーことで!迷ってるんだったら決まるまで俺の仙城で暮らせばいい!」
「えっ!」
ふと、思い立ったかのように
「し、
「だいばっしんぐ……おし……?」
こちらの世界では聞き慣れない言葉が思わず口からポロっと出てしまった事について、
頭上にハテナを浮かべながら首を軽く傾げる
「ああごめんこっちの話。でもよー、今ここではいさよならしたって、この兄妹は、特に
「めんたりずむ?かうんせりんぐ?お前たちはさっきから何語を話しているんだ?」
「ごめんこっちの話」
先ほどの
宇○猫のような表情を浮かべながら斜め上を呆けたかのように見つめる
「よし、そうと決まればさっそくお前たちの部屋を用意してやるから待っとけ!
「……御意……胃が痛い……」
結局大事な事はすべて一番弟子、もとい第一秘書的な役割を担っている
ここに胃薬があったなら、用量用法なぞ一ミリも守らずに大量摂取していたかもしれない。
青い顔をしながら途端に元気をなくす
その変わりように何事かと、
「……んで、話変わるんだけど」
ぽそりとそう呟く
おまけにこめかみや額には滲んだ汗が玉のように形を成しており、無理に笑おうとしている口角はひくひくと痙攣している。
必死に何かを耐えているような表情を浮かべる
「もう無理ぃ……お腹と背中痛いぃ……ヒビ入ってるんだってぇ……」
そう。黒化の解放をした後に
実はずっと痛みを我慢しながらあれやこれやと行動してきた
「アンタ何でそんな大事な事すぐ言わないんですか!」
ひぃひぃと苦しみの声を上げる
確かにそれどころではなかった状況ではあったけど、応急処置もしないで悪化でもしたらどうするのか。
不老不死とはいえ、痛覚などは常人と変わりはないのだ。
あまりの痛みについに屍のように白目を向きながら気絶してしまった
「……ったく……これ私がおぶっていかないとダメなやつじゃないですか……って、えっ!?」
仕方がないと、地面に伏せる
思わず反射で受け取ってしまうが、
華奢で柔らかい身体を傷付けないようにそっと横抱きにしながら
一体何をするのかと固唾を飲んで
その手つきが、先ほどまで
「ちょ、
「……元はと言えば、俺が拳を打ち込んだせいだからな。本意ではないが、少しばかりの詫びだ」
まるでお伽噺の王子が姫を抱き上げるかのように、スマートに所作をこなす
推しがイケメンすぎる。スパダリ万歳と。
一方、その王子の腕に抱き締められているお姫様の立場のはずの
ムードもへったくれもない。何だそのじいさんのような顔は。美青年設定はどこへ行ったのか。
己の主に対して不躾な思いを抱く
「……おい、俺の妹に少しでも傷をつけたら承知しないぞ」
「は、はひぃっ!?」
ギロッと鋭い眼光で睨まれ、
そう。今ここで彼女の身体に擦り傷の一本でも付けてしまえば、己の命はここで終わりを告げるだろう。
何せ、
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