第14話 旅立ち
あっという間にゴールデンウィークがやってきた。
家族とのんびり過ごしたり、友達と近所で遊ぶのが恒例だったけど、今年は違う。
なんと、学生3人だけで旅に出るなんて!
そんなわけで、初日の昼過ぎ、私、葛城くん、杉山さんの3人は駅のホームに立っていた。すーっと新幹線が滑り込んでくる。
おお、いよいよだ……!
いよいよ、学生3人だけの旅行が始まる!
「三森さん、緊張しすぎじゃない?」
杉山さんがおかしそうな口調で言う。
「そ、そんなに――バレバレですか?」
「私は、演劇部の部長だよ? 見破れるに決まってるじゃない?」
「そ、そうですね……はい、緊張しています……学生だけで旅行するのは、その、初めてで……」
「あ、そうなんだ。それは仕方ないね」
「杉山さんは初めてじゃないんですか?」
「私は、夏の合宿とかあるから……あ、でも顧問の先生がいるから、学生だけだと初めてかも」
「俺も、同じかな」
とはいえ、ほとんど同年代の子供だけで移動していたわけで、団体行動に慣れている二人と私は違う。
「杉山さんのご両親は来ないんですか?」
「あちらの親戚が面倒見てくれるからね。二人がいなくても、私1人で向かっていたかな?」
さすが中学3年生……! 大人だ! 2歳大人だ! 私はこんなに強くなれるのかな?
杉山さんがにっこり笑ってくれた。
「二人が来てくれるから、すっごくこの旅行、楽しみにしてたんだ。いい思い出にしようね?」
「はい!」
新幹線の中に入り、杉村さんが用意してくれた指定席へと向かう。
3人並びの席だ。
「じゃ、三森さんが窓際で」
「え、私がですか?」
なんとなく、窓際は最もいい座席という印象がある。
「杉山さんが窓際のほうがいいんじゃないですか?」
「何度か乗ったことあるから、景色は見慣れてるんだよね。あまり新幹線に乗り慣れてなさそうな三森さんが座ったほうがいいんじゃない?」
まあ、実は、どんな景色が広がっているんだろう……と楽しみにしている気持ちもあります!
「じゃあ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
そんなわけで、窓際から、私、葛城くん、杉山さんの順で座ることに。
ほどなくして新幹線が動き出した。
おお……旅って感じの気分が高まってきた!
座席は思ったより広くて快適。窓の外に視線を向けると、都会の風景がどんどん流れていく。心の中では、冒険に出かけるようなワクワク感が広がっていた。
時間が経つにつれて、窓の景色が変わっていく。
建物の数が減っていき、緑の密度が増えていく。
大きな川が流れていると、わああ! と目をきらめかせてしまう。スマホを取り出して、パシャパシャと写真を撮る。
「ふふふ、やっぱり窓際でよかったじゃない?」
全くおっしゃる通りです、杉山さん……。
あとで撮った写真をお母さんとお父さんに送ろう!
新幹線でビューンと移動して、あっという間に目的の駅まで着いた。
「ここからはローカル線に乗り換えるから。ちょっと頑張ってね?」
杉山さんの指示に従って電車を乗り継いでいく。
最後に到着したのは、いくつかのベンチと改札だけがある小さな駅舎だった。改札の向こう側には、50歳くらいの男性が立っていた。
杉山さんが口を開いた。
「お久しぶり、叔父さん!」
「凛ちゃん、よくきたね。迎えにきたよ」
私と葛城くんが挨拶すると、杉山さんの叔父さんはニコニコと応じてくれた。
「凛ちゃんのお友達だね? こんにちは、姪がお世話になっております」
「いえいえ……こちらがお世話になっているというか、これからお世話になりますというか……」
「部屋だけはある家だから、気兼ねなくのんびりしてね」
おじさんの車に乗って、お婆さんの実家へと向かう。
なんとなく村落レベルの田舎を想像していたけど、そんなことはなかった。そこら辺に田畑はあるけども、わりと建物が建っていたり、家が密集する住宅街もあったりする。
特に活気を感じるほどではないし、栄えている感じもないけれど――
いい感じに落ち着いた、物静かな雰囲気というか。
そんな私の心理を読んだかのように、杉山さんが口を開く。
「そこまでど田舎でもないって思ってる?」
「え、ええとお……」
か、隠さなくても別にいいことかな?
「はい、なんとなく勝手に、もっと緑が多いのかな……って」
「緑が多い。いい表現ね? 実家って言われたら、そんなイメージかも」
くすくすと笑いながら杉山さんが続ける。
「小さくても劇団があるくらいの場所だったんだから、そこまで田舎なわけないでしょ?」
「あ、そうですね」
それはそうか……。言われてみれば納得だ。
叔父さんが口を開く。
「とはいえ、だいぶ、ここも寂れたけどな」
「そうなの?」
「ああ。俺が子供の頃はもっと人も多くてな。婆さんが若い頃はそれ以上だったんじゃないかな。俺らと一緒で、街も歳をとるんだよ」
なるほど、確かに『枯れている』感じはある。だけど、その静けさは嫌いじゃないな。落ち着くというか、心地よいというか。きっとこの街は、いい感じに歳をとったのだ。
そんな話をしているうちに、杉山さんの実家に到着した。
「おおお……大きいですね!」
うっかり私がそんな言葉をこぼしてしまうくらい、大きな平屋の家だった。私のが部屋が何個くらい入るんだろう? という感じ。
地方の家は大きいとはよく聞くけど、はー、本当に大きいなあ!
「土地が安いからな」
はははは、と叔父さんが笑う。
「部屋があまりまくっていてね、1人1部屋ずつ用意しているから。のんびりくつろいでおくれ」
そりゃすごい。ありがとうございます!
玄関もまた、私たち全員が一斉に入っても狭さを感じないくらいだ。叔父さんが奥に声をかけると、叔父さんと同じくらいの、小綺麗な格好の女性が現れた。
「嫁だ。ここは俺たち二人で住んでいる。困ったときは俺かこいつに聞いてくれ」
「裕子さん、お世話になります」
杉山さんが挨拶をして、私たちを紹介する。
「あらあら、二人もお友達を連れて……賑やかね。自分の家だと思って、遠慮せず過ごしてね」
玄関から歩いて廊下を進む。木の床がきしむ音がする。広い廊下には古い家具が並んでいて、どこか懐かしい雰囲気が漂っていた。
全員で広い居間に移動する。
裕子さんがお茶を淹れてくれた後、早速、杉山さんが切り出した。
「『シンデレラの秘密』の台本は見つかった?」
「いいや……この家にはなかった。連絡をもらってから、かなりあちこち探したけど、見つけられなかった」
「そうなんだ……」
「ないとは思うけど、凛のほうでも探してくれ。この家の中なら、どこを探してもらってもいいから」
「うん、わかった。ありがとう」
とはいえ、望み薄なんだろう……この家のことを最も熟知している叔父さんが探して見つからないんだから。
だとしたら、残されたアプローチは――
「あと、婆さんが参加していた劇団はもう解散している」
それはそうだろう。50年くらい前の小さな劇団なんだから。
「だけど、栗田光代さんという人と連絡が取れた。婆さんの劇団時代の友人で近所に住んでいる。お前が演劇をしているという話をしてな、婆さんのことを話してやって欲しいと頼んだら了承してくれた」
「本当!?」
「ああ……手掛かりになるかはわからんが、話をしてみたらどうだ?」
とりあえず、か細いとはいえ、次につながる糸口は掴むことができた。
何かわかればいいんだけど……どうなるんだろう?
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