第13話 それを受けて、新聞部はどう動く?

 よかったよかった! 演劇部が一致団結できて本当に良かった!

 とはいえ、想定よりもとても大きな予定変更なので、私たちの中だけで留めておくわけにもいかず、私と葛城くんは麟太郎くんへの報告のため、新聞部の部室に向かっていた。


 果たして、この演劇部の動きに、新聞部はどう反応するんだろう。

 もうややこしいから手を引く! とかになったらどうしよう。乗りかかった船だし、最後の最後まで追いかけたいんだけど。


「麟太郎くん、なんて言うかな?」


「ノリノリで喜びそうな気がするな。あの人、そういうの好きだから」


「ど、同感……」


 確かに、記事として面白くなりそうな要素ではあるのだけど。


「ああいうの、いいよな」


「え?」


「演劇部。部長の無茶な頼みを、みんなで一致団結して叶えようって。ちょっと胸が熱くなった。なんとなく、昔を思い出したよ」


 ……そっか、亮太くんは野球をしていたんだった。野球はチームスポーツ。みんなのために、一人一人が必死にプレイをしていたんだろう。

 きっとそれは、亮太くんの思い出なのかもしれない。


「野球……楽しかった?」


「そうだな、楽しかったよ。ムカついて眠れない日も多かったけど」


 ははは、と笑うが、その声はすぐに翳った。


「だけど、あんまり思い出せないんだよな……」


 それは本当に寂しそうで、捨てられた犬の鳴き声のようだった。


「思い出せない……?」


「ああ。故障したときのショックがデカすぎたんだろうなあ……大好きな野球を捨てなきゃいけない……それほどの痛みで辛くて泣きそうで――辞めるとき、先生や仲間から言われた言葉もぼんやりしているんだ」


 そこから、声を明るくして、続けた。


「ま、終わったことなんだから、さっさと忘れて先に進めって、神様からのお告げなんだよ」


 思い出せない、か……。

 思い出させることは『追憶』でできる。もっと葛城くんから野球の話を聞いて、その過去に近づけば、きっと。


 だけど、それって、どうなんだろう。


 演劇部の杉山さんや松本さんに関しては、必ず幸せになるという自信があったから、100%の確信を持って『追憶』を使えた。

 だけど、葛城くんの場合はどうだろう?

 楽しいことだけじゃなくて、野球を辞めるときの辛さとか、体を痛めたときの悲しい記憶まで蘇ってしまうはずだ。

 美咲ちゃんの、悲しげな声が耳に響く。


 ――私、そんなことしないもん! お母さんがくれた大切な人形だもん! どうして、そんなひどいことを言うの、佳奈ちゃん!


「…………」


 やはり、神様お告げ通り、早く忘れて前に進むべきなのかもしれない。

 私の『追憶』は、それを邪魔することになる――

「着いたぞ」


 葛城くんの言葉で我に帰った。いつの間にか新聞部の部室に着いたらしい。


「失礼しまーす」


 そう言いながら入ると、最初に訪れたときのように、机に座ってノートパソコンをいじる麟太郎くんが一人だけ部屋にいた。


「お疲れ様。なんだい、直接報告したいことがあるって?」


「三森さん、よろしく」


「は、はい!」


 葛城くんからのパスを受け取る。お試しとはいえ、私も新聞部なのだ。葛城くんに頼ってばかりじゃいけないぞ……!


「実は部長の杉山さんが『シンデレラの秘密』の脚本に疑問を持っていまして、どうも脚本が差し代わりそうなんです」


「へえ!」


 あ、麟太郎くんの目がキラキラしている。

 それから、私は経緯を全て話すことにした。どんな疑問なのか、杉山さんのお婆さんのこと、杉山さんがゴールデンウィークに実家まで脚本を探しに行くこと――

 おお……!

 麟太郎くんの目がますます輝いている。興味を持ってくれているのは嬉しいけれど、そこまで気持ちが強くなると、逆に嫌な予感がしてくる……。

 なんか、変に話が大きくなったりしないよね?

 話が終わると同時、麟太郎くんは大声で叫んだ。


「それはとくダネだ! 絶対に面白いことになる!」


 麟太郎くんが両手を何度も打ち鳴らす。


「今の『シンデレラの秘密』の矛盾! 2つの脚本の謎! 逆境でも一致団結して部長の思いを果たそうとする演劇部の心意気! 面白い! 絶対に面白くなる!」


 麟太郎くんが机をバーンと叩いた。


「よし、取材だ! 佳奈、葛城! ゴールデンウィーク、杉山さんの帰省について行って取材をしよう」


「帰省について行く――って、えええええええええええ!?」


 とんでもない展開になっているんだけど!?


「そこまでやるの!? 本当に?」


「やるに決まってる! これを追いかけないなんて、ジャーナリスト失格だ!」


 ジャーナリストの前に、私たちまだ中学生ですけど!?


「で、でも……お金はどうするの? 旅費はタダじゃないよ?」


「問題ない!」


 麟太郎くんが自信満々に言い返してくる。


「新聞部のWebサイトは人気があると言っただろう? 実はかなりの広告収入を稼いでるんだ。これくらいの予算は余裕だ!」


「ひえええええええええ!」


 私は頭を抱えた。そんな大きな話になるなんて!


「か、葛城くん、何か言うことある……?」


「いやあ……ああいう感じになったら、麟太郎さんは止まらないだろ?」


「と、止まらないですね……」


 傍若無人で暴走癖があるのは昔からだ。


「ま、タダで楽しい旅行ができるんだから、役得なんじゃないか? きっと楽しい旅行になるよ。頑張ろう、三森さん」


 はい、頑張ります……。


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