三十 真相
「ルル。俺を独りでトイレへ行かせたくないんだろう?理由は何?」
俺はルルを抱きしめたままそう言った。
ルルはベッドに横たわった俺の胸に抱きついたまま、力の抜けた子猫のようにふにゃふにゃになってまどろんでいる。
午後三時だ。昨夜、何かあったか?思いだしてみたが、何も無い。ルルは簡易ベッドでぐっすり眠っていた。簡易ベッドと言っても、折りたたみ式で、折りたたんで患者用ベッドの下に収納できるだけで、寝心地は患者用ベッドと変りない。レポート作成と期末試験勉強は順調に進んでいたため、毎晩ルルはぐっすり眠ってる。寝不足ではないはずだ。
ルルが目を覚した。俺を見てほほえんでいる。
「俺を一人でトイレに行かせない理由は何?」
俺はルルの髪と肩を撫でた。
「あの日、駅のトイレから明が出てくるような気がして待ってた。そしたら、明が出てきた。
記憶を無くして・・・。
その時は、明もあたしに会いたくて長野駅に居たんだなと思ってた・・・。
でも、卒業式の練習のあとで事故に遭って、明が何のために駅のトイレから現れたかわかった・・・。
あたしを守るためでしょう?あたしの身代わりになって事故に遭って怪我をしたんでしょう?」
「俺にもわからないんだ・・・。
トイレから出たら駅だった。そしてルルが居た・・・」
「トイレに入る前、どこに居たの?」
「良く覚えていない・・・。
駅じゃなかった気がする。俺が入ったトイレは家のトイレだったと思う・・・」
「そのトイレはどんなトイレだった?」
「新しかったな・・・。たしか・・・」
そう言ったとたん、俺は思いだした。
放尿の夢を見た。用をすませ、すっきりした気分に浸っていたら目が覚めた。あわててパジャマの股間に手を触れた。濡れていない。尿意はあった。あわててトイレに入った。
そして、出たら駅だった・・・。
どうして尿意をがまんしたまま眠ってしまったのか。それは、トイレへ行く暇が無かったためだ。どうして?それは・・・。思いだしたくない・・・。
「言わなくていいわ・・・。わかってる・・・。明が私の身代わりになったのだから・・・。
だから、明を独りでトイレへ行かせたくないの。
もし、独りでトイレへ行ったら、明はどこへ出るの?」
「・・・」
俺は何も答えられなかった。ルルを気づかって何も言わないのではない。どうなるか、わからないのだ・・・。
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