二十二 あたしの夫

 ルルが押す車椅子が通路を移動する。通路の空気が顔に当たって顔の橫へ流れてゆく。

「顔が寒い。スウスウする。目出し帽がほしい・・・」

 今まで顔をおおっていた物が完全になくなったから、室内の空気がまともの顔に当たる。 空気は暖かいが、顔が寒い。目出し帽がなければ、メガネとマスクをしたい。そうすれば、顔が直接空気に触れる機会が少なくなるが、マスクは禁じられてる。


「顔が寒くないように、何か方法を考えるね・・・」

 ルルは、あのメガネタイプの、大きな感染防止透明マスクを考えてる。


「感染防止マスクが紫外線防止プラスティックでできてればいいね・・・」

 これって使えるぞ・・・。

 紫外線防止プラスティックで感染防止マスクを作ればいい。

 そうだ!キャップの鍔が紫外線防止プラスティックになってるサンバイザーをもっと顔に近づくようにすればいい・・・。

 待てよ。これって解剖医が被っているフェイスガードだ・・・。残念・・・。

 俺はルルが押す車椅子でそう思った。


「ねえ、何を考えてるの?そんなに難しい顔をして」

 ルルが車椅子を押しながら、俺の顔をのぞきこんだ。

「顔全部をおおって紫外線を防止して風をよけ、感染防止する透明なマスクがあればいいと思ったら、解剖医がつけてるフェイスガードがそれと同じ機能を持ってるのがわかった・・・。特許を取り損ねた・・・」

「やっと、アキラが冗談を言うようになったね」

 ルルがクスクス笑っている。


 通路を行き来する看護師たちが俺を見て、笑顔で会釈している。顔にギブスをしてたときや、包帯をしてたとき、こんな笑顔の会釈はなかった気がする。

「この顔、どう思う?」

「あたしは好きだよ。今までのアキラも、今のアキラも」

「過去と現在をくらべたって、過去にはもどらないからね・・・」


「うん、だけど、まわりがうるさくなるよ。ほら、アキラを見てる」

 ルルは顔見知りになった看護師たちにあいさつしながらそう言い、

「ダメだよ。このハンサムはあたしの夫だよ。じろじろ見ないで・・・」

 とささやいてクククッと笑ってる。

 ルルはこの顔が気に入っているみたいだ。

 あれっ、形成外科でも、担当医がルルを奧さんと呼んでた。今、ルルは俺を夫と呼んだ。どういうことだ・・・・。

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