第4話

「同じでしたね」


 訪問看護ステーションから出て、僕はふと言った。


「同じ?――笛吹、今、同じと言ったの?」


「え?」


 いきなり七曲さんがこちらを向いてきたので、びっくりして転びそうになってしまった。


「それはどういう意味? 何が同じなの?」


「いえ、ですから、てっきり――七曲さんもお気付きかと思ったんですけれど」


「私とあなたは別の人間、言ったでしょう、人一人が考えられる領域には限界がある。私は、あなたが『同じ』と言った意味を理解できなかった。教えて頂戴、何が同じなの」


「えっと――それは、その、迂生野警部がおっしゃっていたじゃないですか。って。白河さんも、それに該当するってことかな――って意味で、『同じ』って言ったんです」


「ああ――そうね。確かに、言って、いたわね」


「それって、まあ包括的に言えば、全員が幸せだったってことじゃないですか。これを他殺だと定義するのなら、幸せな人間を狙った殺人、ってことになる」


 言ってみて、やはり改めて、おかしいと思う。


 いくら周囲の人間が朴念仁でも、自殺をしようとする人間に気付かないなんてことがあるだろうか。だからと云ってこれが他殺だと決めつけるのも違う気がする。何もかもが当てはまるようで、何一つ掠(かす)っていない。


 ならば――。


 ならばこの模範解答は、何だ。


「まさか――幸せだから自殺するなんて、そんなことないでしょうし」



 間違いなく傍点を付けて。


 即断即決で。


 七曲声は僕の声に反応した。


「えっ」


 僕の理解が追い付く前に、既に七曲さんは動いていた。


「その線で、警察に捜査をさせるわ。良くやったわ。笛吹。今夜は焼肉よ」


 そう言ってスマホを操作し、警察各所に連絡を始めた。


「…………」


 助手の、ひょんな一言が決め手となって――事件が解決する、なんて。


 それも探偵小説の定石だなと、ふと思い出した。




(続)

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