第3話

 *


「白河さんは――真面目な人でした」


 そう語るのは、さる訪問看護ステーションに勤務する女性、束沼たばぬま康江やすえ氏であった。


「ご自身が精神病を患っているというのに、それを客観的に分析されていて――話すたびに私の方が気力を貰うようでした。ええ――時折自傷行為に近いこともしてしまっていると悔いていましたが――少なくとも、最後の日の金曜日――ええと、毎週金曜日の午後一時からが、白河さんの訪問看護の時間なのですけれど、その日は、これと言って変わった、ということはありませんでした。ああ、そうですね、ええ。ええと、これはまだ世間に公表してはいけないと言われているので、探偵さん方もタレコミなどはしないで欲しいのですが、構いませんか――白河さん、趣味で小説を書いていまして、今回、それが最終候補に残ったのだそうで――ええ、最後の日、それをとても喜んでいました。雑誌の名前は控えますけれど。あの、この件は、はい、世間に公表することは控えていただけるとありがたいです。その時の喜びようと言ったら――私は白河さんを一年と半、担当させていただいたのですが、あれだけ嬉々として私に報告してくださったのは、初めてだったように思います。心からの笑顔、というのですか。白河さんのそんな面持ちを見たのは、それで最初で最後でした。それから、市役所の方から、白河さんが死亡したという話を聞いた時は、正直、驚きました。前週あれだけ嬉しいことがあったのに――いえ、だからこそ、でしょうか。嬉しさから一転、何かがあったからこそ、一気に気分が下落してしまった、とか。確かに白河さんにそういう傾向があったというところはあります。白河さんに何があったのかは分かりませんが、しかしやはり、信じがたいのですよ。あの白河さんが、亡くなってしまうというのは。だって確かに、あの瞬間は」


 ――幸せそうだったんです。


 そう言って、束沼氏は、涙を浮かべた。


 良い人なのだな、と、僕は思った。




(続)

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