お隣の吸血鬼は俺の血が欲しいだけ~毎日お世話をされて、時々血を吸われるお隣生活~
海月くらげ@書籍色々発売中!
第1話 隣の席は高嶺の花
大体タイトル通りの新作です。
吸血鬼ヒロインはいいぞ(いいぞ)。
―――
夏が迫る日の放課後。
俺――
彼女の容姿は芸能人やアイドルにも引けを取らないほど優れている。
平均より少し高いらしい身長と、胸元に窺える確かな二つの膨らみ。
夏服の半袖ブラウスとプリーツスカートから伸びる、日焼けを知らない手脚が目に毒だ。
腰まで伸ばした白銀色の長髪は日本では珍しいものだが、地毛らしい。
前髪の隙間から覗く目は長い睫毛に彩られた二重で、瞳は空のように澄んだ青色。
しかしながら、視線は俺と傍にある窓を交互に行き来している。
それだけではなく、顔立ちも当然のように整っているのだから驚きだ。
肌は色白、鼻筋は顔の中央を分断するように通っている。
雪原のように白く、女性らしい丸みを帯びている頬は僅かに緩んでいた。
花の蕾のような桃色の唇はきゅっと結ばれていたが、
「――遠坂さん。その……今日も、いいですか?」
いじらしい上目遣いで懇願する彼女――
それに俺は酷く悩ましい思いをしながらも、早夜月の事情を考えれば断れないと理解していた。
「……百歩譲って学校でするのはいいとしても、ここで? 誰か通りかかったら見られるぞ」
「足音で気づけます。地獄耳なので」
「二、三日前にも似たような理由で強請られた記憶があるんだが」
「気のせいですよ、気のせい。……だめ、ですか?」
「……そうは言っていないけど、頻度を考えてもらわないと俺の身体が持たない。抜かれ過ぎたら死ぬんだぞ?」
「節度はわきまえているつもりです。一度の量は少なめにしていますし」
回数が増えたら同じことだろうと考えつつも、細身の腰をそっと抱き寄せる。
早夜月も逆らわず、二人で抱き合う。
制服越しに押し付けられる彼女の胸。
無駄な努力と知りながらも煩悩を誘う柔らかな感触から意識を逸らしていると、背伸びをした早夜月の顔が首元へ埋められた。
「――いただきます」
耳元で囁かれたのは、抱き合いながら告げる言葉としては不適切な呟き。
直後、首を粘性を帯びた温かくもざらついた感触……早夜月の舌が舐り、
「――ッ」
首筋に、早夜月の八重歯が埋められた。
何度やっても慣れない痛みと異物感、その後にやってくる出どころ不明の快楽に思考を攫われながら、俺は早夜月とこうなるに至ったきっかけの日を思い出す。
◆
海外出張をしている親父に勧められて入学した『早夜月大学付属高校』の同じクラス、二年一組には絶大な人気を誇る女子生徒が在籍している。
それこそ隣の席で授業を受けている早夜月乃蒼だ。
ノートと黒板の間で視線を行き来させながら板書を取る早夜月は、日本人らしからぬ腰付近まで長さのある銀髪と空のように澄んだ青い瞳が特徴的な少女……もとい、美少女である。
一年の頃、早夜月はクラスメイトから質問攻めにあった末に「日本生まれの日本育ちです。これで満足ですか?」などと素っ気なく答えていた。
そんな早夜月は当然のようにモテる。
風の噂で聞いただけでも、入学時から毎週一度は必ず告白されているらしい。
しかも、その全てを「興味がありません」という一言で断っているとか。
正しく孤高の存在にもかかわらず人気が絶えないのは、ひとえに彼女の容姿が優れ過ぎているからか。
高嶺の花と呼ぶに相応しい扱いを受ける早夜月の隣の席になった俺には、男子諸君からの嫉妬と羨望が絶えなかったな。
その上、早夜月はとても優秀な生徒としても知られている。
理事長の娘で、一年次の成績は一度もトップを譲らなかった。
成績優秀、容姿端麗、そして運動神経も抜群と非の打ち所がない。
しかし、友達らしい人物と親しくしている姿は見られない。
事務的な話はちゃんと出来るし色んな人から厚い信頼を寄せられているため、人望や社会性を疑うつもりはないけど。
とはいえ……俺は正直、早夜月にはあまり興味がなかったりする。
絶対に手が届かないことを理解しているからだ。
俺は至って普通の男子生徒。
成績も一学年300人以上の中で中の上程度だし、運動神経がいいわけでもなく、部活にも入っていない。
友人曰く「顔は悪くない」らしいけど、何処まで信じていいやら。
彼女も出来たことがないのは問題は顔ではなく性格では? という気がするし、母が浮気して離婚したのをこの目で見たため彼女を欲しいと思えない。
そんな俺の特徴らしい特徴と言えば左肩にある、噛み傷だろうか。
でも、俺自身にその傷を作った出来事の記憶がない。
親父に聞いても「犬に噛まれたんだよ、犬」と適当にはぐらかされるばかりで本当のところはわからない。
「――よし、今日はここまで」
教師が授業終了の予鈴を聞いて話を切ると、一拍置いて早夜月が「起立」と澄んだ声を響かせた。
今日の日直当番は俺と早夜月。
授業始めの挨拶を俺、終わりを早夜月として分担している。
クラスメイトも早夜月の号令に遅れることなく立ち、揃ったところで「礼」と続け、授業が終わる。
教師も教室を出ていき、次の授業に向けての準備を始める音が教室中から聞こえた。
授業後の黒板を綺麗に消すのも日直の仕事である。
教室を見渡し、まだ板書を取っている人がいないか確認してから消していると、早夜月も俺の反対側を黒板消しで消していた。
しかし、早夜月の身長では、微妙に黒板の上まで届かなさそうだ。
「上の方は俺が消すから残しておいていいぞ」
「……その分は別で埋め合わせしますので、お願いします」
「適材適所だから気にするな」
変に遠慮がない分、早夜月との会話はやりやすい。
でも……なんとなく、横目で見た早夜月に違和感を覚える。
なんだろうと考えながら記憶の中の早夜月と見比べて、
「早夜月」
「なんでしょうか」
「余計なことかもしれないんだけど、体調が悪かったりしないか? なんとなく顔色が悪いように見えたから」
早夜月は元から色白だけど、今日は病的な青白さと言えばいいのだろうか。
微々たる違いに気づけたのは隣の席で早夜月の顔を目にする機会が多いからだろう。
早夜月は一瞬だけ手を止めたものの、すぐに作業を再開し、
「……お気遣いありがとうございます。ですが、心配には及びません。自分の体調は自分がよくわかっているつもりなので」
「そうだよな。すまん、忘れてくれ」
素っ気ない返答にやはり気のせいだったのだろうと自分を納得させる。
それからも午後まで授業を終え、放課後のこと。
日直の最後の仕事である教室の掃除を済ませ、ゴミ捨てから教室に戻った俺が目にしたのは、黒板前で蹲るように倒れている女子生徒。
床へ無造作に散らばる、透き通るように綺麗な銀色の長髪。
プリーツスカートの裾が際どい所までめくれ上がっていて、そこからまったく日焼けしていない白さの脚が二本伸びている。
垂れ幕のように伏せられた両の睫毛。
顔は苦しげに歪んでいて、それを窓から差し込む陽射しがスポットライトみたいに照らしだす。
まるで、この瞬間が彼女の見せ場だと主張するみたいに。
なだらかな山を作る胸元を抑えるのは白魚のような右手。
指先だけが何かを求めるかのように動いていて、呼吸は荒く乱れている。
「――――早夜月っ」
倒れていたのは、どこからどう見ても早夜月乃蒼だった。
―――
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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