第4話
夜の王都を、凄まじい勢いでアリサが駆けていく。
は、早い!これ馬車より早いんじゃ……?
やがて、高級そうな宿の前でアリサは止まり、入っていく。
どうやら、ここがアリサの王都での拠点のようだ。
さ、最初、怖いマスターが出てきた時は失敗かと思ったけど、最終的にはうまく行き過ぎなくらいだ……!
アリサが自分の部屋に入る。
その豪華さたるや、最上級の部屋だと一目でわかる。
何この部屋……、下手したら私の家より広いのでは……?と呑気なことを考える私。
アリサが後ろ手で、鍵をしっかり閉める音が聴こえる。
そして、丁度その時だった。
手遅れになったその時、私は自分の計画の致命的な点に気がついてしまったのだ……!
……あれ……これ……そういえば……この計画……。
……ネタバラシした後、私どうやって帰ればいいの?
私だと分かりました→アリサがっかり→じゃあね、って無事に帰れる……?
そ、そんなわけ、なくない?
絶対、
アリサがブチギレ→私を攻撃→私、死亡……?
ぜ、絶対この流れじゃん!!!
やばいやばい!!!
やらかした!どうしよう!?
「あ、あの、私やっぱり、かえ……」
いいかける私を無視して、アリサが私をベッドに押し倒す。
そして、無理やり舌を口に捩じ込まれ、貪るようなキスをされる。
昔キスを、舌で蹂躙、と表現していた小説があったのを思い出した。
そんな大袈裟な、と思っていたが、今じゃそれがけして、誇張したものじゃないとわかる。
「〜〜っ!?!?」
びっくりして、両手で押すけど、ぴくりとも動かない。
……ち、力強すぎ! て、いうかそりゃそうだよね!あんなに筋肉だらけのマスターを、余裕で抑えれるくらいだもんね!
しばらくして、やっと離してくれたところで思わず、反射的に叫んでしまった。
「や、やめて!わ、私だよ!エマ!元カノの!」
……すると思いもよらぬ答えが返ってきた。
「…………知ってる。そんなの、顔見たらわかる」
……ほえ?わ、わかる……?
く、薬が効いてないの……?い、いや、ちゃんと調合したし……そんなはずは……。
???と困惑していると、我慢できない、と言うふうに、アリサが言い始めた。
「なんでそんな当たり前のこと言ってくんの?意味わかんない。エマちゃんの全部が、マジで意味わかんない。仲良くできてると思ってたのに、悪口だけ書いた手紙で一方的に別れてくるし、全然会ってもくれないし、こっちは忘れようと思って毎晩酒浸りになってるのに、急に現れて誘惑してくるし、何話したらいいかもわかんなくて、でも、終わったらまた消えちゃうかもと思って、バカみたいにお酒飲んじゃったし、ああ、もう私まで訳わかんないこと言ってんじゃん、とにかく、ほんとにほんとに、わけわかんない」
堰を切ったように、取り止めもなく、アリサが私に言葉をぶつけてくる。
そのうち、ぽた、ぽた、と私の頰になにかが当たる。
ーーアリサの涙だ。
唖然として言葉を聞いていたけど、どうしても聞き流せなくて私は言い返す。
アリサにあてられたように、感情的に、怒りのままに。
「わ、わけわかんないのはそっちじゃん!」
「なにが」
「そ、そりゃ、アリサみたいな子が私みたいなのを好きって信じる方が絶対変かも知れないけどさ、だからって、友達と私のこと馬鹿にしながら浮気して!見たんだからね!」
「は?なんの話?」
「とぼけても無駄!別れるって手紙渡す前の日!窓の外から見えたんだから!私じゃ無理って言ってるのもはっきり聞いたし!」
「……は?何言って……………………あ」
本当に心当たりがなさそうに、アリサの声が伸びて、ようやく止まった。
「もしかして、あれの話?」
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『エマちゃんとそろそろ、もっとその……恋人っぽいことしたいんだけどさ……』
『ああ、まだエッチしてないんだ。アリサって意外とビビりだよね』
『す、ストレートに言わないでよ。どうやって誘えばいいか分からなくて……』
『うーん、そうだなぁ。私の場合、だけど。ちょっと手引かせてもらうね。…………こう、ベッドに押し倒して、しようってストレートに言ったかな。どう?こういうことエマにもできる?』
『無理、無理だよ。できるわけないじゃん。意地悪なこと聞かないでよ』
『ふふ、それもそうだね…………アリサ、ビビりだし』
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「……て、こと。どういう風に誘えばいいか教えてもらってただけ。勘違いさせたのは謝るけど、変なところには触ってもない。だいたい、向こうにも彼女いるし」
…………。
嘘をついてるようにも見えない。
ええっと、つまりまとめると……覗き見した私が勝手に勘違いして、ヒステリー起こして別れるって言ったってこと……?
さっきまでの燃えるような怒りはすっかり消え、代わりに、凍えるような冷や汗が出てきた。
こ、怖くて、アリサの顔も見えない。
「あ、あはは、そっか、じゃあ私の勘違いだったってことだね……。ひ、一人で飲んでたところ、邪魔してごめんね……?」
アリサの体の下から抜け出そうとする。
が、ガッツリと両腕を掴まれる。
「全然笑い事じゃないけど。……帰れるとほんとに思ってるの?」
「お、思ってないです……」
あまりの迫力に敬語になる私。
「責任、とる必要あるよね?この5年間、私がどんな気持ちだったか思い知らせる権利くらい、私にあるよね」
バーの時とは反対に、アリサが、耳元で囁いた。
「覚悟しててね、たっぷりと分からせてあげるから」
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