第28話 スローライフ配信者。ジャガイモとマリーゴールド観賞をする
朝目覚める。と言っても最近は起きる時間が若干遅くなってしまっている。
陽が出る時間も遅くなってきているし、朝の気温も低くなってしまって体が起きる準備を全くしてくれないのだ。
冬に近づくにつれて起きる時間が遅くなるというのは、社畜時代は実に困らせてくれた仕様である。
でも、今はいつ寝ても、いつ起きても大丈夫な生活を送れている……いや、送れていると言っていいのか怪しい経済状況ではある。
そんないつもよりも遅い時間に起きたまったりとした朝を過ごしていた時のこと。
そろそろ陽が出てきて温かくなってきたので庭に出てみる。マナナッツはまだ結実はしていない。受粉の方法が間違っているのか、それとも結実まで時間がかかるのかはわからない。
俺はマナナッツが開花することを祈り始めた。がんばれ! マナナッツ! 受粉するんだ!
そして、俺は庭の裏の様子を見に行くことにした。ジャガイモとマリーゴールド。この2つがどうなっているのかの確認だ。
「お、お、おおお!」
俺は思わずそんな声を出した。なんとジャガイモとマリーゴールドのツボミができているではないか。
これは開花までもうすぐと言った感じか?
一応ツボミの写真も撮っておこうと俺はスマホで撮影した。
「一応SNSにでもアップしておくかっと」
俺はジャガイモとマリーゴールドのツボミをTLに流しておいた。
俺のフォロワーは大体、植物とか好きそうだしこれにも食いついてくれるだろう。
元はマナナッツに興味があって集まってくれた人たちだ。この花たちも愛でて欲しい。
さてと。今日は動画編集作業も終わらせてあるし、新村さんの畑の手伝いの予定が入っていたな。そろそろ行くか。
俺は新村さんの畑に手伝いへと向かった。
「よお。蓮君。今日はよろしく頼むな」
「はい」
「良い返事だな。なにかいいことでもあったのか?」
どうやら、新村さんにはお見通しのようである。そんなに嬉しさがにじみ出ていたか。
「実はジャガイモとマリーゴールドを庭に植えていたんですけど2つ共ツボミができていたんですよね」
「おお、それはめでたいな。植物の開花は嬉しいものだからな」
新村さんも嬉しそうに笑っている。
「新村さんもそういうのはやっぱり嬉しいんですか?」
「当たり前だろ。こちとら、農作物が順当に育たないと飯が食えないからな。ツボミが生えたり開花するのはまさにその証拠。何回だって嬉しいものよ」
農家だとそういうのに慣れてしまうものかと思ったけど、そういうわけでもなさそうだ。
まあ、感動する映画は何回見たって感動するし、それと同じようなものかな。
「それじゃあ、早速こっちに来て手伝ってくれ」
新村さんについていくとそこにはかなりの数のプランターがあった。
「このプランターに種を植えて欲しい。だいたいこんな間隔でだな」
新村さんは指でプランターの地面を等間隔で押してそこに種を植える作業をしている。
「このプランターで農作物を育てるんですか?」
「いや、これは苗作りだ」
「へー。苗って仕入れるものじゃないんですね」
こういうのは分業制というか専用の業者が得意分野を遺憾なく発揮するものだと思っていた。
「まあ、仕入れる場合もあるけれど、自分で苗を作ったりする場合もあるってことだ。特にオリジナルブランドを作っている農家はそうだな」
「なるほど」
農家によって色々な方法を取っているんだな。明確なこれが正解というものがないのがなんだか楽しそうである。
「それじゃ頼んだぞ」
俺は新村さんに言われた通りに種を植えていく。その隣で別のプランターに新村さんが種を植えている。
俺はぎこちない動きでスピードが遅いけれど新村さんはやけに動きが早い。これが熟練の技と言うやつなのか。素人がそう簡単に追いつけるスピードではなかった。
そんなこんなで太陽が真上に上るような時刻。昼飯時になった。
「ふう。そろそろ昼休憩しようか」
「そうですね」
一旦、昼休憩をするために俺は家へと帰った。手を洗ってから料理を作り始める。
「昼は……野菜炒めで良いか」
ニンジン、タマネギ、キャベツをぶつ切りに刻んでいく。秋が旬なキノコも一緒に入れてやろうか。そして、豚肉も入れる。フライパンに油を敷いて火の通りづらい食材から順番に入れていって野菜を炒めていく。
塩、コショウで簡単に味付けをして味見をする。うん。良い感じだ。
今日は野菜炒めと白飯という実に簡素なメニューである。味噌汁も作りたかったけど、あいにく、味噌を切らしていた。
全く計画性がない台所である。
俺は野菜炒めを食べる。うん。塩味とコショウの風味が効いていてうまいな。野菜のほんのりとした甘みも炒めたことで感じられる。
豚肉もよく火が通っていて美味いな。野菜との相性も悪くない。色々な野菜のしんなりとした食感が口の中で広がって癖になる。
これは白飯が進みますわあ。
飯を食べた後に再び新村さんのところで農作業を手伝い、そして夕方になった。
仕事を終えた俺は新村さんに報酬をもらい、自宅へと帰る。
まったりとした時間を過ごしてSNSをふと見てみるとジャガイモとマリーゴールドの写真もそれなりに反響があった。
『こっちも開花して欲しい』
『開花したら写真見せてください』
やっぱり好評のようである。マナナッツほどの勢いはないもののこちらも人気だな。
◇
ジャガイモとマリーゴールドのツボミができてから数日後、ついにほとんどの花が開花した。
「おお。キレイだなあ」
ジャガイモの紫色の花とマリーゴールドの鮮やかな金色。それらが一緒に咲いていることでかなりキレイに映えている。
これは写真を撮りたい。俺はパシャパシャとスマホで写真を撮った。
「かわいい。これはぜひとも共有せねば」
俺はまた例によってSNSに写真をアップした。ツボミの状態でも良い反応があったから、開花写真ならどんな反応が来るのだろうか楽しみである。
「うーん……いいなあ」
俺はそう呟かざるを得なかった。
やはり俺は根本的なところでは植物が好きなんだと言うことを想い知らされてしまう。
こうした花を見ていると実に癒される。マナナッツの時もそうだけど、芽が出て感動して、ツボミが出て感動して、そして花が咲いて歓喜する。大体こんな感じの流れだな。
自分で育てているとやはり愛着というものが沸くし、花を見てキレイだなと思うことはあったけれど……こう、なんというか我が子の成長を見ているような感覚と言っていいのか?
いや、知らんけど。俺、独身で子供いないし。
でも、育てているものの成長が実感できると、これほどまでに嬉しいものはないと感じるな。
俺はジャガイモの花をそっと撫でてみた。うん。撫でてみるとより一層愛着がわく。
しかし、この花の命も短いもので開花時期というのも限られている。ジャガイモも開花したら収穫が近づいている証拠だし。
その限られた時間を一緒に過ごしていきたい。写真に収めて思い出に残すというのも大切なことだ。
俺が花を観賞して物思いに耽っているとかなりの時間が経過した。今日は予定がないから全然構わないけれど、ちょっと観賞しすぎた感じはある。
でも、SNSをチェックするには丁度いい時間だ。さっき上げた開花写真の反応はどうだろうか。
『おお、これがジャガイモの花ですか。初めて見ました』
『うちもジャガイモ育てたことあります。花かわいいですよね』
『マリーゴールドの色がキレイですね』
『私もマリーゴールドを育てていて先日開花しましたよ』
『ジャガイモとマリーゴールドは相性が良いですね。見た目的にも映えますし』
おお、やっぱり開花になるとコメント数が増える増える。
流石にマナナッツの開花ほどの勢いはないけれど、こういうのも定期的にアップするのも悪くなさそうだ。
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