第27話 スローライフ配信者。草むしりの手伝いをする
俺は時間が空いた時に修二君と電話をしていた。
「いやー。すごいですね。狩谷さん。ついにマナナッツが開花するなんて。おめでとうございます」
「ありがとう修二君。みんなの応援のお陰でここまでこれた感じはするね」
スローライフ配信を始めなければ、持っていたマナナッツを植えてみようなんて発想にはならなかったし、なんというか不思議な縁で世の中はできているなと思った。
「あ、そうだ。狩谷さん。この話は聞いたことあるっすか?」
「ん?」
「真木さんの家の庭が結構草ボーボーになっていたから、草むしりの手伝いを募集しているみたいなんすよねえ」
「そうなのか」
「そうっすね。俺も参加する予定です」
真木さんの家は以前バーベキューで訪れたことがある。あの時はそこまでボーボーって感じでもなかったような気がするけど。
「前回草むしりしたのが6月だったかな。9月は結構仕事で忙しかったみたいでやる余裕がなかったみたいなんすよねえ。本格的に寒くなる前に雑草の力を削ぐために今から草むしりがしたいってことです」
草むしりは年に数回しないといけないからな。俺の庭のところはもう済ませてある。秋冬のシーズンはこれで乗り切れるはずだ。
「まあ、手伝いに募集って言うんだったら、俺も手伝いに行こうかな。田舎で若いパワーを余らせておくなんてもったいないし」
わけのわからない理屈で一応は参加を表明する。
「お、狩谷さんも参加するっすか。じゃあ、真木さんに俺から伝えておきますね」
こうして俺は真木さんの家の草むしりに参加することになった。草むしりの当日。俺は修二君と共に真木さんの家に向かった。
「お邪魔します」
「こんにちは。来てくれてありがとうございます」
真木さんが丁寧に頭を下げている。俺も釣られて頭を下げた。
「それではこちらの庭の草むしりをお願いします」
真木さんに頼まれて、俺たちは庭の草むしりをすることになった。真木さんの庭の草はまあまあ草が生えていた。
「まあ、3人でやれば1日で終わる量っすかね」
修二君がそんなこと言っている。3人でやればか。もし、1人でこれをやるとなっていたら大変だろうな。俺も庭の草むしりは数日かけてやっていたし。
「それじゃあ、私はここを。狩谷さんはそこを。有泉君はそっちをお願いします」
「はーい」
真木さんの指示に従って俺たちは草むしりを始めた。鎌を使って草を刈っていく。草を引っ張ってざっくりと刈る。
ただただその単調な作業の繰り返しである。素手で引っこ抜ける規模のものは素手で引っこ抜く。
そして刈った草はゴミ袋に入れる。
10月ということもあってか、そこそこ気候は8月に比べたらマシである。8月だったら暑いし、日に焼けるしで散々だってであろう。
それでも日中はそこそこの気温だし動いていれば汗が出るくらいの暑さは感じてしまう。
「ふう」
俺は首にかけたタオルで汗をぬぐった。まただらっと汗をかいてはタオルでぬぐう。この作業の繰り返し。
ゴミ袋いっぱいに草が入ると、別のゴミ袋を用意する。1つのゴミ袋を満タンにすると少しだけ仕事をやり切った感じが出る。
と言ってもまだまだ庭の草はいっぱいある。田舎の広い庭も結構手入れが大変なものなんだなと思う。
「あ、狩谷さん。見てください。なんか変な虫の幼虫がいますよ」
「ん?」
修二君に言われて俺は変な虫の幼虫を見た。確かにこれは変な虫の幼虫である。地面を掘り返したら出てきた。恐らくは冬に備えて冬眠の準備でもしているのだろうか。
「埋めとこ」
「埋めるのかよ」
まあ、地面の中から出てきたんだったら埋めた方が良さそうだな。
「ふう……」
中腰でずっと作業していた俺は腰が痛くなってきたので、一旦立ち上がり腰をひねって運動をする。
ずっと同じ体勢でいるとどうしても体が凝ってしまう。これはパソコン作業でも同じことだ。定期的にストレッチをして体を動かさないと人間は腐ってしまう。
肩と腕も回して気合を溜める。
「よし!」
俺は再び草を刈り始めた。流れた汗の量も増えてきて、そろそろ水分が欲しくなってくる。俺はクーラーボックスから麦茶を取り出して、それを飲む。
「あーうめえ」
肉体労働して汗をかいた後の麦茶は最高にうまい。渇いた体に水がしみわたる。ほとんど無味に近いこの味もうまいと感じるもんだから不思議なものだ。
喉が潤ってくると心が落ち着いてくる。疲れた体も少し癒えたような気がして作業効率が上がったような気がしてきた。
そのまま草を刈り続けて2つめのゴミ袋が半分ほど埋まった時のことだった。
「みなさん。そろそろ休憩にしませんか?」
真木さんの奥さんの友梨佳さんが大きめのランチボックスを持ってやってきた。
「おお、悪いな。それじゃあちょっと休憩しようか」
真木さんが立ち上がり友梨佳さんから大きめのランチボックスを受け取った。
ランチボックスを開けると中にはローストビーフサンドイッチが入っていた。トーストにレタスとローストビーフを挟んでいるもの。中々にうまそうである。
「手を拭いてから食べてね」
友梨佳さんがお手拭きを俺たちに配ってくれた。それで手を拭いてからローストビーフサンドイッチを手に取る。
「いただきます」
俺はサンドイッチを食べた。口の中にパンのもさっとした感触が広がり、噛むとシャキっとしたレタスの食感が広がる。
甘酸っぱいソースがローストビーフによく絡んでいて全体の調和が上手い具合に取れている。
パンもそれなりに硬いもののなんどか咀嚼している内にレタスの水分がパンに沁みこんできて丁度噛みやすい硬さに変わっていく。
炭水化物・野菜・肉。それら全てが同時に取れて、疲れた体にガツンと気合が入っていくようである。
「どうかしら?」
友梨佳さんが少し不安そうに俺たちを見ている。
「うまいっす! 最高っすね! これ」
先に修二君が感想を言った。むしゃむしゃと勢いよく食べていて本当にうまそうに食べている。
「お口に合ったようで良かった」
「そうですね。これかなりうまいですね。ありがとうございます」
俺も友梨佳さんに感謝の言葉を伝えた。一仕事した後の食事だからこそ更にうまく感じるというのもあるけれど、それでも友梨佳さんは結構な料理上手だと俺は思う。
「あなたは何かないの?」
「……まあ、うまいな。ありがとう」
友梨佳さんに催促されて真木さんも味の感想を言った。なんか夫婦特有の空気感というか、人前で妻を褒めるのがなんか照れくさそうななにかを感じ取った。
ローストビーフサンドイッチを食べ終わった俺たちは力がみなぎってきて、更に草むしりに精を出した。
それから俺たちは日が暮れるまで作業をした。3人でなんとか庭中の草をむしってむしって、むしりつくしてなんとか作業を終えることができた。
「ふう。みんなお疲れ様でした。それでは、手伝ってくれたお礼にこれを……」
真木さんは俺たちに茶封筒をくれた。
「ありがとうございます真木さん」
俺たちは真木さんにお礼を言った。しかし、真木さんは照れくさそうに笑った。
「いやいや、お礼を言うのはこちらの方ですよ。今日は貴重な休みの時間を使わせてしまって申し訳ない。ありがとうございました」
「いえいえ。みんなで草むしりして楽しかったですよ」
修二君がフォローをする。
「まあ、俺はあんまり休みが貴重という感覚がないので……」
少し自虐っぽく俺は答えた。
こうして俺は真木さんの家の草むしりを終えた。かえってすぐにシャワーを浴びて汗を流し風呂に入った。
風呂につかると、疲れが蓄積した体がほぐれていってとても気持ち良かった。
「あー。いいなー。これが肉体労働の後の風呂かー」
思わず風呂の中で眠ってしまいそうになるくらいの幸福感を俺は感じていた。
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